【Epi2】 瑠璃が好き?
「優月先輩?」
優月が歩み寄ると瑠璃は驚いたように目を丸めていた。
「美優にクリスマスパーティーの買い出し頼まれちゃって」
彼はそのまま言って笑った。
「…そうなんだぁ。あ、定期演奏会お疲れ様でした」
「ありがとう」
優月は優しく笑い返した。
「で、何見てるの?」
次に彼が訊ねた。すると瑠璃は熱心に見ていたポスターを指さす。
「点火祭だよ」
「点火祭?」
ほら、と瑠璃は小さい指を伸ばす。
「イルミネーションの点火祭!」
「へぇ、ここの近くなんだ」
紙面には、キラキラと光るイルミネーションのイラストが貼り付けられていた。12月24日〜26日まで!と可愛げなフォントの横には赤いサンタが突っ立っていた。
「…でもね、」
しかし瑠璃は顔を少しだけ埋める。
「みんな行かないんだって」
「あらあら、受験勉強だから?」
「うん。東藤行くの私だけだから」
それを聞いて優月は徐にスマホを取り出す。
「…優愛ちゃんに頼もうか?」
そしてこう尋ねた。
「…」
しかし瑠璃の顔色が真っ青に塗りたくられた。
「…優愛お姉ちゃん、香坂先輩たちと行くんだって」
「そ、そうなんだ」
香坂白夜。茂華中学校元部長だった女の子だ。
「どうしょう」
瑠璃は心底困っているようだった。そもそも瑠璃は1人が大嫌いなのだ。
(…想大くんはどうだろう?)
「…ねぇ、想大くんはどう?」
優月は一部の望みをかけて訊ねる。
「想大くん…いいの?」
「うん。本人に聞いてみたら?」
「うん!」
「じゃあ、頑張ってね」
優月は最後、そう言って彼女と別れた。
その心は心配に満ちていた。
(優愛…お姉ちゃんみたい…)
だが瑠璃は、優月の姿を優愛と重ねていた。
スーパーを出て電話する優月は顔をしかめた。
「えっ?美玖音ちゃんと?」
『ああ!オッケーもらってな』
「…ふーん」
朱雀美玖音。どうやら彼女の顔が想大のタイプだったらしく、今は猛アタック中なのだ。
『どうかした?』
「…いや、何でもない」
想大の声には喜色が含まれている。これを邪魔するのは何だか気が引ける。ならばと黙った方が良いと思ったのだ。
「それにしても…美玖音ちゃんと行くんだ」
『ああ。後輩も彼氏と行くらしくて暇なんだって』 「そう」
仕方ないな、と優月は諦めた。瑠璃には申し訳ないが、これなら諦めたほうが早いだろう。
「…瑠璃ちゃん、放っておけないんだよなぁ」
今まで瑠璃のことは想大が何とかしてくれる、と思っていただけに悩み深い。
「…どうしょうか」
その悩みは結局、家に帰っても続いた。赤と緑の折り紙を切っては、糊で貼り付け、繰り返すうちに蛇のような長さに達していた。
「これくらいで良いのかな?」
何も置かれていない机上に、赤と緑の輪っかを並べる。乱雑に並べてしまっては絡まってしまう。丁寧に置いた彼はベッドに寝転がった。まだ定期演奏会の疲れが抜け切っていないのだ。
(点火祭…かぁ)
瑠璃が行く24日は明後日だ。25日は家族とクリスマスパーティーをするという。
「24は丁度、終業式だよなぁ。帰り早いし、どこかで時間でも潰してから行こうかな?」
茂華のレジャー施設は家から少し遠い。ならば学校がある日に駅から直接行く方が早いのだ。
「…そうしよ」
取り敢えず、瑠璃と同じ日日に行くことにした。
そして出来た輪っかを壁にかけ始めた。
「…美優」
「んー」
美優は早寝タイプだが、今日は珍しく寝つきが悪いようで、こたつでテレビを見つめていた。
「ここなら邪魔にならない?」
「ならないと思うよ」
美優が言うので大丈夫だろう。優月はリビングいっぱいに折り紙の輪っかを貼り付けた。
「…うん、壮観」
ジャングルの如く溢れる紙のツタたち。元美術部と豪語しただけのことはあった。
その時、美優がこちらを見つめる。
「…そういえば優月クン」
それから案の定、質問を投げかけてきた。
「ん?」
「どうして演奏会に古叢井先輩が来てたの?」
その問いを聞いた時、優月の心臓がドキリとした。
「…いたんだ」
とにかく知らないフリをする。
「いたって…話してなかった?」
その声は完全な疑惑に満ちていた。
「ま…まさか…、人違いじゃない?」
「本当に知らないんだ。てっきり2人は付き合ってるのかと」
「ふぁ?」
咲慧だったのならいざ知らず。まさか瑠璃と付き合っていると思われているのか?
「どうして僕が…古叢井さんと?」
「今、学校で少し噂になってるらしいよー」
それを聞いて、心臓が激しく暴れ回った感触に襲われてしまった。
(…な、なんで?会う時は人がいない時にしてるのに)
「…なに?優月クンって古叢井先輩が好きなの?」
その声は興味に満ちていた。はっきり言って迷惑な発言だ。優月は好きな人がいない。
「なんでそうなるの?噂に尾鰭がついただけなんじゃね?」
思わず動揺してしまったが、何とか誤魔化した。
事実、瑠璃のことを恋愛として見たことはない。




