第5章 6年生の赤休み
「ガスパール、いつまで落ち込んでるの?俺はもう大丈夫!」
「私はもう、ロギ様のお側を離れません!イヤだと言ってもついていきます!」
号泣するガスパール。
「じゃ、今からケプランに行くからついてきて」
「はい!それから、マーヤですな、ドラゴン便の手配をして参ります!」
ティムとチェンバーは、購買でノートやペンなどの補充をしている。
俺は4人の荷物と、持って行けるだけの食材を魔法カバンに詰め込む。
また、炊き出しになるだろう。マーヤ語がカタコトで話せるようになったから、現地の人達とのおしゃべりも楽しみだ!
ヒューズ商会に寄るのも楽しみだし、……そういえばレシピ代幾ら貰えば良いだろうか?
「ロギ、何考えこんでるの!はい、僕らに相談!!」
明るいティムと賢いチェンバー。
かけがえのない仲間たち。
「あ……レシピ代幾らにしようかって」
「「大金貨1枚でいい!!すぐ回収できるから!」」
もふもふと抱き付かれてホンワリ心まで暖かくなる。
「わかった。そうする!」
「でも、基本的な系統は教えてるから、何が知りたいんだろ?」
「普通のお菓子かもしれないね」
「青月の星によってお土産買うか」
3人でお茶してるとガスパールが帰って来た。
「昼の便で参ります。準備はよろしいですか?」
「青月の星に寄りたい!」
「では、このまま出発しましょう」
表に止まっている乗り合い馬車に乗り青月の星までお菓子を買いに行く。
ありとあらゆるお菓子を木箱1個分買って魔法カバンに入れようとしたら入らない!
ガスパールの魔法カバンに預かってもらった。
商業ギルドで白金貨1000枚を引き出すと、ガスパールに旅の資金として預けた。
これで準備万端だ!
ドラゴン便は満席で、ケプラン商業国が人気の観光地なんだと、思い知る。
関所でまた野営するのかと思ってたら、2回目からの入国審査はユルいらしい。
夜までにヒューズ商会にたどり着き、リチャードさんとピオさんと感動の再会を果たした。
「大変だったね?でも大丈夫!あのレシピ本間違ってるから、サブレ・ディアマンテだって、ただの美味しくないクッキーだったから!アハハハ!」
「ピオさん本買ったの?!」
「買わないよ!レシピ本買ったマヌケの店でサブレ買っただけ。店によって味はバラバラ美味しいと思えたのは1~2軒。でも、ロギくんが教えてくれたサブレではない!だから、落ち込まなくていい。さ、今日は遅いから、夕飯作って食べさせて」
「ピオさん……ありがとうございます」
「いやいや、何々。ライバルの偵察したつもりが拍子抜けだったって言う話さ!」
優しい人。こんな人達がいるから、人との繋がりを辞められない。
「今日は、ごちそうにします!」
「「やった~!ロギのごちそう楽しみー!」」
あ、本気の笑顔の2人なんて久しぶりだ。
魔法カバンを開けると海鮮物が飛び出してきた。帆立貝の貝柱のロールキャベツとスープはブイヤベース、肉はブルーパイソンの1番良い部位とブルーチーズが入っていたから、ステーキのブルーチーズ掛けだ。バケットを焼いて適当にカットして籠に入れて出来上がり。
エルフの里の皆に感謝していただいた。
「ロギの本気、サイコー。もう動けないよ」
「私も久しぶりにこんなに食べさせていただきました。美味しかったですよ、ロギ」
ヒューズ商会の皆さまは大人なだけあって、まだまだ食べられるらしい。自らお替わりしてる。
あ~、炊き出しの奇蹟起きちゃってるや。
ま、いいか!楽しいし。
ロブスターのアメリケーヌ風やら、ステーキのブルーチーズ掛けを追加で作っていると皆、列に並ぶ。動けないハズのティムとチェンバーが洗い物をしてくれている。
お腹がポッコリ出てて妊婦さんみたいだ。しかもお腹を擦ってるから可笑しくって仕方ない。
「無理して片づけなくていいよ?もう、休んだら?」
チェンバーが迫力満点の顔でそれを拒否した。
「今寝たら明日には確実にブタです!カロリー消費してから休みます!」
「……た、助かるよ、チェンバー、ティム」
結局真夜中まで、かかって片付けて、まだ、カロリー消費が足りないとチェンバーに風呂に付き合わされてクタクタになって寝た。
起きたのは7:00で、慌ててコックコートに着替えて厨房に急ぐ。何であの二人は起こしてくれなかったかなぁ?!
厨房に着くとちょうど賄いの最中で、ティムの作ったポトフをフォカッチャと楽しんだ。
トレーに食事を載せたピオさんが調理台を挟んで座り、俺に話しかけた。
「おはよう、昨日はごちそうになりました。美味しかったよ。しばらく忘れられないかも」
それは嬉しい!
「今日は、何教えてくれる?」
チェンバーを見た。チェンバーはまだお腹いっぱいらしくてお腹を擦っている。
「エクレア教えていい?チェンバー」
「ロギさえよければ良いですよ。ガトーショコラ教えられないならそれぐらいしかないでしょう。一応木箱に詰めて来たお菓子も食べてもらって決め手がなかったら教えて差し上げれば良いです」
「木箱のお菓子、食べたい!出して!」
「ガスパール!お菓子持って来て!」
リチャードさんの隣りに座っていたガスパールは焼き菓子が入った木箱を調理台の上に置いた。菓子職人達はそれに一斉に群がり一人一口の試食を始めた。
真剣に食べてるが、朝食の後でそんなにいっぱい食べられるのかよ!ドン引きするぜ。
「ガレット・ブルトンヌとポンヌフとエコセーズと、シュークリームを教えて欲しい!」
「お任せ下さい!」
職人技が光るお菓子を選んだな。
ポンヌフもエコセーズも模様入りの可愛いお菓子だ。ガレット・ブルトンヌはその美味しさにひれ伏せよ!って感じのただ者ではない焼き菓子で、俺も良く作る。
ポンヌフとエコセーズはタルト生地の型への詰め方にプロか、そうではないか、確実に腕の差が出る残酷なお菓子だ。ティムとチェンバーは今の所足踏み状態で、前に進めて無いのでチェンバーにはシュークリームの先生になってもらった。
ティムには別棟の厨房で昼食作りに勤しんでもらう。
俺も技巧派なお菓子は得意じゃ無いんだけど、やらねばならぬ!
結果は菓子職人達も苦心してました。まともな模様が作れたのはピオさんくらいで、リチャードさんも思わず苦笑い。
「すみません。俺もこれ、あんまり得意じゃなくて、どうやって教えてあげるといいか、模索してる感じなんです」
「ピオが作れたから問題無い!他の奴らは修業だ!」
声にならない悲鳴が聞こえた。
昼ごはんは、シーフードピラフ。カレー味で美味しかった!
スープは中華風かき玉汁だった。ティムはスープ作るのホント上手!ただし、少しスパイシー。気をつけて。