第2章 本格的活動③
明けましておめでとう御座います!
今年もよろしくお願いしますm(__)m
ルベル先輩の「小銀貨1枚使ったカレー付き朝ごはん」のオーダーに、俺は早速マルメラータを作り始めた。
バターで、みじん切りにした香味野菜を炒めた物がソフリットなんだが、それをもっと黒くなるまで炒めたのが、マルメラータだ。決してお焦げではない!これが隠し味だ。
ソフリットも作ってダブルで使う。
お肉を漬けるマリネ液を作っていると、イアン先輩のクラン【青月の星】が帰って来たとチェンバーからの連絡。
監督室を使用してるのを見られたらヤバいので、魔法カバンを持って待ち合わせ場所に行く。
初代校長の像の前であちらも魔法カバンから今日の収穫を出す。全部解体されてた。
「いやぁ、遅くなってすまん!良い素材の肉が獲れたからギルドで解体してもらってた」
「へえ、何の肉ですか?」
「こっちの赤身ばっかなのが、ブラッドウルフっていう狼系魔獣。レッドパイソンとそんなに肉質は変わんねえけど、安いんだ。
こっちのサシが入っている肉がコーンブル。小型の牛系魔獣だ。群れで来たからいっぱいあるぞ!明日の朝7:30、寮の食堂で会おう!」
「はい!たくさんありがとうございます!」
「その半分は食べるからな!気にするな!」
ええ?!この半分も1食で食べるのかよ!どんな胃袋してんだよ!
小山になっている肉を魔法カバンにしまい、監督室へ帰ったら、ティムが雑炊を作って待っていた。
「ティムありがとう!……あれ?割りと美味しい?」
「そりゃ毎日見てたら覚えるよ!僕のこと何だと思ってるの!ヒドいよ、ロギ!」
俺の胸をポカポカ叩いてくる激オコのティムを何とかなだめて、作業再開した。
コーンブルの肉を塊で太い糸で縛ってカレー定番野菜をカットしたものとマリネ液に漬ける。
ここで新しく使えるようになった魔法【熟成】で時間短縮する。
この魔法は煮込み料理の時間短縮にも使えて便利だ。
炊き出しの時間短縮したくて冗談で鍋に魔力を流したら頭の中に【熟成】の魔法の解説が浮かんだのだ。2~3回不発だったけど、使えるようになってからは、向かうところ敵知らず。どんどん使って行こう!
1晩漬ける所を1トーンの【熟成】で終わらせ、肉を取り出し、一口サイズに切って行く。
小麦粉をまぶして大きな鍋に油を引いて炒める。魔獣肉の独特の臭みを取る為にフランベする。
「わあ?!火ィ点いちゃったよ!消さなきゃ!ロギ」
「これはこういう調理方法だ。酒が飛んだら火は収まる」
水とマリネ液と野菜を加えてソフリットと煮込む。【熟成】で短縮。ルーとスパイス、マルメラータを加えて混ぜ合わせ、最後にリンゴのすり下ろしを混ぜて10トーン程鍋底からかき混ぜながら、水を足す。水分が飛びやすいのでモッタリするくらいまで、水を入れて調整しないと焦げる。
出来上がり!
ちゃんとジャ○カレーの辛口ぐらいにしたのでアールディル王国民にも満足いく一品だろう。魔法カバンに入れて、今度はご飯を炊く。
「僕の出番だね!」
ティムを馬鹿にしてたようだ。ティムは洗米を覚えていた!
安心して任せていたら、水の量がわからなかったらしい。教えてあげるとピュアスマイルでお礼を言われて思わずぎゅっとハグする。
「僕のこと小さい子だと思ってるでしょ?!バカにして!ロギも僕と同じ年なんだからね!」
プンスコ怒ってるティムはなんか、弟がいたらこんな感じになってほしい見本だ。
カレーの試食でごまかして、タンドリーチキン(ならぬブラッドウルフ)を作り、ナンを焼き、ポテトサラダを作り、塩コショウを振っただけのバーベキューも焼き、グリーンカレーやココナッツミルクを使ったブラッドウルフのカレー、コーンブルを薄切りして白菜ときのこを使ったキムチ鍋。
配合を変えてブレンドしたカレー味のフライドチキン(?)。ちゃんとお出汁を取ったカレーうどん。全部温かいまま、魔法カバンに入れてチェンバーが来るのを待つ。
7:00まであと少し。ティムは俺のベッドで眠ってしまった。いいなあ、俺、精神年齢は大人だから、大事な取り引きを前にして眠れるような太い神経は持ってないんだ。
チェンバーに丸投げ出来るなら喜んでそうする!
だが、カレーのレパートリーはまだ、本体しか食べさせてないから、説明、俺がしないといけないんだよなぁ。ふ~。
ノックの音が聞こえる。
ティムがガバッと起き上がった。
「行くよ!ロギ」
「……良く起きられたね?」
「そりゃ、朝ごはんの為だもの!」
……野良猫並みの食い意地がなせる技に部屋に入ってきたチェンバーと呆れるのだった。
◆○◆○◆sideルベル=スペンサー
金曜日の朝が来た。
「小銀貨1枚の朝食、か。私も偉そうになったな」
自嘲的に微笑むとイアンが私の顔を覗き込む。
「小銀貨1枚も使ったら、王侯貴族並みの物が喰えるな!」
「まあ、期待はずれだと思うのですが」
私は他人には無い【神の舌】というスキルを持っていて例の乱痴気騒ぎの9日間の晩餐会、全てに出席し、あのナナ=ロウ=クロワッサン騎士爵の本物の料理をほとんど舌で味わった。
偽物と本物の差は罪作りなほど違う!【カフェ・ナナ】にも行ってみたが、カフェ・ナナのサンドイッチと本人が作ったものでは技量が違う。もちろん美味しいが、それだけだ。
ナナ様の手料理は絶賛して止まないほどの美味しさだった!例え何人かの手が入ってようが、指揮する者が有能なだけで、それは驚きの料理に変わる。
私のスキル【神の舌】は美味しい物だけを追い求める。100を知ってしまった今、50以下では満足出来ないのだ。
カレーをもう1度食べて見たくてスパイスをブレンドしているが、調理方法がわからなかった。そこに、「ナナ様の直弟子」である。
ある程度の美味しいカレーなら、いい気にさせて調理方法を引き出す。
そして料理の腕だけは良い、スペンサー伯爵家の料理人に私の舌の記憶を頼りにナナ様のカレーを作ってもらうのです!
などと、いろんなことを考えてる内に寮の食堂へと着きました。
「へえ、一丁前にテーブルクロスなんて敷いてやがる!」
「料理はどこだよ!」
「何で簡易魔導コンロがここにあるんだよ?」
「7:30にまだなって無いからな!もう少し待とう」
チアーズクラブの3人は約束の時間ぎりぎりに来ました。
1番小柄なロギが貴族に対する挨拶をします。
「お待たせ致しました先輩方。この世の贅を尽くした料理、たっぷり味わって下さい」
「ガハハ、なかなか、大口を叩くな!ロギ」
イアンが笑う。私もそれに乗っかる。
「ナナ様の弟子であることを恥じなければよいですね」
チェンバー達が魔法カバンから調理したての料理を出し始めるとえも言われぬ香しい香りが食堂いっぱいに漂い始め、私達は注目の的になった。
先ずはカレーかららしい。黒っぽいカレーが炊いた米に掛けてあると説明するのを聞きながら一口いただく。
……これは?! 乱痴気騒ぎの9日間で味わったカレーと具こそ異なれど違いは無い!
「これは貴方が作ったんですか?!ロギ」
ティムが答えた。
「全部、ロギが作りました!隣で見てましたよ?」
では、絶対に外さない【神の舌】判定では、ロギ=ナナ様ということになる。
確か1度遠目で視認したナナ様もこれといった特徴のない茶髪、茶色の目のビンガ王国人。ロギの特徴そっくりです。
しかし、埋まらないのは年齢差だ。
とりあえず後で問いただすことにして今はこの料理達と出会えた幸運に、食べて食べて乾杯しましょう!