第5章 やさぐれ指導
アレルギー体質に関する記述が出て来ますが私の未熟な知識で書いたものですので、現実には不可能かと思われます。飽くまで読み物として楽しんで下さい。
チョコレートショップのレシピが知りたい輩は多かったが、大金貨1枚払えたのはたったの24人だった。
昨日だけで50人くらい来てたからもっと来ると思ってたのに。やれやれだ。
契約書控えと領収書を本物かどうか、アリアナ先輩に見て貰い、本物だったので料理教室へとアリアナ先輩の御者で幌馬車で移動。
教室に入ったら、早速手洗いうがいさせてコックコートに着替えたら、実習だ。
お金を支払ったからか、皆、態度が悪い。そこで、幌馬車の中でナナ様になって、偉そうなヤツらに言ってやった。
「普通、秘伝のレシピは金を積まれようと教えないのが普通。グレンマイヤー公爵様の頼みでなければ今でも教えたくない!教わるからには教えていただく先生方に敬意を払ってもらいたいのですが?例え小さくても私の直弟子です!バカにしたら許しません!」
ティムが泣きそうな顔で俺を見上げた。
俺は頷きティムの背中をポンと叩いた。
気合いを入れろよ!ティム。泣いてんじゃねぇ!
無言のエールは伝わったようだ。
気合いを入れたティムはいつものように元気はつらつでチンピラ菓子職人達を教え始めた。
ティムは教えるのがちょっと上手になった。
俺もこんな偉そうなヤツらに教えるのはイヤだけど、ティムが教えてるのに、俺が教え無いのはあり得ないから、表面上だけ丁寧に教える。後でティムが、「無表情でメッチャ怖かったよぉ!」とクレームを付けていた。
昼までに余裕で終わったのでチビたちに食べさせるお菓子を作っていると昼過ぎに実家から帰って来たチェンバーが料理教室へ飛び込んできた。あ、コレはバレッタの事、怒ってるな!
「ウソついてごめんなさい。チェンバー。正直に言うと受け取らなかったでしょう?」
「騙されたチェンバーがマヌケなんだよ。僕は何渡してるのか、すぐわかったもん。それにチェンバーへの贈り物じゃないんだから、チェンバーが文句言うのはおかしいよ!」
ティムよ。庇ってくれるのは嬉しいが、チェンバーをそこまでいじめなくても良いのだぞ?
チェンバーを心配して見てみると、真っ赤な顔でプルプル震えている。
こんな時はギュウッだ。
「ごめんな。適当な贈り物が無かったから、つい、アレにしたけどご家族は喜んではくれなかったか?」
チェンバーの深いため息。
「ちょっと離れて下さい」
まだ、お怒りだろうかとシュンとしてると離れてすぐ抱きしめられた。
「ありがとう、ナナ様。皆、精霊祭と正月が一度に来たみたいな大騒ぎだったよ。ただ、紅茶用意して食べようとしたらそれだったから、ショコラ作って帰らなきゃいけなくて」
「じゃ、紅茶のお菓子を作ってあげよう!」
紅茶の茶葉をスリコギで粉砕して粉状にしたものを使う。適当な量を生地に混ぜるだけで紅茶のお菓子の完成。
料理教室の中は紅茶の良い香りがしている。
「作り過ぎちゃったからトビアス様に持って行って来る!2人は先に帰ってて!」
辻馬車に乗り領主館につくと、何やら慌ただしい。門番も気がそぞろだ。
「申し訳ない。ナナ=クロワッサンと申します。御領主様に新しいお菓子を献上に来ました」
「クロワッサン男爵ですか?!どうか、厨房に行って下さい!」
何やら厄介事の予感。
名乗った限りは行くしか無い。
「ライゲルトさん、いらっしゃいますか?ナナ=クロワッサンです」
ひとかたまりになってたコック達が、一斉に俺を見た。シェフのライゲルトさんが、近づいて来て俺の手首をつかむと、野菜ばかり置いてある調理台の前に連れていく。
「生まれつきの病気で、野菜しか食べられないお客様が来たから野菜の煮込みやサラダやジュースを饗したのだが、1口しか、食べ無いのだ!」
「小麦粉は平気?」
「何故わかった?!それもダメなのだ!」
「お客様が使うお皿と調理器具を新品のスポンジで洗って!拭いて」
俺が米粉を挽いている魔導具を出して米粉を作ると米粉でパンを多めに焼く。ライゲルトはサポートにつき、弟子達にあれこれ洗わせている。
「果物もダメ?」
「ダメのようだ」
重度のアレルギー体質。可哀想。
人参のジャムを作り、パンに添える。
手持ちの在庫からコンニャクを出して手でちぎり、凍らせてもらう。すぐに解凍して軽石みたいに穴が空いてスカスカになったコンニャクにいつもの唐揚げの下味を付けてしばらく放置して、スープは野菜だけのブイヨンで昆布の粉を入れてオニオンスープにする。
サラダはコーンときゅうり、レタスのサラダにしてマスタードドレッシングを用意した。トマトソースを作って豆腐のハンバーグを作る。塩コショウだけじゃ味気ないのでみじん切りしたニンニクを植物油で香りを出して冷ましてハンバーグに練り込む。豆腐のハンバーグをガーリックオイルで焼きトマトソースで煮込む。
新しい油に米粉を纏わせた下味をつけたコンニャクを投入してどんどん揚げて行く。
その間に出来上がった料理から饗される。
「パンお替わりです!」
ふふ、アレルギーに勝ったぜ!
デザートは大学いも。
サラダはドレッシングが辛かったらしくて、残された。敗北感を味わっているとハンバーグが完食されて帰って来た。
リオレさんが俺を手招きした。慌ててライゲルトさんに譲る。
「そういう気遣いは良いからいらして下さい!」
怒られた!
仕方なくリオレさんに付いていくといつもの応接室に通された。そこには唐揚げを食べてる貴族の銀髪碧眼の病的に細い青年と紅茶のお菓子を食べてるトビアス様がいた。
「パン初めてまともに食べた。美味しかった。ありがとう。私はヒギンズ=ランベルト。トビアス様の同級生さ。君がウワサのナナ様だね。サラダは辛かったけど、他の物はホントに美味しかった!デザートも楽しみだ」
「それは光栄です」
「今日食べた物のレシピを買い取らせてくれないか?」
「いいですよ。お金より、貴方の命です。今から、レシピ書きますね」
「そういうわけにはいかない。依頼としてレシピを売ってくれ。特にパンとジャムを、他にも作れたらそのパンのレシピも売ってくれ」
「かしこまりました。……ホントに良いのですか?貴方のアレルギー体質にならチアーズクラブの特例が施行されますよ?」
「貧しい人を救う部活動をナナ様の弟子達がしていて、ナナ様もそういう活動に熱心だ。ヒギンズの場合、普通の食事が取れないからの救済措置だろう」
「腐っても侯爵家、金だけはある!チアーズクラブとやらの活動に使ってくれ」
それから、領主館に軟禁されて朝までケチャップ、トマトソース、ガーリックオイル、フライドポテトや、ポテトチップス、米粉を使ったパンや料理数十種類。デザート5種類。スープは昆布の粉と味噌をひと瓶づつあげた。これでいろいろ作れるはずだ。
朝、フラフラになりながら領主館を出て乗り合い馬車で料理教室へ行くとチェンバーとティムが頑張っていた。
俺も頑張って教えるか!