第2章 エルフの里のスタンピード②
10日目からお母さんエルフ達が魔法カバン片手に出前に行ってくれるようになったから、まともに半日近く寝た。
コッペパンを焼いてくれてたので、タマゴサンド、ホットドック、焼きそばパンを作ってオニオンスープと一緒に持って行ってもらった。
「今日は食肉加工します!付いておいで!」
里にある食肉加工工場でまずはお母さんエルフ達が持って帰って来た戦利品オークキングやオークジェネラルを解体して、ピケ(グサグサに穴を開ける)して、自家製クレイジーソルトをまぶしてチェンバーに魔法で冷やしてもらいながら俺は熟成魔法を掛ける。
肉の状態を見ながら熟成魔法を使う。
熟成されたら、お母さんエルフ達が燻製小屋に持って行って燻製。おじいちゃんおばあちゃんエルフ達が頃合いを見計らって取り出してくれるそうな。
ソーセージも作った。巨大なミンサーがあったので何故か聞いてみたら、ホットドックだけを大陸中の屋台で売ってたときの名残だそうな。……エルフ達ってすごい!
ついでにハンバーグも作って夕飯の準備をする。バーガーのパンズを焼きマシンの如く1万個作る。俺らは定食で食べるから数に入れない。
出前にお母さんエルフ達が行ってる内にチビ達と子どもエルフ達に夕飯のハンバーグ定食を食べさせる。
「明日カレー作って!」
「いいだろう」
ワッと広がる歓声。ふふふ、幸せだな。
スタンピードいつ終わるかな?この子達がその時笑顔でいられるだろうか?
ティムが俺の肩をポンと叩く。
「ロギ、難しいこと考えてるでしょ?やめなよ。僕らはチアーズクラブの活動をしたらいいだけだよ!ご飯食べよう!」
ほんわか胸が暖まる。
ティムをギュッと抱きしめて元気をもらう。その俺の背中からチェンバーが抱きつく。チェンバーは寂しがり屋さん。
俺達が団子になってるとエルフのチビ達もくっつく。最後は押しくら饅頭になり、見ていたおばあちゃんエルフ達が一人一人剥がしていた。子供って力強いよね?
ハンバーグ定食を食べて片付けしてると、セトさんが血塗れで運ばれて来た。
運んできたのはお母さんエルフの一人だ。
セトさんにポーションが使われて傷は塞がったが血を流しすぎてるみたいで今夜が峠だとお母さんエルフ達が下唇をかみながら見守ってる。意識はうっすらあるみたいで、必死に起きようとしてる。
「造血剤は?」
「そんな都合の良いもん無いさ!なんか元気が出る飲み物でも作っとくれ!」
そうか!!俺が作れば奇跡が起きるかも!
造血剤、血を増やすには?肝臓。ヨシ!レバニラだ!
鶏を1羽絞めて、解体して、レバーを取り出しチェンバーに氷を作ってもらって、血管を取る下処理をする。
慣れてないと食べにくいのでちょっと小さい1口に切る。ニラを収穫して来てだいたい4センチぐらいに切ると中華鍋に熱した油で新鮮な内に調理する。味付けは塩コショウ、摺り下ろしたショウガ、酒、ほんの少しの醤油だ。
女神様に半分お供えして祈りを捧げる。
もう半分は皿に盛り付けベンチに寝かされているセトさんに届けた。
「食べて、1口でいいから!」
「口に入…れ、て」
箸で摘まんで入れようとするが、口がそんなに開いてない上に歯が邪魔してる。
こうなりゃ、実力行使だ!
俺はレバーを1口噛んで磨り潰しセトさんにマウスツウマウスで舌で歯をこじ開け磨り潰したレバーを口内に押し込み水も同じようにして飲ませた。嚥下した途端、土気色だった顔色が良くなり真っ赤になった。
「熱かなあ?」
額を触るとそうではないようだ。
セトさんは、大きく震えている。
「もうちょっと我慢して食べて。はい、あーん」
セトさんは具合がまだ良くないのか震えているが、食べると具合が良くなるというのは理解したらしい。1口、もう1口と食べ続けてひと皿完食した。血の気は戻っており、寝落ちしても大丈夫そうだ。
チェンバーとティムがお母さんエルフ達に囲まれてるが何かあったんだろうか?
片付けてると、チェンバーが俺の肩に手を置いた。
「ちょっといいか?大変な話がある」
「やっぱりなんかあったのか?!」
「ロギ。お前の結婚が決まった!」
「は?」
え?!なんで?いつ?誰と?どうして?……まてよ。まさか、キスしたからとか、言わないよな?子供じゃ無いんだから。
「エルフの里では、相手の耳に触れるだけでも結婚が決まるらしいよ。それをロギったら相手の承諾ナシに舌を捻じ込む熱い口づけ。セトさん傷物にされちゃった上に、跡取りから外されちゃうんだって」
ティムの追撃に青くなる俺。
「だって、人命救助だろ?!」
「「一応神様的には人命救助と認められたから天罰は降ってない」」
「何じゃそりゃ?!何で天罰?!」
チェンバーが俺を店内の席に座らせた。机を挟んでティムが座り、チェンバーは俺の隣りに座った。
「この里が聖域なのは聞いてるよね?」
そう言いながら紅茶を入れてくれたチェンバーは、少し顔色が良くない。
「この里が始まって以来の大事件らしいよ。
エルフ達は里の中でエッチなこと全然しないんだって。頰にキスとかもダメらしいよ?それでね、このダンジョンが1番聖なる場所で今までエッチなことした冒険者達は塩の柱になったり、男の子が使い物にならなくなったりいろんな天罰が降されたけど今回はお許し頂けたが、エルフ達の掟は稔司様が相手でも守らせたそうだよ。頑張れ!」
ティムよ。正直ならいいってもんじやない。
チェンバーが俺にトドメを刺す。
「ちなみに稔司様は耳に触れただけで即日結婚だったそうだ」
「あ、相手の気持ちはよ!」
「ロギ、ツラいだろうが、良く聞きたまえ」
あ、スゲェイヤな予感がする。
「衆人環視の中で強姦されたのと大差ないそうだ。耳を触られただけでそういう認識だ」
さよなら可愛いお嫁さん……。
俺は将来の夢を諦めた。
セトさんをお見舞いに行くと性別不詳なエルフが枕元にいた。
「私はフージェール。この子の母親さ」
さあ、俺よ。腹をくくれ。
床に土下座して言った。
「息子さんを私に下さい!幸せにします!」
「うん、アンタなら良い。息子を助けてくれてありがとう。後はちゃんと口説いておくれよ!」
男を落とす口説き文句?悪いが思いつかない!
フージェールさんが出て行くと眠ってるセトさんと二人きりになった。
男らしい美貌のセトさんは綺麗かと聞かれれば10人中10人が綺麗だというだろう。
なんて、のんびり構えてた俺はスタンピードが収まった翌日ロクシターナさんに会うなりぶっ飛ばされた。
「セティーネをよろしく頼む」
セトさんの本名はセティーネと言い、何と両性具有者で、俺は可愛いお嫁さんじゃなくて、綺麗なお嫁さんを貰うことになってしまった!
お葬式一歩手前だった気持ちは今や天に昇らんばかりで、鼻歌交じりでスタンピードが収まった宴会の準備をしてると、ティムとチェンバーが呆れていた。
「もうちょっと楽しむつもりだったのに」
「いいなぁ、綺麗なお嫁さん」
ただ絶壁だけどな!男の胸板と変わらなかったよ!
フルーツポンチを作っているとセティーネがこっちに来た。
フルーツポンチをガラスの深皿に盛って差し出しながら言う。
「君が側に居てくれるならユーバリン神様の裳裾に触れてでも幾久しく君の側にいるよ」
《あい、わかった~!裳裾に触れる事を許す~》
皆、その場でひざまずく。
俺は荘厳な光に包まれて鳩尾辺りにあり得ない痛みを感じ意識を失った。