第3章 慈愛の女神の使徒のお仕事⑤
白休みに入り、宿題をまた出されてヘコんでいると、チェンバーが手伝ってくれると約束してくれた。
ティムはその時間を作ると胸を叩いていた。
俺って、良い友達持ったな。二人にギュッと抱き付いた。
しばらくすると前世ぶりの排気音が外から聞こえて来たから表に皆が出た。
ひょっとして雪でも進める馬車って。
カーキ色のマイクロバスが、学園通りの坂道を上がって来る非常識感!皆が見てる!当たり前だ!!やりやがったな、稔司様!!
プシューと気が抜ける音がして、マイクロバスの中ほどのドアが開く。
セトさんがタラップを降りて来た。
完全武装の姿で。カッコいい!
「準備は出来ましたか?出発しますよ?」
「この馬車すごいね?!鉄で出来てるの?セトさん」
セトさんはニコリと笑ってティムをあしらって見せた。
「乗ったら教えて差し上げますよ。さ、急いで下さい」
魔法カバンに大人用と子供服を3人前3日分詰めてもしもの時の武器と防具も入れておく。
急いでマイクロバスに乗ると運転席の穂高様がこちらを振り返って一言言う。
「買ったのレニヴァルだからな。俺達は被害者だ」
これで決定。地球と交易出来る事が解った。
でも、何か欲しいとか不思議と思わない。
こっちの世界で見つけて行けばいいし。何でも簡単に手に入ったら努力しない人間になりそう。
堕落したらセトさんにも見限られそうだしな。
セトさんとふいに目が合う。
「護衛よろしくお願いいたします」
「多分必要無いが、全力で君達を守る!」
「はいはーい!皆さん好きな席に座って!椅子は対面式にも出来るから、そこら辺はセトに習って!」
足元のレバーを踏んだら進行方向とは逆に回った座席。俺達3人はそこに座った。イアン先輩は大きいので2人用の座席を一人占めしている。酔い止めにレセップの葉っぱを噛んで準備O.K.。穂高様は大神殿までぶっ飛ばした。
馬車で2日かかった距離を、2時間で進むなんてクレイジーだ!
酔い止めを噛んでなかったら、1人残らず戻してた。間違いない!
大神殿にマイクロバスが着くと神殿兵に囲まれた。ランベルトさんに人魚の若芽茶を飲んでから窓から手を振る。
「ナナ様!この馬車はなんですか?!」
「俺が説明しよう」
「この馬車は神様が下さった鉄の馬車だ。魔導具と一緒で魔石で走るから馬を使わなくてもいいが、御者に技量がいる。エルフの里の神様が今回神官様達の修業の為に使うことを許して下さったのだ」
穂高様が演説をぶると感極まった神殿兵たちがひざまずいて神に祈りを捧げ始めた。
「「「「「「「おお、神よ!偉大なる神よ!我らがまだ見ぬ神よ!その御業は私達を常に驚かせ額ずかせる。大いなるその奇跡の一つを我らに与えたもうた事を感謝申し上げます!」」」」」」」」
こんな純粋な人達騙して悪いんだ、穂高様!
穂高様は神殿兵達を生暖かい表情で見守っている。
俺はバスを降りて一緒に旅立つ神官達を迎えに行く。
すると、ここにもひざまずいている人達が。
「馬車が目立つから、早く出発しましょう」
そう声をかけるとようやく動いてくれた。
ジョシュアとユージン、大神殿の相談役のジジルー神官、時々炊き出しを手伝って下さったカルロス神官とイリス神官、後は顔は見たことあるが名前は知らない神官様たちが10人ほど。
自己紹介されたが覚えていられなかった。
懺悔室専門の神官様達のようだ。
皆さん好奇心いっぱいでマイクロバスに乗るとあちこち触って見てセトさんに聞いて驚いている。
「はいはーい!皆さん座って!出発しますよ!」
穂高様の陽気な掛け声で皆にレセップの葉っぱを配って俺は席に座った。
1番目の村アガタまで馬車では3日かかる所を4時間で走破した。
途中、魔獣も出たがバスの速さに敵わず視界の端へと消えて行った。
それというのも穂高様がアクセルベタ踏みでかっ飛ばしていたからだ。
バスに乗ったこちら側の世界の人達はバス移動はこれが普通だと絶対勘違いしてる!
「馬車と違ってあんまり揺れないのに速いんだね!スゴ~い!!」
そのスゴ~い勘違いを直してやりたい!
チェンバーはスピード狂じゃなかったようで他の馬車とぶつかりそうで怖いとハッキリ言った。
それを聞いて穂高様が言った。
「懺悔する農民達の為だ!耐えろ、チェンバー」
ちなみに予定は緻密に組まれているようで元旦の5日前に王都に着く予定だという。
そんなタイトなスケジュール調整をしたのがセトさんだと聞き、俺は抗うのを止めた。
嫌われたくない。でも、それは間違っている考えで俺はずるい。
15:00過ぎに結構大きい村に着くとすぐ、炊き出しを始めた。
冬だからボルシチと簡単にフォカッチャで、食べて貰う。ジョシュア達と久しぶりに一緒に作ったスープとパンは、最後の1人まで綺麗に配布された。
途中から簡易竃で焼いてたフォカッチャが入れた倍以上になって、出てくるので、チェンバーとティムが一生懸命作ってくれてたが、増え始めたら止まらないことは皆よく解ってる。
その日俺は寝込んだ。ガタガタと震えが止まらなくて、きっと自分にウソをついた代償なのだと反省した。
起きたらスケジュール調整をセトさんに頼もう。
「お誕生日おめでとうございます。仮成人の日だったのですね。お体をご確認しましょう」
「何?……その仮成人の日って?」
バスのリクライニングシートに毛布をグルグル巻きにされて寝転ぶ俺にセトさんが優しく声をかける。
「11才の誕生日をエルフの里では、大人の仲間入りをしたとして、神々から魔力の贈り物があるので熱が出たりするのです。さ、起きて下さい」
上体を起こされて毛布を剥ぎ取られると裸だった。思わず股間を両手で隠したら苦笑された。
「私にもあります。見慣れてるから平気です。とりあえず椅子から立ち上がって、両手を広げてゆっくりぐるりと回って下さい。違う聖痕が付いてる可能性が高いので確認します」
恥ずかしいが堪えて椅子から立ち上がって、ゆっくり1回転したら、手足の付け根を確認し始めたセトさんに慌てていると、穂高様がバスの中に入って来た。
「ああ、それ左足の付け根か。俺が確認しとくわ。炊き出しの配布手伝ってやってくれ」
「はい、穂高様。よろしくお願いいたします」
左足の付け根に入った聖痕は大地の女神ハラナルニア神様の聖痕で、エルフ達にはお馴染みの神様だという。
「これでポイントアップだな!やったな!ナナ」
どういうこと?
「エルフの中でも100人いるかどうかの聖痕で誉れ高いんだぞ!ロクシターナさんも付けてないくらいだ」
「でも、それって俺が努力した結果じゃないから」
「プッ!!可愛いな!お前!そんなに突っ張ることないじゃないか!神様がナナを見てフォローしてやろうと思わせる事が出来たお前ってば、すごいんだぞ」
嬉しがらせに頰が熱くなる。
穗高様ってば、褒めすぎだよ。
「くしゅん!」
「ああ、悪い!服だな!」
俺の魔法カバンを持って来てくれたので一番暖かい格好をする。長袖の肌着にセーター。セーターはチアーズクラブ本部のコックさん達が休憩時間を使って俺達3人に編んでくれたのだが、少々(だいぶ)サイズが大きくてナナ様になった時にちょうど良いくらいだ。色は濃いブラウン。目と髪の色に合わせてくれたみたいで、合わせる服に気を使わなくていい。ズボンはチアーズクラブ本部に通っている常連客にオーダーしたデニム生地のジーンズで、自動伸縮機能が付いてるお高い品だ。
コートはクルクルという巻き毛の羊の魔獣から採った毛で織ったモコモコした物でお世辞にもスタイリッシュと言えないがアールディルで防寒着と言えばコレである!
マフラーもしてバスから出ると雪が降る前兆の雲が空を覆っているのが見えて顔をしかめる俺だった。