第4章 5年生の緑休みの始まり
「もう!ロギったら!結局丸々黄の月休むんだから!」
「6年生になったら、勉強についていけなくなるよ?」
緑休みになった途端、王都に転移してきた可愛く文句を垂れてる親友二人を抱きしめる。
「良いところに来た!アルバイトして!」
「「え?お菓子?!」」
「ヨールの食堂が開くんだけど、3人じゃ忙しいから、手伝ってあげて。俺は菓子屋から動けないから!頼むよ!」
「ええー!!まだ離れ離れなの?!淋しいよ!」
「ふふふ、夜に手伝いに行くよ!」
ああ、今日も疲れた。コイツらと一緒にいたら、忙しいのも何か楽しいのになぁ。
「ナナ様疲れた?大丈夫?ヒールしてあげようか?」
「チェンバーありがとう。風呂入って寝たら治るよ」
また、寝られない日々が続く。
このままじゃ誰が倒れてもおかしくない。
立ち上がったら景色が歪んだ。だんだん床が近づく。ティムが俺の体を下から支える。
「誰か呼んで来る!ティム、ゆっくり地面に降ろして!」
ティムの荒い息づかい。無茶させてる。
「ごめん、力入らない…」
それどころか、視界がどんどん狭くなって行く。
ゆっくりと地面に横たえられて安心して意識を失う。
◆○◆○◆
「ロギ~~~~!!やっと起きた!」
目の下の隈がひどいティムに抱きしめられ、胸に顔をうずめられて、まだナナ様でいるらしい事を体感した。
だいたい何日間寝てたのだろう?
聞くと2日マルッと寝てたという。
そういうとティムは俺の隣りに横たわって寝た。
ティムをベッドから転がさないように気をつけてベッドから下りる。
パティスリー・クロワッサンの俺の部屋だ。台所に行くと美味しそうな肉の塊がゴロゴロ入ってるポトフが作ってある。
コショウが効いていたので作ったのはティムだ。温めてごちそうになる。
:「ただいま、……ナナ様いない?!」
「チェンバーいるよ!お帰りなさい。ご飯にしよう?」
チェンバーが胸に飛び込んできた。
「……うんと、心配、した」
涙混じりの声に髪を撫でる。ん!チョコレートの臭い?!
くんくんつむじを嗅いでるとチェンバーが顔を上げる。
「もしかして、俺の代わりに厨房入ってる?」
「代わりにはならないけど、アルバイトしてる」
うちの子健気!ぎゅっと抱きしめて頬に口づけると、そのタイミングで何故か、セトさんが部屋に入ってきた。
「お前という男は!誰でもいいのか!!」
睨みつけながらボロボロ泣いているセトさんも抱きしめる。
「口づけするのは貴女だけだ。頬にするのは仕事を代わってくれた友達への感謝。貴女が泣くならもう止める」
「では何故、レオナルドとは床を同じくしたり、一緒にハチミツ風呂に入って洗い合ったりするのだ!浮気者!!」
「レオはこういう意地悪するから、たちが悪い!あれは友達!!そういうことは一切してないからね?!泣かないで。素敵な朝を迎えたいのは貴女だけだよ?」
「ウソだったのか?」
「いや、ホントだけど、男友達なだけだ!チェンバー達とお風呂入るのと一緒だよ。それに、ロギの時にお風呂で洗ってもらったり、一緒のベッドに寝ただけだ」
「ロギの時に?」
「そ」
頷くと誤解が解けて俺の腕の中にいるのが、恥ずかしくなったらしい。体を強張らせて困っている。カワイイ~~!
そっと離れてそう言えば何の用だったのだろうと声をかける。
「俺に何か用?」
「起きたかどうだか見に来たのです。気分はどうですか?」
「いつになくスッキリしてるよ。ごめんね、5日寝てなかったんだ」
「ご飯を食べたら、厨房の休憩室に来て下さい」
「セトさんも食べたら?」
セトさんは迷っていたが固辞した。
「すみません。私一人ではないのでまた、次にお誘い下さい」
「誰と来たの?」
「父上と来てます」
相手がロクシターナさんじゃ負けるか……
「食べたら、すぐ行きます!」
チェンバーと部屋にあるテーブルを囲んでポトフを食べた。チェンバーはクーベルチュールを細かく刻む作業をずっとしてるらしい。
「疲れただろう?ありがとうな」
「いや、むしろこんな簡単な仕事内容で時給大銅貨2枚は、申し訳ないくらいです」
「単純作業は意外と難しいからチェンバーにやって貰って皆が助かってるよ」
チェンバーの頭を撫でて皿を流し台に持って行く。部屋から廊下に出るとチェンバーも付いて来た。
「食べたか?」
「うん」
チェンバーに足並みそろえて1階の厨房へと入って行くと知らない人がいっぱいいるよ!
驚く俺にチェンバーがぼそっと言う。
「菓子職人の面接中です」
暗くなったので魔導具のランプを点灯する。
菓子職人たちは一様に緊張していた。調理台で何か書いてるみたいだからのぞき込むと履歴書だった!書かせてるのか!さすがロクシターナさんとセトさんのコンビだ。
休憩室にノックしてから入ると、ショルツとレオもいた。
「この履歴書に偽りがあればユーバリン神様の御許に案内しますからね」《訳/嘘つきは死ぬぞ?》
エルフの圧迫面接始まったよー!
犯罪者を追い詰めるみたいなやり方で、どんなウソもパパッと見抜く。ソレはまるで小姑のようでした。
重箱の隅をつつく泥臭いメロドラマ。
実家の事情までガッツリ聞く面接(?)
いや、もう身上調査だよな。
セトさんは、主な商家は丸暗記してるみたいで、怪しいと思ったら、見逃がさない執念を見せ付けてくれた。
チェンバーは、厨房内で待機して怪しい行動をとる奴らを密告してくれた。
例えば、同じスパイ仲間でメモ渡してたりとか、菓子職人同士の小競り合いだとかを面接のすき間に詳しく話した。
深夜を越える面接試験に面接者達もだんだんだらけてきた。隣りにいるヤツと話したり、仮眠したり、と、カオス化してるらしい。
なるほど、寝ぼけてるのがまるわかりなのが、入って来るわけだ。
菓子職人としての習熟度はショルツが確かめてる。ゴールデと言う砂糖菓子の作り方を聞いたらだいたいの腕がわかるようで、これまた重箱の隅をつつくような質疑応答が繰り返された。
朝方ようやく圧迫面接が終わり、合否判定を待つ青年たちに、月並みだが、カレーライスを振る舞った。
ロクシターナさんとショルツの意見が割れてるみたいで、ちっとも結果発表出来ない。
菓子職人の青年たちに、スパイだったりした場合神罰が下るけど、それでも勤めたいか聞いたらざわめきが帰って来ただけだった。
1,2,3,4,5,6,,,,,,,,,30,31,32人か。全員は雇えないな。せめて7人ぐらいならなあ。
ショルツが休憩室から出てきた。
「合格者を発表する!
アーチャー、グリッド、ナンテ、エミリオ、ラスコー、フランツ、リキ、マシャド、パルス、以上9名だ。今日の夕方までにここに住み込み出来るように引っ越してきなさい。仕事は夜中の0:00からです。賄いは3食付きです。
守秘義務の契約書を作るので合格者は残って下さい」
ショルツの前に5人程が土下座し始めた。
「この店で働きたくて以前勤めていた店を辞めて来たんだ!お願いします!働かせて下さい!」
「君らは技術的には問題ないんだけどね、金になかなかな身内がいるだろう?守秘義務の契約書を守れなかったら、君も身内も神罰喰らうよ?冗談じゃないからね」
「契約書を守れます!お願いします!働かせて下さい!」
「……いや、俺的には働かせてやりたいよ?でもな、身上調査結果がなあ」
「何でもするんで働かせて下さい!」
「ナナ様どうします?」
「契約書交わすなら良いんじゃない?採ってみようよ!」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
こうして、弟子が14人増えた。