第3章 慈愛の女神の使徒のお仕事②
その日は、サロンロール家に宿泊した。レオに何か珍しい物を作ってやろうと、エルフの里のお土産のレインボーフィッシュのパイ包み焼きを作るとレオに限らずがっついている。
「そう言えばシルフィ様は?」
「お客様相手に見境なく嫉妬するから、先月離縁した!報せなくてすまない」
「いや、レオ大変だったな」
「ホントにな!苦行だった!」
「んん?!これスゴく美味しい!」
ティムが大声を上げたから何かと思ってその手元を見るとフォワグラのテリーヌのワインソース掛けを食べている。
「お替わりするか?セラック、4人分だ」
「いや、俺はいいよ!レオ」
「いつもはスープばっかなんだろ?喰っとけ!」
チェンバーは食べる機会があったらしくその価値に気付いている。小切れにして大切に食べている。
ティムよ。そんな豪快に食うもんじゃない。俺だって遠慮して食べてる。
「で、初等科生活はどうしてる?学園の勉強について行けてるか?」
潜めた声で聞かれて「コイツらも知ってるから」と言うとレオが楽しげに笑う。
「チェンバー様は騎士爵に叙されたんでしたよね。おめでとうございます。これからもロギ様をよろしくお願いいたします。ロギ様は学園ではどんな風ですか?」
チェンバーはナプキンで口元を拭うと言わなくても良いことを言う。
「何でも出来ますが一般常識が欠けてます」
「ああね。そうだと思った…。案の定ですね!」
「れ、レオ!!サロンロールではマーヤにツテとかないか?」
3人の視線が冷たい。レオは一つため息をつくと地を這うような声を出した。
「マズルカ商会に聞いてからの方が良いんじゃないですか?」
「マズルカ商会あと3日くらいしたらクーベルチュールの取り扱いで首が廻らなくなるくらい忙しいから、こっちに言おうと思って。ねぇ、レオ。この店でコーヒーを取り扱ってくれないか?」
レオは目を伏せた。
「コーヒーは、貴族階級の紳士の飲み物だからな。難しい」
「砂糖を加えてミルクを半分入れたら?」
「セラック!コーヒーを用意して」
「コーヒーのお菓子作って来る」
店の厨房に忍び込み、スポンジケーキとマスカルポーネチーズがないからクリームチーズで代用しなんちゃってマスカルポーネクリームと生クリームを作りスポンジケーキにコーヒーシロップを塗り2種類のクリームと何回か重ねる。トッピングの生クリームにココアパウダーを掛けたらティラミスの出来上がりだ。ついでに甘くしたコーヒーゼリーも作った。生クリームのトッピングで召し上がれ!
ティラミスは3人とも無言でガツガツ食べてた。2切れ目をよそってやると、お腹いっぱいなのに食べてた。コーヒーゼリーは普通な感じだった。
「コーヒーもミルクを半分入れたら子供でも飲める」
どうやらティムとチェンバーで実験したらしい。普通に食べてたと思ってたコーヒーゼリーは気に入ったみたいで4個目に手が伸びてる。
「コラ!あんまり、甘味を食いすぎると体に悪いぞ!」
「試食の時ぐらいしか食べられないんだ。お願い、あと1つだけ」
「ダメだ!一つにどれだけ砂糖を溶かしてると思ってんだ!それでなくても、菓子に囲まれてるのに、絶対、喰わせるか!!」
セラックさんが、噴き出している。
「ほら、いつも言うこと聞かないんだろ?」
「あー!私のコーヒーゼリーが!」
店の氷室にしまってきた。試食品とメモを添えておく。
付いてきたティムとチェンバーがショルツの店にはなかった焼き菓子を見て盛り上がっているのでレオを連れて来て買い物をさせてやった。オマケにマドレーヌの木箱詰めをひと箱づつもらって喜んでいる2人にお礼を言わせてお風呂に入る。
ここのお風呂は大浴場。
皆で入ったら、皆が俺の裸を見てる。いやん。……あ!鳩尾の聖痕か!
「ナナ様、いつの間に使徒様になったの?」
「いや、これは、求婚してた時にドサクサ紛れに付いたもので、ちゃんとしたのは、頭に刻み込まれてる!」
「求婚?!ナニソレ!どういう話!」
「ロギがねー、無抵抗のエルフさんにベロチューしちゃったの」
ティムーーーーッ!!言い方ってもんがあるだろ!見てみろ!レオのこの冷たい目を!!
「死にかけてたから、加護の力で何とかしたくて、飯食べさせたんだよ!ティムお前覚えてろよ?!」
「……うわ。気のせいじゃなかったか。ナナ様の料理食べてると調子悪い所が温かくなってすっきりした気分になったからいつもよりたくさん食べられた。無敵になってきたな、ナナ様。で?求婚は?」
「キスした責任を取って求婚した!」
「それなら、私はお母様と兄様達に責任を取って貰わないといけないな。ああ、面白かった!コーヒー豆をマーヤから仕入れる件任せてもらうよ!一応通っている男性客も何人かいるから、進めてみるよ」
「ありがとう!レオ!!」
「で?振られたの」
「一応婚約出来たけど、彼の心は俺の元にない。あ、引くなよ。両性具有者でお父さんが理想の男性みたいなんだ。俺が成人するまでは、男として生きたいって拒否されてるだけで」
「お父さんなんて名前のエルフさん?」
体をヘチマのスポンジで洗いながら俺に聞くレオ。
俺もティム達を洗いながら何気なく返答した。
「ロクシターナさんって言う超絶カッコいいエルフさん」
「……お前、詰んだな。それ、エルフの勇者だぞ?お前が勝てるのは料理の腕だけだ!頑張れ?」
勇者かよ。
「あぁ、料理でも負けてるしなあ…」
「何だよ!料理もできんのかよ!」
「いや、身内に料理人が何人かいて、皆が玄人で俺なんか敵わないわけ。群衆の中の一人だよ」
「よし!今日は飲もう!グチは全部聞いてやる!明日から頑張れ!」
風呂を出たら、飲み会に突入。
飲まされてグデングデンになって、翌昼酒臭い息で目が覚めた。
風呂に入って歯磨きして自分を取り戻すと、食堂に案内された。賄いの最中らしくてコーンポタージュスープと温野菜と何故か、チーズフォンデュが出て来た。やぶさかでは無い!
厨房から出て来たのはティムとチェンバー。
「チーズがたくさんあったから、コレにしちゃった!レオ様が何でも使っていいって言ったから」
「ありがとうな、ティム、チェンバー。でも営業中の賄いは皆が早く食べられるものにしないとお店が大変だから、次からは気をつけような?」
「「あ!ごめんなさい!皆さん」」
「「「「「「「「「たまには良いんだよ!」」」」」」」」」」
「ほら、2人ともおいで。食べよう」
俺を挟んで左右に座る2人の口に温野菜をチーズにinして巻き取り2人の口にサッサと入れる。
「熱っ」「んー!おいひい!」
時々自分も食べる。う、ワインが効いてる!
コイツら平気なのかな?
「ナナ様、次!」「私もお願いする」
大丈夫そう。1時間程食事を楽しみ、コーヒーゼリーとティラミスを教えてエルフの里に転移した。
穂高様はどうしても俺をマーヤに連れて行きたいらしく根負けした俺は1週間だけ付き合うことにした。