第2章 リチル領主館でのお茶会に向けて
「「ええ!?お金どうするの!」」
「カレッドさんに貸してもらう。あと、ルベル先輩とイアン先輩を逃がさないでね?じゃ、俺は【フェンリルのため息亭】に行って来るから、頼むよ!」
あ、そうだ。
「報酬の魔法カバン、登録2人もしといて」
「「はいはい」」
チェンバーはその魔法カバンの性能に気付いたようで、登録する手がわずかに震えている。一つが温かい料理専用の魔法カバン。もう一つが冷たい料理専用の魔法カバン。つまり、どちらも目が飛び出るほど高いってこと!
こういうのは専門の職人さんにオーダーする特化型の魔法カバンだから、盗まれたらすぐわかる。
チェンバーにもらった魔法カバンを預けて、【フェンリルのため息亭】へと急ぐ。
まだ、帰ってなかったので、【カフェ・ナナ】によってカカオを全部押収した。
「何で今日から店に出さなかったの?」
「今やってる事で手一杯です!お披露目はロギ様に任せます!ついでにチョコレート商品売って下さい!」
「ご、ごめんね?迷惑だった?」
「ウチは現状で満足してます!頑張って下さい」
チョコレート商品は迷惑だったらしい。ものすごく落ち込んでいると明日も明後日もカカオが届くから取りに来るようにソウルさんに言われた。
トボトボと【フェンリルのため息亭】へと向かうとカレッドさんが待ち構えていた。
「白金貨1枚下さい!」
「何かあったのですか?」
「皆で学園に来て、手伝ってくれない?」
「滞在出来ないんですよ。ロギ様」
「貴族の200人のお茶会を引き受けたんだ」
「ハム、ベーコン、サンドイッチの野菜、卵任せて下さい!明日の朝、お持ちします」
「ありがとうございます!カレッドさん」
「学園まで送ります」
白金貨1枚分のお金を金貨100枚でくれたカレッドさんは俺が学園に入るまで見守っていてくれた。
学園内の店に行くとルベル先輩からレーゼ先輩まで、まんべんなく皆で小麦粉塗れになって、パンを作っていた。
「遅くなってごめんなさい。ルベル先輩、砂糖と塩と呪い粉を売って下さい。砂糖は在庫ギリギリまでお願いします。同じくアリアナ先輩もミルクと卵を売れるだけ売って下さい。レーゼ先輩も小麦粉を在庫があるだけ買います!お金はここに」
金貨100枚の入った麻袋を調理台の上に出すと手を洗ったルベル先輩が中身を改めた。
金貨100枚を確認するとアリアナ先輩とレーゼ先輩と相談してお金を分配し始めた。
それでもまだ、金貨40枚が残っている。
イアン先輩が金貨2枚を取って厨房から出て行く。
「肉を狩ってくる」
「コーンブルとポークお願いします!」
ルベル先輩が他に必要な物を聞いて来たので、ふくらし粉をたっぷり頼んで麻袋の金貨を押し付けた。
「あと、【カフェ・ナナ】にカカオの受け取りと支払いお願いします」
「カカオ?!……わかりました。こちらでやっておきます」
「先輩方、ご迷惑お掛けしますが、よろしくお願いいたします!」
「「実家に帰って来る!明日の昼には来る!」」
アリアナ先輩とレーゼ先輩はパン生地を放置して行ってしまった。
ルベル先輩は手を洗うとパン生地をまたこね始めた。丁寧な仕事ぶりに感心してると、チェンバーに頰を抓られた。
「早く働け!」
その通りだ。魔法カバンを棚に置いて、手を洗う。小麦粉を手に付けて放置されたパン生地からまとめていく。触った感じでどこまでの工程まで進んでいるのかわかるので作業を黙って進めてると「何でわかる?!」「変態か!」などといういわれの無い罵倒を浴びせられた。オーブンで焼き上げると、その香ばしい匂いにお腹が空いてきた。
氷室にはミルクと卵が2人分。フレンチトーストを4人分作って皆で食べた。
ルベル先輩は初めて食べたらしく、幸せそうな顔をしていた。
小麦粉があるだけ食パンを焼き上げ、さすがに疲れたので部屋に帰って寝た。
しかし、ルベル先輩は憑きものが落ちたみたいな落ち着きようだった。何があったんだろう?
明日はプリンやババロア、ムースなんかから作って、焼き菓子焼いてチョコレート商品作り。明後日はサンドイッチとかの軽食と小さな菓子パン作り。
頑張るぞ!オー!!
2日目。冷菓作り。アイスをリストに入れるのを忘れていた。
食材は午前中に揃った。
アリアナ先輩が嬉しそうにムースを作っていたが、途中で泡立てるのに疲れて離脱。
ちょうど良いところに戻って来たイアン先輩達【青月の星】の皆の腕力を借りた。
ヤジル先輩がお菓子作りに目覚めたので早速そのままチョコレート作りへ。粉砕の作業ははかどった。混ぜるのは、交代でした。チェンバーが魔法で冷却して皆で板チョコの試食。ルベル先輩がカカオをありったけ注文していた。アーモンドチョコレートにレーズンチョコ、ザッハトルテに、ガトウショコラ。生チョコにチョコチップクッキー、チョコマフィンにチョコスコーン。
皆、生チョコが好きみたいだ。ラム酒っぽい強いお酒を少し入れたバージョンも大好評だった。
普通の焼き菓子を作ってると、ルベル先輩が恥ずかしそうにキャラメルパウンドケーキが食べたいと言った。いいとも!俺もそれ好き!
しかし、今日は一日の食事が、お菓子の試食だけで終わりそう。
「ティム!雑炊作って」
「わかったあ!」
真夜中に食べた卵雑炊はじんわり美味しかった。
【青月の星】は焼き菓子作りにも役立ってくれた!持つべき者はマッチョな先輩!!
3日目。トンカツの油の匂いにやられてる場合じゃないぜ、俺!
ほとんど2徹になったから、一人づつ仮眠を取っているのだが、俺は休めないので食べるのを控えている。満腹になると眠いからだ。
【青月の星】のメンバーはへっちゃらみたいで、単純作業をこなしながら、時々モグモグしてる。戦闘民族強い!
プチカレーパンを揚げていたら、気持ち悪くて嘔吐いてしまった。
しっかり、皆に目撃されていてサンドイッチを腹一杯食べさせられ仮眠させられた。
チェンバーが催眠魔法をかけたのだ。
1時間近く寝るとすっきりした。
チェンバーの後頭部を軽く殴って許してやった。ローストビーフのサンドイッチを作っている最中みたいで、皆食べるのをガマンするのに必死だ。
時刻は18:00を指している。カレーパンの具の残りのキーマカレーをご飯で食べさせる。サラダにはオニヨンドレッシングをかけて。スープは出来合いだが、若芽スープを。
皆一日ぶりのご飯を奪い合うように食べていた。
俺は今日は揚げ物大臣。今から天むすの海老天を揚げる。
エルフの里からの持ち込みだ。さっきの若芽もそう。
ご飯食べたい人だっているんじゃないかな?1口サイズなら気にせず食べられるだろうし、海の幸はリチルでは珍しい。
天ぷらの衣は炭酸水でとく。この方が、軽く仕上がるのだ。一時期ビールでとくのが流行ったけど、炭酸水で十分だ。ビールがもったいない。
油を変えてから、揚げる。ジュワッ!美味しそうに海老が赤くなる。出来心で1口つまみ食いすれば、俺の後ろに列が並んだ!
「暇人どもめ…」
「今、天ぷら待ちだもん!サンドイッチももう終わるよ?」
ティムにアーンしてやると幸せそうにモグモグしながら離れて行った。
2番手はルベル先輩。猫舌だったらしい。苦悶の表情で食べていた。
3番手はアリアナ先輩。冷めた海老天を脇から取って行った。
後は鋼鉄の舌でも持ってるらしく揚げたてを突っ込んでも平気だった!
最後に果物の処理。リンゴはアップルパイにメロンや桃は昨日作ったムースに盛り付けて。パイナップルはボートにして、そのまま食べさせる。
全体から見ればほんの少しずつジャムにして、プレーンのスコーンに添える。
このガラス製の器とか、瓶とか、100均で買って来たんだろうかっていうくらい、オシャレでサイズがちょうど良い。
エルフの里提供なのだ。カレッドさんにも、ちゃんと提供された野菜や果物、ハム、卵、器の分お支払いしたんだが、安かったので100均疑惑が俺の中で湧いてるのだ。
カレッドさんの「エルフは器用だからね」を丸ごと信じるほど汚れないわけないし!