第2章 こじ開ける!
◆○◆○◆ナナ=ミュラー=クロワッサン(ロギ)
実李様が来てからというもの、トントン拍子で大神殿、観光地化計画が進んだ。山の山頂にある大神殿への徒歩での参拝客の為に途中に茶屋も作った。
宿坊は大神殿にあるので、ほんの少し足を休めて簡単で安い食事が出来る所があればと。
食事のメニューは蕎麦とまんじゅうにしようと見習い神官さん達を鍛えている。
運営するのは、見習い神官さんが適当だ。神官様達は神殿内の掃除とガイドに人を裂かれているのでこれ以上の無茶はさせない。
かと言って茶屋を少年達だけで営業させるわけにもいかない。
神官様達の掃除のお手伝いをしたいという、見習い神官さん達を募ったところ、たくさん集まった!
その分、厨房と茶屋を監督指揮する神官様達が抜ける。
愛し子達のクラスでは、彫金がアクセサリーブームを起こし、革紐で編んだアクセサリーなども作ってもらっている。今すぐ出来るというわけではないが、未来に繋げて行ける何かにはなった。
アルス達、5つ子に革紐で編んだアクセサリーを作らせて見ると簡単に綺麗に作ったので、他の子にも指導してもらうことにした。
それに加えてミニわらじを作ってもらった。さすがプロ。クオリティの高さとこめられた加護の強さに5つ子への賞賛の声が上がった。加護は金運招来である。
他には各神様の御守りや木彫りの神紋のネックレスなど、商品を作るのに余念がない。
その一方でエルフ達を大量投入して壊れた礼拝堂のベンチやら、朽ちた窓枠、壊れた食堂のテーブルを直している内に、せっせと、俺はジョシュアとユージンに料理のレパートリーとネクタール擬きを教えていた。
気が付けば青月が終わって学園は白休みに入った。
アールディル王国は雪が深い。
しかし、リチルや大神殿のあるメールドールは雪もそれ程積もらないらしく、今からが巡礼シーズン本番なのだという。
いろいろ食堂のメニューは考えたが、ネクタール擬きに小銀貨1枚使うので、他のメニューは大銅貨1枚あれば、食べられる簡単な温まるメニューにした。
餡掛け系と、温かいスープ系の日替わりメニューで、パンも1個付いてくるボリューム感満点だ。パンも専門の見習い神官さんが焼く、焼き立てパンだ。
今は、俺がとりあえず見習い神官さん達に野菜の切り方から教えながらシチューやポトフを日替わりで大量に作り味付けの監修をしている。白休みに入って4日目、思わぬお客さんがあった。
ティムとチェンバーだ。
「スラムの炊き出しは領主様がしてくれるようになったんだ!チョコレート工場で儲けたから任せておけって。大神殿来ちゃった!」
「私達に出来ることがあるなら、お手伝いします」
俺は2人をギュッと抱きしめ早速野菜の切り方や出汁の取り方を教えてもらった。
ティムとチェンバーは料理が1からだったから、教え方がうまかった!
見習い神官さん達の解らない所が解るので教えやすいのだという。
ジョシュア達とネクタール擬きを大量生産してるとジッと見てるので2人に半分こして食べさせたら何だか聞き捨てならないことを口にした。
「うわあ、体の調子が良くなった!」
「ホントだ!疲れてたのが吹っ飛んで行った」
無茶させてたか。2人の頭を撫でて謝った。
「炊き出し任せてごめんな」
「「泣くなよ!ナナ様。平気だから」」
嘘つき。疲れてクタクタだったクセにこんな所まで来てくれて……ティム、チェンバー、大好きだ!
ネクタール擬きを作らせて3週間経った頃、食べた巡礼者の病気が治ったというウワサが世間にばら撒かれた。
それからが大変だった!
ジョシュアとユージンと俺は朝から晩までネクタール擬き作りに腐心させられて、魔力枯渇で、毎日クタクタになって自分たち(俺の部屋にチェンバーとティムが押しかけて来て一緒に寝ている)の部屋に帰って寝るので精一杯だ。
あんまり、ネクタール擬きを求める人が多いので世の中には、そんなに困ってる人がいるのか。力になれたら良いな、とかつい、考えてしまったから、混ぜてたムースの量がどんどん多くなって、炊き出しの奇跡状態に。
慌ててボウルを後3つ持って来てもらった。十数種類のムースをつくり終えるまでそれは続き、その日ネクタール擬きを食べた巡礼者たちの半分が何かしらの体の不調が無くなったらしい。
ティムとチェンバーが魔力枯渇で倒れた俺の代わりにちゃんと炊き出し飯を作ってくれていた。
頼りになる奴らだ。
益々増えるネクタール擬きを食べに訪れる傷病者の為、俺とジョシュアとユージンは頑張って弟子を20人増やした!
ベルトコンベアー方式で、一つの作業だけをやらせるのを突き詰めていったら、俺がいなくてもネクタール擬きを作れるようになった。
残りの白休みは、炊き出し料理のレパートリーを徹底的に教えた。
そして白休みも、あと1週間。俺はティムとチェンバーとエルフ達と一緒に帰ることにした。
引き止める声は無くもなかったが、これ以上学園を休めないし、大神殿のことは神官さん達が中心になってやって行くしか無い。
ジョシュアとユージンに焼き菓子のレシピを渡してお別れだ。
「今度は赤休みに遊びに来るからね!」
もうジョシュアとユージンの瞳は不安に揺れてない。大丈夫だ。
俺達はエルフ達と転移魔法陣でエルフの里に飛んだ。
ティムとチェンバーは大騒ぎで赤休みに仲良くなったエルフの子達の家に突撃している。2人が遊んでる間に人魚の涙を稔司様に取ってもらって、10才児のロギ=ウェルバーに戻った。
「ややこしい事にならなきゃいいけど」
ため息と共に稔司様が呟く。
「?どういうことですか?」
「大神殿で作ったお菓子を新年のパーティーに作れとか、あの国王なら無茶ぶりするよ?絶対」
「死ねばいいのに」
「君も言うね。まあ、それをルベラ王太子殿下がお仕置きして止めているんだけど、新年のパーティーのコックには指名されるよ」
「人魚の涙下さい」
新年のパーティーまで、あと3日。
ついでに王都サイヴァンまで、転移魔法陣で飛ばしてもらった。
ナナ=ミュラー=クロワッサン参上!とう!
あ、招待状も何も持ってないや。
しかし、衛兵さんは俺を覚えていた。
「クロワッサン騎士爵ではありませんか?どうぞ城へお入り下さい!!方々がお待ちかねです!」
こうして近衛兵さんにラチられ、あのイヤーな国王と対面するハメに。
「よくぞ参った!今話題のネクタールを作ってくれるのであろう!」
「いえ、材料が手に入らないし、もし入っても奇跡は起こりません」
バカ国王は激高して俺に怒鳴りつける。
「黙ってソナタは作れば良いのだ!!口答えするなどとは、余に対して不敬ではないか!恥を知れ」
「……かしこまりました」
ホラ見ろ。嫌な想いをすることになった。
謁見の間に慌ただしく入って来たのは、ルベラ王太子殿下で、ものすごく怒っている。
「この暗愚王が!!」
ものすごい勢いでバカ国王はいいビンタを食らっている。一瞬、玉座から浮いていたのだが、集まった佞臣達は目を伏せて、見なかった事にした。
「私は言いましたよね?!クロワッサン騎士爵と謁見するときは私が主導で、と!私に知らせなかった上に別の用件を置いて行くなどとは言語道断!今すぐお前を殺す!!」
スラリと抜いたロングソードにビビった国王はぎゃん泣きして、命乞いをしたが、ルベラ王太子殿下はちっとも怯まなかった。
追いかけ廻されてついに宰相様の後ろに隠れた。宰相様は、バカ国王の耳元で囁く。
「しかし!それでは、余に不利益ではないか!」
「じゃあ、どうぞ。殺されて下さい」
宰相様はバカ国王を自分の前に押し出した。
追い詰められたバカ国王は股間を濡らしながら叫んだ!
「余は今を持って退位する!だから、殺さないで下さい!!ルベラ国王陛下様!!」
ルベラ王太子殿下はロングソードを鞘に収めると更にバカ国王に言質を取る。
「貴方のその言葉が本当なら、命までは取らない事を約束しましょう。皆さんもいいですね?」
佞臣達は手が千切れんばかりに拍手した。
佞臣達にも嫌われてたんだな。
明日にもバカ国王の退位とルベラ王太子殿下の戴冠式が行われる運びになり、大晦日に当たる日にアールディル王国内の貴族向けの昼餐会。元日に当たる日に対外的な貴族向けの晩餐会を開くそうで、お料理の監修をして欲しいとルベラ王太子殿下からのお願いに「喜んで」と答えた俺だった。