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1章完結 ハンター試験⑩約束

 二次試験を終えたルイたちは疲労困憊という言葉が似合うほど、疲れがどっと身体に押し寄せてきた。しかし、心は高鳴っている。やっとハンターになれたのだ。


 ただ三人はまだ気になることが。それはタクトという男。そしてチェインという力の謎。


 その疑問を解決するべく、彼らはカルマの家を訪れた。家に入ると、カルマとハンナ。それに見たことない男性が二人、女性が一人。一瞬戸惑うも、普段と同じようにカルマの前に座った。


「ルイ、レオ、エマ。まずは二次試験突破おめでとう。夢への第一歩。それを達成できたのはお前たちの日々の研鑽の賜物じゃ。これからも精進するようにな。……さて。まずはどこから話をしようかの。何から聞きたい?」


 レオが強い視線をカルマにぶつけた。


「あのタクトって男は一体何者なんだ。わけわかんねぇこと言ってたぞ。この国の人間か?それとも他国の敵か?ろくな奴じゃない。」


 その時、背の高い茜色の短髪の男性がレオにガンを飛ばす。


「おい。ガキ。二次試験に受かっただけのペーペーが随分偉そうな態度じゃねぇか。舐めたこと言ってるとやっちまぞ。」


 睨み合う二人を尻目にカルマは高笑い、ハンナは頭を抱えていた。カルマは穏やかな顔でその男性に声をかける。


「タイガ。よしなさい。この子たちからしたらタクトはいきなり襲ってきた賊と変わらん。」


 ルイは眉間に皺を寄せ、思慮深い顔をした。そしてカルマを見つめた。


「ねぇ。あの人は何なの?どういう関係なの?」

「タクトはな。儂の初めての弟子じゃ。そして、ここ居る三人。タイガ、ハル、ユーリはタクトの弟子。階級は翔。優秀なハンターじゃよ。」


 階級が翔のハンターは全ハンターの中で五十人しかいない。いわばトップハンターたちだ。


「そして、ハンナは儂の姪であり、あとは……。話していいか?」


 とカルマが声をかけると、ハンナは目を瞑ったまま小さく頷いた。


「ハンナはタクトの婚約者じゃ。」

「カルマ……。語弊がある。元だ。今となってはあいつは賊。捕まえねばならん。」


 ルイがさらに眉間の皺を深く刻む。その時、横に座っていたエマが前に身を乗り出し、


「待って待って待って。こんなすごい人たちの師匠があの人?なんであんな人攫いみたいなことしてるのよ。」


 とカルマたちに困惑の色が滲む瞳を向けた。


「タクトも昔は空を目指す優秀なハンターじゃったんだ。日々の行いには少し目を瞑る者もあったがの。史上最速で螺に昇進。皆から慕われていた。次の空となる逸材だと信じておった。ただ現実は彼に厳しかったのだ。親友、そして育ての親をハンター協会の貴族に殺された。それがきっかけじゃ。」


 それを聞いたレオは首を傾げる。


「なんで協会がそんなことすんだよ。そんなことしてなんの意味があんだ。」


「貴族はハンターを下に見てるからな。特にタクトのようなハンターは嫌われるんだ。うるさくて、人間味のあるハンターをな。」


 とハンナが呟く。ルイはまるでタクトの過去を受け入れたように淡々と話すハンナたちに驚いた。ルイの胸の中がざわついていく。


「でも。協会の貴族がそんなことできるんですか?それにそんなことをされて……。なんであの人は……。」


 とルイが声を上げると、腕を固く結んでいたタイガが口を開く。


「タクト兄は協会の貴族どもを殺したからな。それがあの人の罪だ。仕方ねぇ。」

「それでも、元々は貴族の人が仕掛けたんだから……。他のハンターたちは何をしてたんですか。それなら……。」

「わかったような口を聞くんじゃねぇクソガキ!」


 タイガはルイの胸倉を掴んで、乱暴に持ち上げた。その時、大きな丸目のややあどけなさの残る女性。ハルが「ちょっとタイガ。」と声を上げる。


「黙ってろ。いいか。ハンターってのは善良な生き物じゃねぇんだ。金さえ払えば何でもやるやつだっている。貴族だってそうだ。ハンターの中に貴族のガキがいるのをてめぇらは知らねぇよな!あいつらは親の権力を使って何でもやるぜ。トーリ兄とおばさんを殺したあのゴミも!それを隠したあのハゲも!そいつらに雇われたクズも!全部全部全部!ハンター絡みなんだよ!」


 と混乱し瞳を彷徨わせるルイに言葉をぶつけた。


「タイガ。もういいでしょ。子供に当たるなんてアンタらしくないわよ。」


 とハルに諭されたタイガは舌打ちをして、ルイを放した。


「ごめんね。大丈夫?」とハルは優しく俯くルイを覗き込む。


「すまんの。ルイ。でもタイガが言ったことはすべてほんとじゃ。だからと言ってタクトを野放しにはできない。タクトはな。ハンターそのものをなくすつもりなんじゃ。そしてハンターになる子供を止めたい。それだけハンターという職に恨みを持っておる。」


カルマの表情はいつもと変わらず柔らか。しかし、視線は落ち、瞳の奥にどこか悔いの念が浮かぶ。レオが腕を組み、真っ直ぐカルマに視線を注ぐ。


「それで。それを俺たちに話してどうしろってんだ。」

「お前たちがタクト兄を止めるんだ。」


 とタイガの横に立っている肌が微かに青白い細身の男性。ユーリが抑揚の少ない声色で言った。


 一瞬冷え込むような沈黙が流れる。そしてタイガはいかつい目で眠そうなユーリに詰め寄る。


「バカかお前!こんなチビどもに何ができるっていうんだ!」

「俺は真面目だ。俺の勘がそう言ってる。そう。勘だ。」

「引っ込んでろ!」


 彼らがわちゃわちゃと騒いでいる中、


「寂しいな。」


 とルイがぽつりと呟いた。するとカルマがルイを覗き込む。


「ルイ。寂しいとはどういうことかの?」

「いや。あの人と対峙した時に伝わってきたんだ。怒りとか憎しみとか。そういうのもあるとは思うんだけど……。」

「他にも何かを感じたか?」

「罪悪感、無念、後悔。そんな感情が伝わってきた。もう自分じゃどうすることもできなくて、もがき苦しんでた。」


 ひと時の沈黙が流れる中、タイガは眉をぴくぴくと動かし、拳を握りしめた。


「俺はもう帰る!これ以上こいつらと話をしててもしょうがない。行くぞ。」


 そういうとタイガたちはカルマの家から出ていった。ルイは彼らを視線で追うと、ユーリがルイにグッと親指を立てていた。




 そして再び、部屋に沈黙が流れる。


「タクトのことを一番慕っていたのがタイガなんじゃよ。あやつもあやつで未だに揺れ動き、迷っておる。ルイの言ったことが本当なら儂はまだ希望が持てるんじゃが。」


 とカルマは長く伸びた白い髭を撫でながら天井を見上げた。そんな中、ずっと腕を組んでいたハンナがその腕をほどき、ルイたちに柔らかい視線を向ける。


「ひとまず、今日の試験で君たちが無事で本当によかった。タクトのことは私たちに任せなさい。他に聞きたいことはあるか?」


 ルイはふとチェインという言葉が頭をよぎった。ミアも使ったチェイン。どうすればできるのか。それがそもそも何なのか。ルイは知りたくなった。


「あの。チェインというのは一体何なんですか?」


 ルイが彷徨う視線でカルマたちに視線を送る。カルマがじっくり三人を見渡すと、


「チェインとはな……。それはな……。儂にもよくわからん。」と気を抜けた声で答えた。

「……カルマ。よくそれで空の職務を全うでできたもんだ。」


 とハンナは表情を崩し、カルマは高笑いしていた。


 ルイたちは目を見開き、「えぇ!」と声を張り上げて驚いた。彼らは口をあんぐりと開けて固まった。


「説明してなかったのか?本当に昔から大事なことを話さない人だな。」

「こりゃ傑作!たまげとるわい。そう。儂は空のハンターじゃ!」


 小さくため息をつくハンナの横で、カルマはピースサインをルイたちに向けた。


 ルイたちはカルマに詰め寄り、先ほどの空気が嘘のように表情を活き活きとさせ、質問をぶつけた。ひと時の間、部屋がにぎやかで明るい空気に満たされた。ひとしきり騒ぐとハンナがルイたちに刀を見せた。


「ひとまずチェインの説明は私からしよう。カルマも刀を見せてやってくれ。」


 カルマとハンナはルイたちの前に刀を置いた。見たところ普通の刀。漆塗の鞘。柄も各々模様は違うもそこまで違いはない。しかし、あるところにエマの視線が止まる。


「鍔の形がなんだか不思議ね。」


 多くの人が持っている刀は鍔がただの円状。しかし、カルマの鍔は波形。そしてハンナの鍔は三本の線が波打ち、水の流れ思わせる形をしていた。ハンナが自分の刀を手に取り、抜いて見せた。


「チェインが使えるものは決まってこういった鍔刀を使う。そして問題なのが、どうやったらチェインを使えるのか。それが解明されていない。」


 すると、レオが真っ直ぐに強い表情をハンナにむける。


「解明されてないって。なんかあんだろ。できるようになったきっかけとかそういうのが。」

「私の場合は死に直面した時。気づいたらこの刀を握っていた。ルイ。ミアもチェインを使えるんだろ?何か覚えてないか?」

「たしかあの時……。エマが危なかったんだよね。その時ミアがチェインを使えるようになったと思います。」


とルイが語ると、回答を求めるようにカルマに視線を預けた。


「出会いのようなものじゃ。だからこそ、いつなのか。どこなのかわからない。まぁ。焦ることはない。儂は誰しもチェインを使えると思っとる。いつの日かそれが自分を、または大切な人を守るときに使えるようになるじゃろう。」


 カルマは感慨深い眼差しをルイたちに注く。その時、ルイはあの不思議な力を話そうとしたが、なぜかそれが喉の奥で使えて出てこない。ひとまずこの場でそれを話すのはやめた。




 ルイたちはカルマの家を出た後、各々の家へ歩いていった。しばらくルイが一人で歩いていると後ろから「おい。」と声がする。後ろを振り返ると、そこにはレオが。彼が「着いてこい。」というのでルイは彼の後を追った。



 着いたのは昔よく遊んでいた広場。レオはそこに腰掛けたので、ルイは不思議そうな顔つきで彼の横に座った。手を着くと、柔らかな草の感触が伝わる。心地よい風が草木をカサカサッと静かに揺らす。静けさが漂う中、その音だけが聞こえる。


 すると、レオは眉間に皺を寄せておもむろに口を開いた。


「ハンター試験であのタクトって男をぶっ飛ばしたのお前なんだよ。俺はお前じゃないと思ってるけど、身体はお前だった。」


「えっ……。どういうこと。」とルイの表情に困惑の色が滲む。


「今から話すことは誰にも言わないって約束しろ。」


 それからレオはあの時起こったことを事細かに話した。


 ルイが気絶した後、何かに乗っ取られたように暴れていたこと。それがタクトを圧倒する力も持っていたこと。徐々に凶悪な姿に変貌し、不気味に力が溢れていたこと。エマたちに手を上げようとしたこと。そして不思議な白い髪の女性が暴走したルイを止めたこと。


 レオは淡々とそれをルイに伝えた。ルイは話を聞き進めていくにつれて徐々に顔が青ざめていった。そして顔を俯き、唇を震わせる。


 あの時、自分に何が起きていたか全く覚えていない。でも怒りや憎しみが身体に、脳に、そして心に纏わりつく、その感覚だけは覚えていた。それは確実に自分自身の心が抱いたもの。


 ルイは両膝を抱え、背中を丸めた。その気落ちした姿を見たレオは、


「すまん。でも何かあってお前が悲しむのを見てるのは俺が嫌だったからよ。」


 と沈んだ声色で遠くを見つめた。


「いや。レオは悪くないよ。これは僕の問題なんだから。そう……。」


 とルイは考えている振りをした。頭の中が混乱し何も考えられない。どうすればいいかもわからない。


「でもよ!安心しろ!」


 とレオが勢いよく立ち上り、ルイに活き活きとした顔を向ける。


 ルイは「え?」と小さく声を溢し、レオを見上げた。


「約束してやる!お前がまたそうなっても俺が止めてやる!我を忘れて、誰かを傷つけそうになったら俺がぶっ飛ばして正気に戻す。お前の傍には最強になる男がいるんだからよ!」


 レオの声には強い意思に裏付けられたような響きがあった。


 ルイの固まっていた口元が緩む。曇った表情が暖かく溶けていく。


 ルイは膝に手を当て、グッと力を入れて立ち上がった。二人の熱い視線が交わる。


「俺が強くなるために、お前も強くなれ。ずっと俺のライバルでい続けろ。」


 レオはルイの前に傷だらけの拳を突き出した。


「ありがとう。僕も絶対に負けないから。」


 ルイはその拳にコツンと自分の拳を合わせた。


 星々が二人に意思を祝福するように、明るく、そして美しく輝いていた。

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