第2章 メジャーデビュー
赤休みもあと20日!
ティム達とサンドイッチ屋さんで稼ぐ予定だったのに、カフェ【青月の星】の厨房で陣頭指揮している。
ちなみにチェンバーは叙爵式の為、王都サイヴァン入りしている。
赤休みが明ける頃、帰って来る。
ティムはエルフの出稼ぎ夫婦3組とレーゼ先輩達と大忙しのフル回転だ。
働く時間は夜中から15:00までで、ビッグボリュームベーコンエッグサンドという最早人間の食べ物じゃないくらいのバケットサンドを発売してからは、ますます人気に拍車を掛けている。
開発者はティムだ。稔司様の話に聞いたのか、食べたのか、不明だが、話に聞いた限りの物をブチ込んだ怪物サンドは大銅貨3枚もするらしい。…採算取れてるのかな?
いざ、ティムにそのお化けサンドを習おうとした時、アリアナ先輩が泣き付いて来たのだ。
「お菓子の店なのに皆パンケーキしか頼まないのよ!どうにかして!ロギくん」
店は工場地帯と商業地区の境にあって、商人達と工場の偉い人との会食の場に使われてて乙女なんかいない。
「場所悪っ」
仕方なくニーズに応える商品開発。フレンチトーストとハムチーズパンケーキを増やしておいたら、勝手に売れている。
サンドイッチもアリアナ先輩が悲鳴を上げてたが聞こえないふりでメニューを増やした。
惣菜をするなら、定食で提供出来た方が良い。
ま、俺がいる間なら問題無い。
「ヤメテーーーッ!!おっさんメニュー増やすの!!」
「アリアナ先輩、夢でご飯は食べられませんよ」
カフェ【青月の星】に通って10日目、初めて焼き菓子が売れた。
そこからウワサが広がり、わざわざ焼き菓子を買いに来る客まで多くはないが来るようになった。
店のパンケーキに生クリームとフルーツを爆盛りした商品をメニューに載せたら、大銅貨3枚するのに、遠征して来た冒険者達が1人1皿オーダーして喰いまくって帰った。
面白かったので定食にも爆盛りメニューを作ったら、家族連れが食べに来るようになった。そうすると焼き菓子が売れる!
焼き菓子が売れたらモチベーションが上がる【青月の星】の5人に焼き菓子を作りつつパンケーキを焼いてもらい、俺が定食対応して:1日に金貨1枚稼ぐようになった。
アリアナ先輩は理想と現実のギャップに落ち込みながらも金貨1枚が稼げる現実に傾きつつある。
店内の焼き菓子のポップも、「美味しいです!食べてみて!」から、「グレンマイヤー公爵の開いたお茶会で食べられた焼き菓子です」に変更したら、売り上げが10倍になった。
工場の偉い人達が箱買いして行く日もあり、皆で店を閉めてから必死で在庫を作る。
奮闘の後半戦はついに終わりを迎える。
チェンバーが叙爵されて帰って来たのだ!
弟子パン屋の厨房で2日がかりでごちそうを作り講堂で学年入り乱れてのお祭り!
出資者はサンドイッチ屋チアーズ。
カレーもラーメンも、うどんも、おにぎりも、ちらし寿司も、ポークの丸焼きも、シュラスコも、焼き鳥もお好み焼きもリンゴ飴もカステラ焼きもイカ焼きも焼きトウモロコシもたこ焼きも、クレープも、100%果汁のジュースも、エルフ達と屋台村を出しての大騒ぎに最初は皆ポカンとしてたけど、楽しんでも良いと校長先生のスピーチで、皆、幼い子供のようにはしゃぐ。
大人には、寿司屋が人気で俺も食べたいのに混ざれない!
仕方なくエルフの里の寿司屋さんが作ってくれた、海鮮ちらし寿司でガマンする。
俺の担当の屋台はチョコバナナクレープの屋台だ。行列の終わりが見えない。
今日はエルフ達が特別に、出入り出来るようになっている。トビアス様の口利きらしい。
チェンバーは叙爵式の様子を皆から強請られて放送している。
『その時、私は一般教養の授業を真面目に受けててよかったと心から思いました「スペンサー、それさっきも言ってたじゃねぇか!」おや、王城へ行ったら、そればかり考えなきゃいけませんよ。先輩。それぐらい世界が違うのです。あそこは」
大人達の何人かはうなづく。そうだよな、あんな馬鹿王じゃなかったら、もっと緊張してた。
手伝ってくれてるエルフのガキ、マリクが俺のヒジを引っ張る。
「ロギ、チョコレートソース無くなっちゃった!」
「かけ過ぎんなって、言ったろ!お仕置きだ!」
俺にこめかみをグリグリやられて泣いてるマリク。グリグリやりながら、チョコレートソースをどうしようかと考える俺。
「泣いてるじゃない!やめてあげなさいよ!」
「じゃあ、貴女はチョコ無くていいんですね、よかった!」
「あ、え?!それとこれとは別よ!」
マリクを許してやってセトさんにチョコレートソースを工場から取って来てとお願いすると、セトさんもマリクをグリグリしてからお使いに行った。お客様達を待たせているのも悪いので整理券を渡して放送で呼ぶまで自由にしてもらうことにした。
整理券は119枚配られた。つまり、それだけクレープ生地を焼かなきゃいけないわけで、思わずため息が出た。
バナナの在庫は十分うなってる。クレープ生地を弟子パン屋で作って講堂まで魔法カバンで運びこむ。
鉄板にお玉で生地を流しお玉の背で薄く丸くする。俺はあのおしゃれな生地延ばしとは相性が悪いのだ。お玉万能!お玉バンザイ!
◆○◆○◆
「はい、焦らなくてもまだチョコレートソースはあるから大丈夫です!ここが、チョコレートが味わえるチョコバナナクレープの屋台です!」
煽ってんじゃねぇよ?!ティム。
俺は1300枚目のクレープ生地を鉄板に落とした。俺の隣りでは、疲れてるだろうにチェンバーがクレープを組み立てて客に渡してる。
エルフ達?とっくに帰ったよ。
セトさんが、たっぷりのチョコレートソースを工場から持ち帰ってからが、地獄を見た。
もうライトの灯りが無いと真っ暗な講堂でこの屋台だけがポツンと残されている。行列はやっと最後尾が視認出来た。
ティムが余計なことを言うものだから、また最後尾が伸びた。後で泣かす!
ボロボロになりながら、何とか列を片づけ、俺たちもクレープでご飯にした。
背中合わせになってたチェンバーがポツリとぐちる。
「叙爵式めちゃくちゃ大変でした。ロギがチョコレートのことを1から10まで教えてくれてなければ城の厨房でチョコレートが作れなかったことだろう」
「そんなことまでさせたのか、あの愚王は」
「ロギ、ナナ様なんだってね?だからロギを叙爵したくても出来ないと言われて、私とティムは悲しかったよ」
トビアス様め!
「ごめん。2人ともそのことは部屋で話そう」
「「うん!」」
講堂を片づけて監督室に帰ると3人で朝まで語り明かした。
俺がどうしてナナ様にならなきゃいけなかったか、どうして赤さんなのに10才なのかも全部話した。
ティムは大号泣して「そんな家滅んじゃえ!」と叫んでいた。チェンバーは、人魚の涙の効果と結果に憤りを覚えたみたいでガスパールを敵認定している。
「ガスパールだけが、俺の心の支えだったけど、今はティムとチェンバーがいる。いつもお世話になってます」
ティムが俺のお腹にタックルして、チェンバーが俺の頭を撫でた。
「まずは、一般教養何とかしないといけないな。このまま続けてたら、3人が叙爵されるかもしれないから、頑張ろう!ロギ」