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プロローグ

ハンターはある一人の男から始まった。彼は災獣によってすべてを奪われた。友人、家族、そして恋人も。


そして決意したのだ。自分以外にこんな思いはさせない。強くなってみせると。

手の皮が向けて血が出ようが、身体が悲鳴を上げようが、幾日も刀を振り続けた。


ある時、男はある場所にたどり着く。それがこの蓮の國の前身となる地。風流を感じさせる美しい木造の出梁造りの街並みが次々と倒壊していく。凶暴な爪と鋭い牙を持つ狼型の災獣、建物を超える赤い目を持つ熊のような災獣。多種多様な災獣たちが人々の生活を奪っている。


男は築き上げてきた力を災獣たちに振りかざし、一匹、また一匹と災獣たちを切り捨てていく。


そして、この地を襲う災獣たちをすべて葬り去った。この地は恐怖から解放され、この國を建国。そして、悪しきものからこの國を守る者、ハンターという職を制定。今現在でも彼の意思が絶えることはなく、ハンターたちはこの國を守り続けている。




「というのが、この蓮の國。そしてハンターの歴史じゃな。」


カルマは目の前に座る小さな三人の子供たちに皺の入った顔で微笑みかけた。その中の目尻の少し切れた子供が大きく口角を上げ、勢いよく立ち上がる。


「くっそかっこいいな!おれは将来絶対に最強のハンターになってやる!」

「ばかね。レオがハンターなんかになったら真っ先に食べられちゃうわよ。」


人形のようなかわいらしい顔立ちのエマが、レオを小ばかにするように言った。


「うるせぇ!なぁ。ルイ。お前もハンターになれよ。俺の次ぐらいには強くなれると思うぜ。」


レオは片眉を上げながら、行儀よく膝を抱えて座っているルイを見た。ルイは小さくした身体を前後に揺らし、ただ床を見つめる。少し癖のある柔らかな髪が身体の動きに合わせて小さく揺れる。


「僕は……。あんまり戦いたくないかな。」


と細い声で呟く。そして、傷だらけで岩のようなカルマの手に視線を移す。


「ねぇ。カルマは昔ハンターだったんでしょ?どうしてハンターになったの?」

「……約束したからかの。」


切れ長の目を閉じ、ゆっくり息を吐いて天井を見つめる。


「理由なんて結局後付けじゃ。ハンターになりたいと心からそう思ったならば、迷わずその道へ進めばよい。」


ルイは暗い深緑色の瞳でカルマを見つめ、小さな手を胸に当てた。


(心からってどういう感じなんだろう……。)




街の灯りが消え、夜が更けた頃。ルイ、レオそしてエマの三人は薄暗い森の中を歩いていた。


カルマの話を聞いたレオがどうしても今冒険をしたいと言い出した。ルイとエマは必死に止めたが、こうなったレオは止められない。かくゆう二人も内心わくわくしていた。


月の明かりが差す森を進むと、生暖かい風がルイの汗ばんだ首筋に触れる。横のエマに視線を移すと、ガラス玉のように大きくて丸い瞳が微かに震えている。ルイは先頭に立ち、迷わず前に進むレオの背中に目を向ける。


「レオ!これ以上は危ないって。さすがに戻ろう。」

「なんだよ。ビビってんのか?災獣なんて来ても俺が倒してやるよ!」


とレオが拳を突き出して見せた。それを見たエマは張った声で、


「あんたみたいなのが倒せるわけないでしょ!」

「そんなこと言って災獣が来ても守ってやんねぇぞ!」

「いいよー。私はルイに守ってもらうから。」


とエマは横にいるルイにわざとらしく身体を寄せた。ルイはエマの身体が小さく震えていることに気づく。胸の中に焦燥が灯る。


「レオ。戻ろう。何かあってからじゃ危ないって。」

「うるせぇ!進ったら進むんだ!俺一人でも行くからな。」


その時、獣の咆哮が森に木霊した。森が急にざわめく。ルイは周囲に視線を走らせた。そして奥の暗闇に怪しげに赤く光る何か。それがゆっくりと近づいてくる。


ルイの背中に冷たい汗が伝う。そしてゴクッと喉を鳴らして唾を飲み込む。暗闇から耳が立つ大きい犬型の災獣が。灰色の体毛は太く、隆起した筋肉質な身体。鋭い爪や牙は簡単に人を切り裂けそうだ。それが涎を垂らしながらがルイたちに迫る。


「なんだよ。犬っころ一匹じゃねぇか。」


レオは震える声で強がって見せた。ルイは丸い目を細めて森の奥を覗いた。


「違う。後ろに何匹もいる。」


森の奥に赤い輝きが八つ。それらがルイたちをまるで味見をするようにゆっくり迫ってくる。

ルイたちは身体を寄せあった。そして災獣たちから目を反らさぬよう、静かに後退した。ルイは理解していた。背中を向ければ、命がないことを。


その時、エマが「あっ!」と声をこぼす。地面に隆起した木の根に足を取られ、尻餅を着いてしまった。


それが合図かのように、災獣が咆哮を上げる。ルイたちに飛び掛かってきた。レオは災獣に背を向けてエマを抱きしめた。ルイの視界が災獣で覆われていく。


ルイは二人の前に立ち、小さな体を必死に広げた。無意識に身体が動いた。時の流れが緩やかになったようにゆっくりと鋭い爪が近づいてくる。ルイは目をギュッと瞑り、「うわぁ!」と力いっぱい声を張る。


その瞬間、地面が命の息吹を得たように翡翠色に光輝いた。その光がルイの中心に花が咲くように広がる。


ルイが恐々と目を開ける。災獣の爪が目の前で静止していた。他の災獣も動かない。地面の光が徐々に薄れていく。咄嗟にルイは二人を手を引っ張った。


ルイの身体に二人の身体が覆いかぶさる。そしてその光が消えると、すべてが動き始めた。目の前から獲物が消えた災獣たちは混乱したように咆哮する。


突如ルイに割れるような頭痛が押し寄せる。原因はわからない。しかし、経験したことのない痛みと不快感。身をよじり、激しい呼吸を繰り返す。


「なんだ!どうなった。おい!ルイ!大丈夫か。やられたのか?」

「ねぇ!ルイ!大丈夫!?死なないで!」


激しい耳鳴りでレオとエマの声は届かない。レオは苦しむルイを見た後、力強く立ちあがった。エマは涙を浮かべ、小さな身体を震わせる。


「畜生!俺が相手をしてやる!」

「ばか!そんなことしたら死んじゃうでしょ!早く逃げなきゃ!」

「お前たちだけでも逃げろ。おれは逃げない。」


彼の前にいる災獣はただ涎を垂らし、不気味に見つめる。いざ目の前にすると、身体が硬直する。蛇に睨まれた蛙とはこのことだ。


レオは弱気を散らすために、ぐっと奥歯を噛みしめそれを睨みつける。その時、横に気配を感じ、目を向けるとルイがいた。身体をふらつかせ今にも崩れ落ちそうな。甲高い呼吸を繰り返す彼にレオが、「エマ!ルイを連れていけ!」と声を上げた。


しかし彼女は腰を抜かし動けない。その時、ルイの霞む視界が陰る。彼の目の前に災獣が聳え立つ。それがに向かって大きく前足を振り上げる。レオは固まって動けない。ルイは覚悟した。身体はもう動かない。これで人生が終わることを。



その時、二人の頭上を何かが通り過ぎ、突然災獣の頭が地面に落ちた。ルイが奥に目を向けると、そこには全体が白地のコートを着た男の人。彼はルイたちに微笑みかけた。


「もう大丈夫。あとは任せて。」


安心する柔らかな声。月夜に輝く白みがかった細い金色の髪がそよ風になびく。ルイは緊張の糸が切れたように地面に崩れ落ちた。必死に肺に空気を取り込み、霞む目を擦りながら彼の薄い空色の瞳を見つめた。


彼は災獣に身体を向けるとと突如姿が消した。気が付くと災獣の懐に。彼はただ切り上げた。針金のように太い毛、筋肉質な首筋に滑らかに刃が入る。そして首が地面に落ちる。危機を察した残り災獣が彼に一斉に襲い掛かる。彼は飛んだ。身体を宙に浮かぶ。そして、刀を一度だけ横に振った。空中で災獣の身体は頭から尾まで真っ二つに。地上に舞い降りた彼は血を拭うために刀を払い、ゆっくりと鞘に納めた。


気が付くとルイの瞳はきらきらと輝き、彼に見入っていた。やがて彼が歩いてきて、優しく頭を撫でられる。ルイが見上げた彼の瞳は微かに潤んで見えた。


「間に合ってよかった。じゃあ帰ろう。」




ルイたちは彼に連れられ、無事に街に戻った。エマの家族は彼女を思いっきり抱きしめ、レオの母はレオに思いっきり拳骨をした。真夜中とは思えないほど人の声が飛び交う中、その光景をルイはただ眺めていた。


ルイには家族がいない。両親の記憶もない。今よりもっと小さい時、森でカルマに拾われて、ここに住んでいるからだ。少し羨ましそうに見てるルイの頭にごつごつとした手が触れる。


「よく無事だったな。でももうこんなことしたらダメだぞ。」


カルマは安心した声色で言いながらルイの頭をそっと撫でた。ルイとカルマの後ろから足音が聞こえる。二人が振り返ると、ルイたちを助けてくれた男の人が。やや薄めだが端正な顔立ち。彼はどこか難しい面持ちをしていた。


「じゃあ。僕はこれで。もうここには来ないと思います。」

「そうか……。もうあいつらのことは忘れたらどうじゃ。お前さんはタクトやトーリではないのだから。自分の人生を生きなさい。」


彼はカルマに一礼し、再び夜の森に向かって歩き出した。


「あの……。助けてくれてありがとうございます!」


ルイは彼の背中に向けて声を張った。そして彼は振り返ることなく手を上げ、森の中に姿を消してた。


「カルマ……。あの人それにすごくかっこよかった。どうやったらあんな風になれるの?」

「それはな。誰よりも頑張って頑張って。少しずつ。少しずつ強くなっていったんじゃよ。」


 カルマはルイに視線を向け、口元に弧を描いた。ルイは彼の姿を思い出していた。もう駄目で、自分ではどうしようもできなかった時に、助けてくれた、勇ましく、強い彼の姿を。


「ねぇ。僕もハンターになりたい。あの人みたいに誰かを助けられる。ヒーローのようなハンターに。」


空には陶酔するほどの、星月夜が広がっていた。胸の高鳴りが収まらない。頭で考えたわけでもなく、誰かに諭されたわけでもない。自分の心で感じた。ハンターになると。


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