第2章 閉ざされた神殿④
あれから1週間が経ち、ポンコツ見習い神官達5人も野菜の下処理くらいで音を上げる事が無くなった。
水汲みも大人しくしている。
ちょっとだけ変わったのはクリス神官様が料理を手伝ってくれるようになったのだ。
すると手伝ってくれる神官見習いさん達がぽつぽつ来るようになった。
ジョシュア達をバカにするとボコボコにされるというウワサが流れたらしく、無礼者は
一人もいなかった。
それに皆さん楽しいのか、一度来ると続けて来るようになった。
アリオス達が横柄に教えていたら、情け容赦なく漏らしてたのを言ってやるつもりだったが、アリオス達は、むしろ優しく教えてあげていて、ジョシュア達と俺は驚いている。
お菓子も欲張らなくなったし、分けることこそないが、厨房でのルールを守り始めた。
1周回っておかしくなったんじゃないかと、クリス神官様に相談したら大爆笑された。
「あなたが、どの神様の子でも差別しないからですよ」
「ああ、俺はそういうのわかんねえからな」
「上位神様になるほど威圧感があるはずですが?」
「皆、一生懸命生きてるガキだよ。ビビってどうするよ?柔らかく包んでやればいい」
「「「「「「クリス先生!!ナナ様!!鍋の中にカイトが落ちた!」」」」」」
しまった!油断した!俺はトビアス様から借りている魔法カバンに入ってるポーションをありったけ持って厨房に戻った。
鍋からクリス神官に引き上げられたカイトはショック症状を起こしており、火傷もヒドい。包丁で、見習い神官のグレーのトーガを切って脱がせてポーションをかける。
それを見た見習い神官皆がポーションの瓶を手にし振り掛ける。
「誰かタオル持って来て!」
だいぶ、ショック症状も落ち着いたのか、カイトが話すようになった。
「ナナ様…ごめんなさい。デミグラスソース駄目にしちゃった」
「大丈夫だ。まだ食える。心配すんな!ポーション飲んでくれ。手は動くか?」
「うん、動く」
緩慢に動いた右手にポーションを持たせて飲ませたらだいたいの火傷が無くなった。
タオルが到着してカイトの前身頃にかけられた。後ろから見ても火傷は無くってほっと一安心していたら、右目が見えないと言いだした。慌てて右目を見ると濁っている。
ポーションをもう一度飲ませてもそれは変わらない。クリス神官が「ネクタールでもあったら」とぼやいた。
万病が治る神様達の食べ物のようだ。
厨房での仕事が終わった後、俺はクリス神官様にネクタールの特徴を詳しく聞き、製菓技術を駆使してネクタールらしき物を作った。
集中してたから疲れた。
気休めだが、カイトがいる救護室の窓から差し入れ。救護室には患者しか入ってはいけないのだ。
「食べて。俺の作った最高のお菓子だよ」
カイトはぴょんとベッドから飛び降りて満面に笑みを浮かべて、ネクタールの乗った皿と木のフォークを取ると床に座って食べ始めた。
「んん?!フワフワで美味しい!いろんな果物の味がする!これ、僕一人で食べていいの?」
「うん。皆には内緒な?じゃあ、また、明日な」
立ってられない程の眠気に襲われて、自分に与えられた部屋にようやく帰り、ベッドにダイブした。
次に目を覚ましたのは救護室だった。
「やっと、生き返りましたか?人間がネクタールなんか作るから死にかけてたんですよ?」
「じゃあ、カイトの目は?!」
「きれいさっぱりとはいきませんが、見えるようにはなりました」
「ちゃんと治してやりたかったな」
「はい、シャツを開いて。胸の音を聞きます」
聴診器なんか無いからおっさんに心臓の音を耳を付けて聞かれるいたたまれなさよ。
ベッドの横の机には、野の花がこれでもかと花瓶に挿してある。
「ちょっと過労気味でしたから、ゆっくり休めてよかったですね。もう、部屋に帰っていいですよ。お見舞いの花も持って帰って下さい!」
救護室の神官様はドライな方だった。野の花束を手にし廊下に出るとカイトがいた。右目にアイパッチしている。見えるようになったんじゃねえのかよ?
「ナナ様!!ナナ様!!ナナ様!!ごめんなさい!僕がお鍋に飛び込んだから、ナナ様が無茶した!し、死んじゃったかと思った!うわああああん」
「よしよし。死なないよ。まだまだ。目は見えるようになったんじゃねえのかよ?」
「グスッ、見えすぎるから塞いでるの。これでも見えるよ!鑑定眼って言うのになったの!眼の色も変わったから、神官様達がほかの子には黙ってなさいって言ってアイパッチされた」
「何で俺の仕業になってんだ?」
厨房へと廊下を歩きながら聞くと木皿とフォークを机の上に置いてたからバレたらしい。
「何でカイトは鍋の中に入る羽目になったんだ?」
「えへへ、味見したかったの」
ゲンコツをくれてやった。
厨房に着くと30人くらいの神官見習いさん達が動き回っている。
腹に衝撃が加えられた。ジョシュアとユージンが左右から抱き付いてる。
「花ありがとうな?いない間良く頑張ったな、ジョシュア、ユージン」
ジョシュアが涙をトーガの袖口で拭って俺の顔にビンタした。おふっ!!
「もう、魔力の無駄遣いしないって、約束して下さい!」
「それは無理。でも必ず生きてる!」
「威張るな!バカバカバカ!!」
「はいはい、ジョシュア、愛してるから許して」
「ホント?」
「ユージンも愛してるぞ。お前たちは俺の直弟子だからな。大事にしてるよ」
2人の頭をクシャクシャになるまで撫でると怒りは収まったらしく、今晩の献立の味見を仰せつかった俺はうどんを食べた。
「外側は溶けそうなのに、中は生って、もうちょっと細く麺を切らないといけないだろうよ。味付けもアクをちゃんと取ってないからギトギトしてるんだぞ?一つ一つを丁寧に、1番食べさせたい人を思い浮かべて作ってみろ。美味しく出来るぞ?とりあえずアクを取ろう」
麺は仕方ないからそのままで味わってもらう。厨房がちょっとした葬儀場みたいな雰囲気になった。
「で?ジョシュア達は何してたんだ?」
「「うどんの麺を捏ねてました」」
「切る方が難しいんだから、今後は切る方に回れ?うどんの生地は踏んで作ったらいいんだから、ほかの子にやらせろ。
ところで俺は何日寝てたんだ?」
「「「「「「「「「「4日です!」」」」」」」」」」」
やっちまったなあ?!そりゃあ誰もが心配するわけだ!
極太とんこつうどんにごまを振って紅生姜を載せる。アクは見事取り切った!塩コショウで味を整えて出来上がりだ。
麺は茹ですぎだけれど生より良い。
今日は、後片付けしなくていいから寝ろと部屋に帰された。
久しぶりに湯で体を拭いて着替えて寝たら、真夜中過ぎに頰を突かれて起きたらジョシュアとユージンとカイトがいる。
「もう時間か?すぐ行く」
「今日、もう少しで宝石商が来て愛し子の作った宝石が売られちゃう!」
大事じゃないか!
隣の部屋のクリス神官様に事情を話して捕縛に必要な神殿兵を手配してもらった。
その宝石商との会合場所は、尋問室その3だった。
クリス神官に連れられた神殿兵6名が、扉に耳を付けていざ、突入!
机の上には愛し子達の出した宝石と宝石商が出した金貨が麻袋をたっぷり膨らませていて申し開きが出来る状態では無くアサザール神官と名前も知らない宝石商は捕まったが、宝石商はちゃんと正規の金を払っているので罪に問えないのだという。
直ぐに釈放され、宝石は持って行かれてどうするよこの金?っていうくらいの大金貨が残った。
神殿の修繕に使われることに満場一致で決まった。
愛し子達の宝石を勝手に売られないようにするには、バカ国王の承認が必要で神殿長が使者に立つと言い即日実行した。
アサザール神官は神罰を受け庭の木の一つになってしまったらしい。




