第3章 慈愛の女神の使徒のお仕事④
リチルに帰った俺達はマーヤのコーヒー豆製造所から貰ってきたコーヒー豆の焙煎の仕方を少しづつ変えながらミルで挽きネルドリッブして試飲を繰り返すのをもう2週間続けている。
「あ~!ダメだよ~。苦いのしか、わかんない!」
「私は中煎りの右から2番目が飲みやすくて好きですが、深煎りの右から1番目もコクとほろ苦さがたまりません」
一端のコーヒー通みたいなことを言うチェンバーの意見を参考にして、中煎りで、エスプレッソマシンで抽出したエスプレッソ液を使ってコーヒーケーキを作ってみた。
切り分けてコーヒーを入れてる間に全部なくなってた!
食べた人の中にはアリアナ先輩もいて、宿題をサボってしまって怒りを買ってる俺には何も言えなかった。
今、チアーズクラブ本部では、カフェオレが流行っていて、皆がコーヒーを狙っている。
流行らせたのはティムだ。
苦いのが苦手なティムは必死にカフェオレ教の布教活動をした。
だから、【青月の星】では、コーヒーとカフェオレが煎れられるようになった。
花のような香りのするコーヒーは、今まで出回ってたどこか酸味のあるコーヒーとは一線を画していて熱心なファンもいるらしい。
もちろん、ティラミスとコーヒーゼリーの作り方も教えた。
ティラミスがすごい人気になっていて、イアン先輩達は一日中ティラミスを作ってる日もあるらしい。
先日、レオからも手紙が届いた。コーヒー豆をマーヤから仕入れたという。大変だったようだ。恨み言が書かれていた。
近々、アールディルに来るらしく「逃げるなよ!」と文末に書いてあった。
チョコレート工場に用でもあるのだろうか?
「レオ様が来るの?!」
「ゲストルームを用意しなければ!」
マドレーヌ1箱分の恩義は固い。
チアーズクラブの貯金から金貨5枚引き出すと布団を買いに行ってしまったティムとチェンバー。無駄遣いするなよ?
チアーズクラブの活動は相変わらずで、職員室前の通称弟子パン屋は、正式にレーゼ先輩達の店になった。
レーゼ先輩は同じく小麦農家のミューラー先輩とモニル先輩を仲間に引き入れ小麦粉同盟なるパン屋を毎日夕方2時間開店していて大盛況だ。
俺はチェンバーに料理を教えながら毎日子供食堂の調理に携わっている。途中から無理矢理勉強にひきづられて行くのか毎日のルーティンだ。ティムは学園がおわるとすぐリチルの街中にあるサンドイッチ屋チアーズに行って稼いでくる。チアーズクラブの出稼ぎ隊長だ。
「自分のお金にしても良いんだよ?」
「僕だけ仲間外れにするーーーーッ!!うわぁああああん」
……それから一切その件には触れないことにした俺とチェンバーだった。
その代わり、欲しい物があったら、躊躇わずに使うように、言ってある。
チョコレート工場とチョコレートショップからの利益がエグいぐらいあるので白休みに農村を訪ねて、食料を差し入れようとジョシュア達と話し合っていたので、白休みは笠を被ったお地蔵さん作戦だ!
コッソリ転移して食料を置いてくる。
これなら、欲をかいた村人達に襲われないし、寒い中馬車で移動しなくていい!
俺って頭良い!
本気でそう思ってました。金曜日にエルフの里へ遊びに行くまでは。
◆○◆○◆
「え?!稔司様が寝ちゃうと転移出来ないの?!」
「スタンピードで疲れたから今年の冬は休みたいんだって。代わりに雪でも進める馬車を貸してあげるよ」
「ありがとう!ロクシターナさん!」
「いやいや、寒いのには変わりないから冬支度して乗り込めよ。あと、魔法カバンの良い奴に食料を詰めて渡してやる。護衛も付けよう」
「その分はお支払いさせて下さい!」
「はは!エルフの護衛代は高いぞ?じゃあ、護衛代以外をもらうから首を洗って待ってろよ!」
「でも…」
義父さんそれじゃあ護衛の人に悪いです!
そう言うとそっと実李様に囁かれた。
「エルフ一人一日で金貨5枚するんだぞ?王都に向けて進むんだろ?護衛が5人付くから一日で大金貨2枚と金貨5枚の消費だぞ!ありがたく受け取っておけよ。御者は穗高が、赤休みに引っ張り回したお詫びにするって言ってるから気にするな」
「あ、ありがたくご厚意を受け取ります!」
「「そうそう、それでいいんだよ。家族なんだから!」」
家族かぁ。セトさんのお父さんだもんね。
「でも、王都にエルフ連れて行って大丈夫ですか?」
「気にするな。むしろ怖がるかもな」
ロクシターナさんがニヤリと笑う。そんな顔も綺麗だ。
どうにかして成人までにこの人を超えなきゃならないのか?ああ、時間が欲しい!
「何か疲れてんな?ロギ。桃の果実酒持って行けよ!」
やばい!この里の桃の加工食品はネクタール擬きなのだ。
「いいです!困ります!いらないです!」
「何だとう?」
実李様にグリグリもらいました(泣)
結局ポーションを山ほどもらって帰途に着いた。
王都に行くのをティムとチェンバーと話しているとイアン先輩が行きたいと言い出した。
各家庭への荷物運びがいるのは助かる!
後は大神殿で、お手伝いの神官様をピックアップして、貧しい村々を王都まで巡る。
そんな事ばかり計画立てていたら、ルベラ国王陛下から元旦の晩餐会を任せて下さるとのお手紙が届いた。
速攻了解のお返事を送り返した。
あらかじめ寄る村の位置を確かめていた方が良さそうだ。
冒険者ギルドで王都までの地図を買って点在する小さな村の位置をギルドの酒場のテーブルで確かめていると冒険者皆がその地図はアテにならないという。
小銀貨2枚もしたのに!
そこに依頼から帰って来た地獄の番犬の5人が通りかかる。
「よう!ロギ、何泣きそうな顔してんだ」
「メリンズさん!この地図デタラメなんですか?!」
「いや、位置はあってるけど何日かかるか、とか書いてないから役立たずなだけだ」
「依頼するから教えて!」
「それより、お前らの飯屋で奢れ。行くぞ!」
俺はパンパの肩に担がれて【青月の星】まで走って移動。
無事、席に座れた。俺は悪ノリして大盛りメニューばかりを地獄の番犬の5人に頼んだ。
注文が来たら皆が食欲全開で食べ始めた。
「なんだ。つまんないの!」
「ガハハ、こういうのが出てくるって知ってたからな!美味いぞ!坊主!」
俺はコーヒーとティラミスを人数分頼んだ。
食事がなくなったら地図を広げて主要街道から何日かかるか、書き込んで行く。
「炊き出しするなら心配いらないぞ?王都に行くまでの村は栄えてるからな」
「え、でも俺、アールディルで貧しい村見たよ?」
「それは一部の領で今の国王陛下になってからは改善されてます」
優男のポコが教えてくれた。
「どうしよう。意味ないことに付き合わせちゃうよ」
「炊き出ししてお金を稼げば大神殿とかにも喜捨できるし、悪いことじゃないし、それに修業でもあるから、神官様に取って悪い経験じゃない。ただし、告解を聞くなら1個所に3~4日程度逗留するのになるから予定があるならどの村に寄るかは、あらかじめ決めておけばいいんじゃない?」
「ありがとう!ポコさん!」
大神殿のジョシュア達と連絡を取り合いスケジュール調整をしていたら、あっという間に白休みがやって来た。