姉襲来
親父が姉たちを王都のタウンハウスに連れて来た。
その日から釣書があちこちの男爵や商会から山のように送られて来た。
長女サラはミレニア辺境伯家に送って来たらしい。
次女のシルフィ17才は豪商と結婚すると息巻いているらしいが、釣書の絵姿がイマイチらしくふて寝してる。ちなみに1人部屋だ。
3女のスーシャ15才は、まともなご飯が食べられたらいいと俺の店のコックさんズを狙っている。ちなみに釣書は男爵家の3~4男坊ばかりらしい。
4女のセリス13才は姉たちの中で一番可愛い。王都を歩くと100%の確率でナンパされるらしい。釣書が一番多かった。
5女のソーニャ11才、6女のイライザ10才、7女のアリス7才はまだ、物の通りがわからないからと釣書にお手紙を添えてガスパールがお返事した。
問題は明日のスーシャの16才の誕生日のパーティー会場なのだ。
マズルカ商会はマズい。俺とつながりが強いと見られる。
ガスパールが仕方なく母方の親戚筋を頼ったら、鬼の首を取ったような騒ぎ。
「いや!お母様の親戚なんか大嫌い!」
スーシャが暴れる。
よくよく聞いてみるとウェルバー男爵領の年貢の野菜を買い叩いてる大元らしい。
「ガスパール、ごめん、お前んちにするわ」
「ふふふ、いい気味です。ではあちらはお断りしておきますね」
ガスパールが怖かった!それならそうと言ってくれればよかったのに。
ガスパールはザマアしたかったのか?意外とそうかもしれない。
夜更けからバール会長宅の厨房で、パーティー料理がどんどん作られて行く。デザート半分、定番の丸焼きメニューに塩コショウを俺の適量使って調理。ローストビーフのサンドイッチは死ぬ気で作った。カナッペやパイ各種、華やかなショートケーキやマカロンなども添えて、クッキーやスコーンなども忘れない。今まで俺の作ったメニューはマズルカ商会のカイルシェフ以下コックさんズが作ってくれたから、パーティー会場は天国みたいな香りに満ちている。
そこにガスパール達が花や飲み物を配置していてこれが3年後にもあるのかとウンザリしたのは内緒だ。
パーティーが始まってすぐ招待客は親父とスーシャに挨拶するとごちそうにありついてる。1人だけ食べられないスーシャの機嫌がどんどん悪くなってるらしくガスパールが、スーシャ用にと1皿盛りしたデザートを氷室に入れて行った。
パーティーの間、休む間もなく料理とデザートの追加、追加で、コックさんズは肩で息をしていた。
作る物が無くなったのでやっとのことで片付け。……体が重い。
コックさんズも限界を超えて頑張った。
すべての片付けが終わると家人たちの夕食を作らなければならない。
簡単にローストビーフ丼とコンソメスープで賄った。それくらいしか残ってなかったのだ。
スーシャも嬉しそうに丼メシ食べてる。氷室に入れていたお菓子も出して温かい物は温めてサーヴした。
「ありがとう、ナナ様」
「どういたしましてお嬢様」
さて、幾らかかったかな?
事務所に行くとちゃんと請求書が出来上がっていた。金貨8枚くらいの予想だったのに白金貨1枚と金貨2枚の支払いに頬が引きつった。
ギリギリなんとか支払ってタウンハウスに家族で帰ると親父が俺のベッドで寝ている。
ゲストルームはカナ達親子が使ってるから仕方ない。ブランケットを巻いて絨毯の上で寝たら翌朝体が軋んだ。
ベーネが用意した朝ごはんを気が進まないよう食べる姉たちを黙殺して、マズルカ商会に向かう。カレッドさんと親父が着いて来た。
お値段のグレード別でフロアを分ける意味がわからなかったのだが、いわゆるお金持ちと、そうでない者の区別と貴族とのトラブルが無いようにという、2段構えだった。
物も考えようである。
2階が塩コショウを贅沢に使った物が味わえるフロアで食事する者が案内される様子が、貴族の1階のフロアで食べてる奴らに見えるという意地悪仕様である。
ちなみに一番チープな食事のフロアはその2つの派閥には見えない仕様にされているので、問題は、入り口を平民と貴族の2つに分けるかという話し合いになった。
ものすごく揉めた!
バール会長は分ける派。
ガスパールは中立派。
俺は分けない派。身分なんかクソ喰らえだ!
と、思ってたらやっぱり貴族の横暴というトラブルを避ける為だった。
「いっそのこと店の中に壁作っちゃえば?」
「「ソレはいけません!自ら貴族派と名乗る事になります!」」
うわぁ、ややこしい!
バール会長が見取り図の入り口を2つにした。
「それに、貴族でも低所得層は平民の店をよく使います。ビストロ【クロワッサン】で食事をしたことが誉れになるのですから、その夢を潰すような真似をしてはなりません!」
「店の名前それ?」
「職人の名前か、陛下から下賜された家名になりますが、王室御用達なので、家名を店名にするのが、常識です。【ナナ】にしますか?」
「ナナにしといて。クロワッサンがいつでもあるわけじゃないし」
ガスパールがうなずく。
「作るのに5日もかかるんです。気軽にポイポイ食べられたら困ります」
ふう、これで後は客席数と内装か。
バール会長がお茶にしようと言ったので気を抜いたら親父が、爆弾を投下した。
「シルフィの結婚とセリスの婚約が決まった」
「いつ?!」
「昨日のスーシャの誕生会でだ」
「もう、お金ないし、どうすんだ!」
「?何を言う。後白金貨1枚くらいあるだろう?」
「何言ってんだ!昨日使っただろ?!」
「な、何ィ?!支援じゃないのか!しまった!白の月40日目にシルフィの結婚式をこちらの費用持ちですると約束してしまった」
「馬鹿じゃない?!何考えてる!」
「そうです。旦那様何を考えてそのようなことを仕出かしたのかキッチリ語っていただきましょうか?」
ガスパールも俺もブチ切れて問いただす。
「いやぁ、ウチはお金が無いから花嫁支度させるのも中々大変だった、って言ったらなんと天下のサロンロール商会さんが、「結婚式の料理と料理代金を持ってくれるだけでいい」っていうから!シルフィは確か豪商と結婚したいんだろう?」
俺は温かい紅茶を親父の頭にぶちまけた。
「何でもかんでも、俺がすると思うなよ!」
「な、ナナ!何処へ行く?!」
あんまり頭にきたので、マズルカ商会の厨房に来た。
「カイルシェフ!なんか作らせて!」
「じゃあ、ハンバーグをお願いします」
今の俺の気持ちにぴったりのチョイスだぜ!
無言でミンチを大量生産していると察したのか誰も何も言わない。
ただ、ハンバーグを作り終えたら、カイルシェフがお茶に誘って来た。
「茶会やパーティーの度に呼び出される未来が何で想像出来ないのか!馬鹿め」
「サロンロール商会か、貴族派に媚び売られてる金貸しだな。豪商には違いないけども、もう第5夫人までいるぞ?わかってるのか、頭のネジが緩いウェルバー男爵は?」
「全く知らないと思う。お嬢様も旦那様も一度痛い目に合えばいい!」
カイルシェフにウェルバー男爵家の不満を全部ぶちまけたら、ちょっとだけすっきりした。
バール会長が呼びに来たのでまた、事務所に移動した。