第2章 本格的活動②
ルベル先輩のいきなりの命令にチェンバーを見た。
チェンバーが頷く。「大丈夫」と口パクで告げられて魔法カバンから買い物を床いっぱいに出す。
するとルベル先輩は服の合わせから羽根ペンとインク、ノートを取り出し、何を幾らで買ったか、どれが店の仕入れの商品か、事細かくメモしている。
「今日の売り上げは?」
「小銀貨4枚です」
「……仕入れに全部使って、肉はどうするつもりですか?」
冷たく言われて縮こまる。
「裏庭で調達します」
「危ないでしょう!話になりません!チェンバーよくぞ、私を頼ってくれた!肉の調達はイアンに頼みます。パン屋の息子…は、探してみます。経営は私が教えるので3人とも、学びなさい!」
「っていう事はルベル先輩もチアーズクラブに入部ですか?」
「私は私で【マハトマ商会】という小商いをしているので本当に1日1時間くらいしか、勉強を見てあげられないよ。入部はイアンとあと何人くらい、パン職人がほしいんですか?」
「秘密を守れる力の強い男の人が一人か、二人欲しい。代わりにお金はあげられないけど、俺が知ってるナナ様のパンのレシピを自分で店が開けるくらいまで、叩き込んであげる!」
するとルベル先輩は口元を片手で覆い隠して何事かつぶやきチェンバーの部屋を出て行った。
「「チェンバー!!どういう知り合い!」」
「魔法カバンに買い物を入れ給え。ルベル様は私たちチアーズクラブの立ち上げを手伝ってくださった恩人だ」
俺とティムは一気に脱力した。
チェンバーは魔法カバンを俺からひったくると買い物した食材を次々と詰め込み、紅茶を入れてくれた。
やっと落ち着いて話ができると思ってたら、何故か、紅茶のカップの数が多い。
「すぐ、戻るよ。ルベル先輩はムダな事がキライだ。今日の内にいろんなことが決まる。逃げるンじゃありませんよ」
話が聞こえていたかのように10トーン後、ルベル先輩より大きくて騎士見習いって感じの筋骨隆々としたくすんだ金髪の学生がチェンバーの部屋を訪ねてきた。
「高等科普通学科3年生イアン=フリッターだ。チアーズクラブの肉の調達の件で訪ねてきた。リーダーは誰だ?」
ティムと俺はチェンバーを指差す。
「チェンバー=カートンです。ご足労いただきありがとうございます」
「ボランティアで肉は狩れない」
やはりね。危険と隣り合わせだもんね。
「そこで、だ。肉を狩って来た日には翌朝、食事をクランの人数分出して欲しい。朝からガッツリ食べたいから頼む!」
「クランは何人くらい、ですか?」
「俺達は「青月の星」という5人のクランだ。もし、鍛えたいなら一緒について来るか?」
ついて行きたい!でも、明日の昼ごはんの準備がある。
そういうとあっさり諦めた。……もう少し粘ってくれ。行きたいんだから!
イアン先輩は今から狩りに出掛けると言って部屋を出て行った。
よく考えたら俺、夜寝られないんじゃないか?!
ティムが俺の手を握って言った。
「手伝うよ!」
「じゃあ、洗米からね」
「はい!」
洗米が何かさえわかってないティムに料理を教えるのは骨だ。
だが、仕方ない!信用できる人材こそ宝!
ダイヤモンドになるまで育て上げるのだ!
力が入ったところでルベル先輩がもやしっ子を1人とオネエ様を1人連れて来た。
オネエ様が俺の両手をひとまとめにして握って息のかかる距離での自己紹介。
「私は、高等科商業学科1年のアリアナ=デポラ。【デザート・クロワッサン】みたいな店を作りたいの!お願い!私にデザートを教えて!」
「ルベル先輩、どういうことですか?俺はパン職人を頼んだはずです!」
ルベル先輩はアリアナの後頭部をバシッと叩いた。そしてその綺麗な金髪の髪をわしづかみにして、超低音を発した。
「アリアナァ?物事には順番があるって、あれほど言ったよなぁ?もう、貴方は要らない!来なさい!!」
アリアナの大暴走だったようだ。髪をひきづられて去って行った。
残されたもやしっ子が慌てて自己紹介した。
「中等科商業学科2年生のレーゼ=カーマインです!パン職人になりたいです!よろしくお願いします!!」
「……初等科商業学科4年生のロギ=ウェルバーです」
「同じく、チェンバー=カートンです。チアーズクラブでは、会計を務めております」
「ティム=ガランです。パン職人です!」
「いやぁ、びっくりしたね、アリアナ先輩が来るっておかしいなって思ってたけど、予想通りで引きつっちゃったよ!」
「いや、別に良いんですけど、ルベル先輩が言ってたように順番があるって事です。私たちはお金を貯めて食堂を中等科になったらやりたいんです。そこにデザートの店が加わったって良いと思ってますけど、今、経営してるパン屋を任せる人が欲しかったんで、あの人では駄目ですね」
ドアの向こう側で大号泣が聞こえて来た。
ルベル先輩達、まだいたんだ。
呆れながら、ドアを開くとしゃがみ込んで身も世もなく泣いてるアリアナとそれを冷たく見下ろすルベル先輩がいて、廊下中の注目を集めていた。
「邪魔だからどこか行って下さい」
すると俺の足に縋り付いてアリアナはこう訴えた。
「いぢねんばんば、パンや、をやるがら、のごりのいぢねんでデザードを、おじえでぐだざい!おねがいじまず!おねがいじまず!」
「それって俺らに何の得もないですよね?」
「いえ、ありますよ。アリアナの家は大牧場なんです。悪い取り引きではないと思うのですが?でなければ、わざわざ私が声をかける訳がないでしょう」
エグエグ泣いてるアリアナを見下ろす。
意外と力持ちのチェンバーがアリアナをシャンと立たせて部屋に引きづり込んだ。
「紅茶が入れてあります。ルベル先輩もどうぞ」
「ごちそうになろう」
灰青色の使い古した小さな部屋には不似合いな大きなテーブルを前に6人は改めて自己紹介した。
「改めて、自己紹介をするわね。アリアナ=デボラよ。実家は養鶏場と乳牛を育ててるわ。大牧場って言っても、傾きかけなの。私、次男だから、鶏の卵とミルキーパイソンのミルクを使って何かしら出来ないか、って思ってたら最近ミルクと卵がよく売れるようになったの!調べたら、ナナ様のカフェで使ってたの。ようやく、鶏のエサのツケが払えそうなの!ありがとうございますってナナ様にお伝えして」
アリアナ先輩もいっぱいいっぱいだったんだな。さっきはかわいそうな真似をした。
「私はレーゼ=カーマイン。小麦農家の4男です。規模としてはそこそこの作付面積を誇る中堅農家ですが、父さんと母さんの人が良すぎて儲けになってない!何で人間用の小麦を養鶏場のエサにしてるのか、訳分からんわ!
そういう訳で私がパン職人になってパンを焼く!少しでも、儲けたい!」
まさに、魂の叫び!
次はルベル先輩が口を開く。
「私の商会【マハトマ商会】は呪い粉と砂糖と塩を扱っております。どうぞごひいきに」
あとは、米かぁ……
「米農家の誰かは引っ張り込めませんか?」
「それは炊き出し用でしょう?」
「いえ、食堂用でも、あります。呪い粉を使ったカレーという料理には米がすごく合うんです。炊き出し用にたくさん欲しいっていうのもあるんですけど」
ルベル先輩はアゴに指を添えて少し考えていたが、服の合わせから皮財布を取り出し、小銀貨1枚をチェンバーに渡した。
「イアンが今晩、肉を調達するでしょう。明日の朝、そのカレーという料理と何かデザートをこのお金分作って下さい」
仕事の時間待ってたら1話できたので更新します。よいお年を!