第3章 慈愛の使徒のお仕事
焼きごてを当てられたような痛みが去ると俺は腹をシャツをめくって確かめた。
この神紋は大神殿に一体しかない木像の台座に彫られていたヤツ!!
絶対ここに印があったらあかんヤツや~!
泣きそうになっていると稔司様が目の前に現れた。
「聖域でみだりに神様の名前を唱えないの!ユーバリン神様の神紋は、君が持つもう一つの聖痕のサポートをする役目を保つ聖痕だから、別に見られてもどうってことないけど、もし、ユーバリン神様だけの聖痕を持つ人間がいたら、近寄るな。何されるかわからないぞ。余計なことに関わらず、君は君の道を歩みなさい。婚約おめでとう」
そういうと唐突にかき消えてしまった。
「あ?!稔司様!」
「稔司様はお疲れだ。まだ、スタンピードの後始末をなさっているから、引き止めてはいけない」
ロクシターナさんにたしなめられて頷く。
ティムが立たせてくれた。チェンバーは、俺が落としたフルーツポンチの器をほうきで集めていた。
セティーネは俺の前に立つと、男らしくこう言った。
「ロギ様、私を癒して下さりありがとうございます!貴方が成人するまでは、セトとして里の為に働きたいのです。…お許し頂けますか?」
まだ、男として働きたいってことね。
「解りました。結婚するまで、束縛しないと誓います!」
明らかにホッとした顔で一礼してロクシターナさんの元に行った。
仲の良い親子だな。
「ロギ~!フルーツバスケット作ってよ!」
「はいはい」
◆○◆○◆
俺は久しぶりにお寿司を食べてテンションマックスだった!
「美味しいよぉ!美味しいよぉ!!」
ティムもテンションだだ上がりだ。
チェンバーは、おそるおそる食べては、ニンマリ笑うのを繰り返している。
海の精霊晴海様は、寿司職人だったそうで、美味しいお寿司を子供達に提供している。
大人は大人の寿司職人がいるみたいだ。
あ、唐揚げが無い。
ちょっと揚げてくるか!
厨房に行くと意外な人がいた。
「穂高様!俺がやりますよ!」
「んじゃ、唐揚げ揚げるの手伝ってくれ」
「はい!…穂高様はスタンピードの後始末いいんですか?」
「俺には向いて無いからここに送り出された。あ、丁度いい。ケプラン商業国のカルシー街の店の件な、ちょうど、いいくらいの銀行が潰れたから買い取って来た!
あそこならサロンと売り場が区別されるし、給湯室程度の設備と金庫を氷室にしたらいいから白月には開店出来そうだ」
「いーくーらーで、買い取ったんですか?」
「気にするなよ?ちゃんとグレンマイヤー公爵から返してもらうから!それより、マーヤ行って来たんだけど、やべーわ!あの国、コーヒー豆とか、南国フルーツがたわわにあるのに、知らんぷり。余った休みで行かないか?」
「行きたいけど大神殿に行く約束してるんだよね」
「お前の世話好き病気レベルだな。だから、セトなんかに命賭けちゃうんだよ。アイツはファザコンなの!父親に恋してるの!」
「まあ、全部上手く行くわけないし、彼との事はのんびり行くよ」
ロクシターナさんかぁ。高い目標だな。
「お前、へ~んなの!」
「良いよ!変で。ティムとチェンバーは、好きだって言ってくれるもの」
「ロギはふところが広すぎるわ!」
唐揚げを揚げてると、ボソリと穂高様は呟いた。
「利用されるなよ」
ほら、穂高様は優しい。
「大丈夫!ありがとうございます」
ティムとチェンバーが、もっとズルい奴らだったら、チアーズクラブは成り立ってない。
というか、借りばかり増えてる気がする。
「俺はお前が貸してる分が多い気がするぞ。おい、その唐揚げ焦げるぞ」
「アチッ?!ああ、見逃してた!」
慌てて箸で摘まんで揚げる。
1時間くらい穂高様とマーヤのことを話しながら揚げ物してるとお寿司を皿盛りしたティムとチェンバーが厨房に来た。
「穂高様も食べて~!」
「おう!気が利くじゃねえか?」
「揚げ物代わるよ!座って食べなよ」
「チェンバー?どうしたの?気分悪い?」
「チェンバー食べ過ぎたの!チェンバーも座ってなよ!」
緑茶入れよう。胃がすっきりするかも。
4人分のお茶を入れたら唐揚げや豚カツや天ぷらをパーティー会場に置き、空の皿を片付けて厨房に戻るとチェンバーが泣いている。
穂高様にジェスチャーで黙るよう言われて
チェンバーの後ろに立つ。
「ずっと3人で一緒にいたいのに、私たち2人はロギの足手まといでしかない!まるでゴブリンだ!だから、ロギを守る術を教えてください!穂高様」
そういうとチェンバーは、いきなり寝落ちした。
「チェンバー間違ってお酒飲んでたから、途中でジュースと変えたんだけど、そんな悩みがあったんだね。ところで僕らは足手まといかな?今でも」
「頼れる仲間だよ。ティム」
「だよね!チェンバーは、妙に心配症なんだから!ロギの役に立てるよう僕ら頑張ってるもん!3人のチアーズクラブなんだから!」
ふふふ、可愛いやつめ。頑張ってるの知ってるからな!
料理も知らなかった2人は見様見真似で今ではオークの解体まで出来る万能コックになった。ご飯に困っている人を助ける為に!
俺らは同じ想いで繋がれている仲間だ。
こちらを見たティムとぐうタッチしてニッと笑う。
視界の端には呆れてる感じの穂高様。
「あー、何だか俺が悪かった!誤解してた」
「理解出来ないかもしれないけど、僕らはご飯が食べられない貧しい人達に支援したいから頑張るよ!」
それからは、和やかにマーヤの話とかケプラン商業国に建てられたチョコレート工場の話とかを穂高様に聞いてるとチョコレート工場がとんでもない規模の大きさと分かり狼狽えた。
東○ドーム4個分の広さって!そんな巨大な工場建てる金あるの?!それに、そんなに売れるの?!
「大丈夫だって!今の工場で生産量が追いついて無いからデカい工場建ててんの!グレンマイヤー公爵はちょっとした大金持ちだぞ?」
「……ならいいけど」
「それにクーベルチュール作ってるのは、グレンマイヤー公爵だけだし、クーベルチュールを売るのも計画されてるらしい。ビンガ王国にあるデザート・クロワッサンってサロン・ド・テから、クーベルチュールを売れって矢の催促らしいよ」
レオは新しい物好きだね……。その嗅覚に乾杯。1度ナナ様になって、チョコレートの使い方指南に行かないとな。
「工場は今週から、稼働してクーベルチュールを作って国外に売りまくるらしいぞ。青月の星ではどうするんだ?」
「皆がチョコレート使っててもね、青月の星はあれで十分だよ」
となると赤休みの間にデザート・クロワッサンに行かなきゃね。
「そうと決まれば送って行くか!大神殿は最後の1日でよかろう!」
俺は荷物をまとめているとティムもチェンバーをビンタして起こして付いて来る気だ。
「あのね、ティム。仕事だから、つまんないよ?」
「そんなことない!僕らも手伝う!」
あああ。こうなる気がしてた。穂高様は3人連れてくつもりだったらしい。俺はデコピンされた。人魚の涙を食べさせられて、ナナ様になってから、まず、ケプラン商業国のチョコレート工場に転移してクーベルチュールを買い付ける。白金貨10枚分のクーベルチュールは心なしか魔法カバンに入れても重い気がした。トビアス様がいたから買えたので、今後の取引もよろしくしておく。
「レオナルド=サロンロール氏によろしく頼むよ」
伝言を預かって今度はビンガ王国にあるデザート・クロワッサンへ。裏口のドアをどんどん叩くとレンが顔を出し破顔一笑した。
「ナナ様!!お久しぶりです!さ、どうぞ入って下さい!お子さんもどうぞ!」
厨房に入ると皆忙しそうだ。
レン達3班がすぐ集まって来た。
ティムとチェンバーを前に出して紹介する。
「チョコレートを開発した孫弟子だ。右がチェンバー、左がティム。よろしくな」
その時厨房にあの男が駆け込んで来た。
「ナナ様!!チョコレートは?!」
「久しぶり、レオ。ちょっと痩せたか?」
「焦らすなよ!チョコレート!!持ってんだろ!」
「白金貨10枚分買ってきた。支払い頼む」
魔法カバンを開けてクーベルチュールを全部出すと調理台1個分が埋まって山になった。
「これ、このまま食べられるのか?」
「食べられるけど、もったいないぞ」
「1枚犠牲にしよう」
レオはクーベルチュールを1枚手に取ると簡単に割って菓子職人達に一欠片づつ食べさせた。
レオは食べてから、計画を立て始めたらしく無口になった。
俺達3人はエプロンを付けてlet's チョコレート作りに。
クーベルチュールを湯煎して溶かしたり、テンパリングしたり、ココアを塗したり、練り入れたりと見ること全てにいい大人たちが目を輝かせ軌跡をなぞるように作り始める。
失敗防止の為に要所要所に俺達3人がばらけて付いてお手伝い。
ガトーショコラが焼き上がると歓声が上がった。
さすが菓子作りのプロ。抑える所を理解すると何でもポンと作る。
今日一日作った物は1口サイズにして来店してたお客様達に試食させたらしい。
さすがレオ!チョコレートはパッと見、美味しそうに見えないもんね。