第2章 リチル領主館でのお茶会
◆○◆○◆sideトビアス=グレンマイヤー
やれやれ、久しぶりに出来た休みにお茶会とか!どんな苦行でしょう。
結局、あの子を頼ってしまいました。
私には味方がいないのです。商人達が驚くような物を用意してくれると信じています。
……そんな言い方は卑怯ですね。信じるしかないのです。
ユーバリン神よ!どうか、このお茶会が成功しますように!
リチルに集まる商人達を掌握出来るかどうかのお茶会。
腹が焼け付きそうなほど痛い。兄上だったなら軽く飛び越えて行くのだろう。
あと、1時間でお茶会が始まる。
「旦那様!これを召し上がって下さい!」
家令のリオスが喜びも露わに真っ黒い焼き菓子を皿に載せて持って来た。ピッチャーには泡立てた生クリームが入っていて、付けて食べろと言うのだろう。
近づくと嗅いだことのない魅惑的な香りがする。
「これは何という菓子だ?」
「【ガトウショコラ】なるものです」
まずは、クリームを付けずに1口。食べたことのない蠱惑的な味に、もう一口と食が進む。
半分をあっという間にフォーク1本で食べ進み行儀が悪かったかと顔を熱くしていれば、生クリームの入ったピッチャーがリオスによって傾けられガトウショコラの上に乗った。
「俺は生クリームはあまり好きでは無い」
「いいえ!試すべきです!」
仕方なくちょっと付けて食べたら、濃厚なガトウショコラの味が甘い生クリームの味で一際引き立つ!
それからは、文句なく全部食べきった。
「これは話題になるな!リオス」
「えぇ、ロギ様達は隠しておりましたが、これはカカオから作られております」
「え?!あの激マズ媚薬の?」
「えぇ、昨日の夜、ルベル=スペンサーがとあるカカオ農園と永久契約を結んだそうです」
「やるね」
「私も違うルートでいくつかのカカオ農園と契約しておきました」
「プッ。早晩ばれるぞ」
「ロギ様はウチで囲います!決めました!」
「俺にもっと力があったらなぁ。余計な手出しはさせないのに」
「そんな弱気でどうするのです!グレンマイヤー公爵閣下!グレンマイヤー領の頂点を極めましょうぞ」
◆○◆○◆???
何という罪深い味!!これではクリームがまた進むではないか!
私の出っ腹がまた出るではないか!
これは何で出来てるのだ!?
トビアス様なら教えてくれるだろう!
トビアス様はどこだ?!
◆○◆○◆ロギ=ウェルバー
「何してるんですか?トビアス様」
「シーーッ!」
俺の口をふさいで俺を抱えて移動するトビアス様は端から見たら人さらいだ。
「あれ、何て言うお菓子?」
「チョコレートです」
「……すごいの作ったね。俺も幾つかカカオ農園と契約してるから材料の提供に協力するよ」
もう、バレてる!
「君はウチで囲うことにした!覚悟を決めた!サッサと帰らないと余計な騒動に巻き込まれるぞ?じゃあな!」
囲われちゃった!トビアス様ならオッケー!
カレッドさん達にも報告して帰ろう!
◆○◆○◆
「なにぃ?君の後ろ盾って、グレンマイヤー公爵閣下だったのか?!」
「だからチョコレートはあきらめて下さい。代わりにカレー屋さんはルベル先輩達にお願い出来ませんか?」
「それは公爵閣下にご相談されてから、だね。それくらいは待てます」
チョコレートがダメならカレー屋さんでいいらしい。ルベル先輩は心の広い人だった。
◆○◆○◆再び領主館
「というわけで相談に来ました!」
「カレー屋ね。好きにすればいい」
家令さんが緑茶をサーヴした。
「何割かをいただきますがね。ルベル先輩に金曜日の9:00に領主館を訪ねて来るようにお伝え願えますか?ああ、お手紙を書きますね」
家令さん意外と腹黒い?
ドキドキしてると余ったのかフロランタンサブレをお茶請けに出された。
「最後の1枚です。残念ですが小さいおにぎりはたくさん残ったので領主館の者で楽しんでいただきました。美味しゅうございました」
「他に残った物はなかったですか?」
「皆さん袋に入れて持ち帰ってました。このクッキーは旦那様の前にあったため皆が遠慮して取らなかった貴重な1枚なんです!」
「プッ!くすくす。貴重ですね、それは。俺は作れるからトビアス様にあげます」
「食べる!」
トビアス様は甘味もお好き。笑いが止まらなくてずっと笑っているとフロランタンサブレを食べ終わったトビアス様に頰を突かれた。
「頰が痩けてる。赤休みはチョコレート工場の作業が上手くいってからになるな」
「チョコレート工場?!」
「ヒドい商談の数なんだ!工場でも建てないと直ぐに品切れになる。必要な機械なんかあるか?」
ある!
「コーヒー豆の焙煎機と豆をペースト状になるまで粉砕する機械と粉砕した一切合財を混ぜる機械が欲しいです!」
「ペースト状とは?」
「離乳食ぐらいドロドロにする事です!」
「リオス思い当たるか?」
「アーモンドを粉にする機械で試して見て駄目なら作らせます。子飼いにしてた魔導具師が喜ぶでしょう」
「任せた」
「はっ」
「混ぜるのは、いろいろあるから大丈夫だ」
「上から材料を投入出来るタイプの機械にしてください」
「……かしこまりました。ロギ様、他にはどんな物が必要ですか?」
「最後に伸ばして板状に固めるんだけど、これがクーベルチュールっていう物で、まだ、チョコレート商品ではないのです」
「スペンサーは一通り見てたのか?」
「ルベル先輩は手伝ってもくれましたから、作り方はバッチリ覚えてます!」
ただ、グラム数とかが解らないだろうけどね。
「いい、いい!商品にするまでが肝なんだろ?クーベルチュールさえあればチョコレート商品がガンガン作れるって、事だな」
「はい!」
「チョコレート商品作りに必要な物を全部書き出せ!明日の朝まで帰さないぞ」
公爵閣下から明日の朝まで帰さないぞ宣言いただきました!ムーンライトノベルズなら恋が始まりますがなろうなので安心して下さい!
豪華客室に軟禁されて食材や調理器具を全部書くまで帰れない修羅場です!
眠くなるとリオスさんが緑茶と軽食を用意して下さいます。それでも何度か揺り起こされて冷たい果汁100%のジュースで目を覚ます。
リオスさんの幼児にも容赦ない職業意識の高さにドン引きしながら、いろいろ書き出していく。
やがて東の空が白む頃、ほとんどレシピを書いた紙束が完成!
優しくふかふかベッドに横たえられて俺は場所も選ばず寝落ちした。
起こされたのは夕暮れ。夕食に誘われたけどルベル先輩にトビアス様からの手紙も渡さなきゃいけないし、固辞した。
リオスさんにお手紙を渡されて馬車で送ってもらった。守衛さん達が領主の紋章入りの馬車にビビっていた。
弟子パン屋に行くと関係者全員で待ち構えていた。
「今日は営業した?」
「おにぎりで勘弁してもらえたよ!ロギはどうだった?」
「チョコレート工場作るんだって。材料とか調理器具を書き出してたら朝になって気が付いたら寝てた。ルベル先輩、これ、カレー屋さんの件です」
ルベル先輩はその場で封を切って読み始めたが、段々青くなり、フラ~ッと立ち上がって店から出て行った。
【青月の星】のヤジル先輩が工場で働きたいと言ってきた。
「工程わかってるから、生かせる所で役付き待遇受ける?」
「いや、俺は貴族でも12男だし、就職できるだけマシなんだ。それに、菓子作り面白い!コイツらも何だかんだ言って楽しめたから、仕事にしても良いかなって言ってんだ!」
「じゃ、このメンバーでカフェ経営しませんか?俺が1からお菓子作りも経営も教えますし、稼げますよ」
「「「「「お前今スゲエ悪い顔してるぞ!」」」」」
「ふふ、自信ありますもん」
イアン先輩が言う。
「明日までに話し合っておく。それからだな」
そう言って去って行く。アリアナ先輩が泣きそうな顔をして俺の胸を殴る。
「私はどうするのよ!バカバカ!」
「カフェなんて、1軒や2軒でリチルの全部のお客様が賄えるわけないし味が確かなら軽食もあった方が良いです。レーゼ先輩と共同経営してみたらどうですか?」
「【カフェ・ナナ】第2段ね!ステキ!レーゼ、ちょっと来い!」
哀れ、レーゼ先輩はアリアナ先輩にひきづられて店を後にした。
チェンバーが「ご飯」と短く主張した。
なんか美味しいものが食べたい気分だったので、スラッシュボアの生姜焼きと豆腐の味噌汁、キムチに肉じゃがにした。
ティムとチェンバーのガッツキ様が怖かった。ご飯1升炊いたのに何も残って無いって怖えよ!
ご飯を食べたら眠気がガツンとやって来た。
赤休み、どうなるかなぁ?