第2章 待望の!
夜の内に学園を抜け出して歩いて街中までたどり着いた頃には明け方だった。
店の裏口のドアをノックしてみるが反応なし。仕方なくその場に座り込んで寝た。
だって、疲れたんだもの!
途中から温かくなって、不思議に思って目を覚ますと、【地獄の番犬】のマミヤと一緒のベッドで眠っていた。びっくりした!
「坊や、カフェで働きたいの?もうすぐ仕込みに来るからまだ、寝てなさい」
「厨房行っててもいいですか?」
「仕方ないわね。連れて行ってあげる」
マミヤは着替えると俺と手をつなぎ2階のクランの住居から、1階のカフェ・ナナの厨房に案内してくれた。
ソウルさん達第2班がもう来ていて食パンやパイ生地を作っていた。
「ロギ様!学園はどうなさったのです?!」
「気になったからサボった」
「とんだ不良少年だね。頼んだよ、ソウルさん」
「ありがとうございます!マミヤさん。早速何ですがこの実を見て下さい」
山盛り持ってきたのはカカオの実だった。
これで念願のチョコレートが作れる!
カカオの実を解体してカカオ豆を出す。手の空いた者から順次その作業に移る。
ある程度豆を取り出したら香りが出るまでフライパンで焙煎。焙煎によって味が変わるので同じくらいの時間で焙煎を止める。
次に粉砕だが、金槌でペースト状になるまで叩いた。カカオバターが分離して出たので一切合財なめらかになるまで混ぜる。
魔牛のミルクと砂糖を加えて固めたらチョコレートらしきものが出来上がりだ。
試食してみて、まだ、難点はあるが、今の段階では、仕方ないだろう。粉砕機とコンチングマシンが欲しい。特に粉砕機。カカオバターの半分がまな板に染み込んでもったいない。その分が還元されれば、もっとなめらかで口溶けのいいチョコレートになるのに!
「はあ~」
「何をすねてらっしゃるのです?!これは革命ですよ!」
「なんとも魅惑的な味」
「なるほどこれが入手したかったのですな!」
「はいはい、使い方教えるから集まって」
おれはチョコレートを溶かして使う方法を教えた。ガトウショコラ10台分を焼きグラサージュしたものや、ザッハトルテ風に横半分に切ってジャムを挟んだものなどいろいろバリエーションを作って示した。
チョコチップクッキーやチョコバナナパフェ。切って混ぜたり、溶かして混ぜたり、一通りやってみせるともう夜になっていた。
ソウルさんが辻馬車を捕まえて学園まで送ってくれた。
「勉強も大事ですぞ?」
「送ってくれてありがとう!ソウルさん」
馬車を降りる時にチョコチップクッキーとガトウショコラを渡された。
「お友達と先生によろしくお願いします!」
「う、うん。アハハ」
監督室に帰ると激オコのティムとチェンバーが待っていた。
「何で起こしてくれなかったの!!」
「一緒に行くとか言いだすだろ?同じクラスで3人休んだら目立つから。ほら、お土産」
「わあ!…って騙されないんだからね!」
「これ、作りに行ってたんだよ。喰ってみろ。晩飯食べるか?」
「「食べる!」」
紅茶をチェンバーが入れて2人はチョコチップクッキーを食べ始めた。
チェンバーが驚いている。
「これ、カカオか?!」
「そう。よくわかったな」
「薬で飲んだことがあるけど、お菓子の材料だったんだな。クソッ」
何か遺恨があるようだ。ぱぱっとチャーハンを作り2人の目の前に置く。
2人はガツガツ食べて怒りを忘れたらしい。代わりに根掘り葉掘り今日一日のことを聞かれた。チョコレートの精製方法は教えなかったけど、ガトウショコラを食べた2人はまた食べに行きたいと無茶ぶりしてきた。
「ダーメ!チョコレート高いから、ムリ!今日は給金代わりにもらって来たんだ」
「「そうなんだ」」
薬として流通してたならそれなりの値段が付いてるだろうから、ウカツな約束はしない。
今の俺は手持ちのお金が無いのだから!
2人は未練タラタラで食べ終わった木皿を見ている。
「カカオが手に入ったらね!」
俺も甘いな。2人は喜んでいたが、その後チェンバーの部屋に行ってしまった。
まだ、怒ってるのかな?
……なんて、心配してた俺がチョコレートより甘かった!!
ヤツらは、昨日置いて行かれた意趣返しに今日から期末試験というのを黙ってたのだ!!
もう許さん!お昼ご飯抜きにしてやる!!
一般教養の試験が明日だったから良かったものの、今日だったら、釜の薪にしてくれたわ!!
「ロギ~。機嫌直してよ~」
ぷいっ。
「ロギ。悪かった!許してくれ」
ぷいっ。
「「お願いします!カレー食べさせて下さい!」」
仲直りの為に疲れてるのに作ったカレー。許してやるものか!
「ロギだったら1日目の数学と商業と語学は大丈夫だと思ったんだよ!お願い、許してぇ!」
「……もう騙さない?」
涙と鼻水で顔面コーティングした2人がうなずく。
「「もう騙さない!ごめんなさい!!」」
あと鍋底に少ししかないカレーを2人に盛り付けてやる。あ、俺の分が無い。ま、いいや。
すると、ティムが、カレーを木のスプーンですくって、俺の口元に差し出す。チェンバーも同じようにしてる。
まったく、憎めないな。2人からの1口を食べて後はたべさせた。余ったご飯で雑炊を作って食べてると教室にダグラス先生がやって来た。
「ウェルバー!いるか?!面会だ!早くしろよ!」
ただ事では無いようだ。急いで雑炊の残りを飲み干して口の中の米粒を更に水で押し込む。
カレッドさん達だと思ってました。
応接室で待っていたのは、トビアス様の家令さんでした。
「チアーズクラブ代表ロギ=ウェルバー。領主館にて来たる4日後の茶会に相応しい軽食と菓子を作って来るように。報酬は魔法カバン2つです。
グレンマイヤー領領主 トビアス=グレンマイヤー公爵より、仰せつかりました」
魔法カバン2つ?!欲しい!
材料費はカレッドさんにお願いしよう!
「ロギ=ウェルバー、承りました!」
「では、先に報酬を渡しておきますね。使用者制限がかけられる魔法カバンです。魔力を流せば登録完了です。大切に使って下さい」
「はい!ありがとうございます!あの、何人規模のお茶会ですか?」
「200名です」
多いな。
ま、今までのお茶会に比べると微々たる物。
やってやらあ!
多分、トビアス様お困りなんだろうし。
「我が身を賭して頑張ります!」
まずは明日の一般教養の試験からだ!
「資金調達は出来ますか?」
「はい。出来ます」
「食材は?」
「何とかします」
「よろしい!では、頼みましたよ」
トビアス様の家令さんはそういうと帰って行った。
部屋の隅に控えていた校長先生とダグラス先生が何かを相談している。
応接室を出て行こうとすると校長先生から声が掛かった。
「ウェルバー君、試験は免除するから、チアーズクラブの7人で、4日後の茶会を必ずや成功させなさい!」
「チアーズクラブ5人ですよ?」
「監督生としてルベル=スペンサーと、イアン=フリッターがいるだろう?あとで君らの店に全員を呼んでおく」
ラッキー!先輩達とまた縁が結べる!
アリアナ先輩とレーゼ先輩にも本格的にパンを仕込める!
何より一般教養の試験が無い!
「ありがとうございます!」