第2章 ウワサ
「おい!聞いたか!部室棟から夜遅く帰るとスゲェ美味しそうな匂いがするんだってさ!どこの部活だろう?」
「全く君は色気より食い気だね。何とも言えないウワサ話よりどうやって明日のパン代を稼ぐか、考えてくれ給え」
アイタタタタ~!結構夜遅くに調理してんのに、バレるか!もっと遅くにしないとダメだな。
結構そのウワサは拡散してるようであちこちで推測が囁かれている。
「匂いをたどればいいじゃない!」
「それがさあ、部室棟が締まって1時間経った頃に匂いがするみたいだから、探ってたら巡回の先生に見つかって怒られちゃったんだよね。もう、俺今年ペナルティ取れないし誰か代わって探って来て」
明日から冷たい料理か。まだ、肌寒いから温かいスープとか、アツアツのご飯とか、誘惑される。
お金がなくてお昼ご飯食べない組のプチ商家の子息、子女達のコミュニティに入らせてもらっている俺。
時々、青白い顔をしてる貧乏平民のティムにはこっそりバケットサンドを渡している。
いい奴なんだよなぁ。
家が貧乏過ぎて3食無しは当たり前。それなのに、それを嘆くでもなく楽しそうに留学生の不良(仮)の俺に声をかけて来た。
面倒見のいい奴で薬草学や魔法も積極的に教えてくれる。
そんなティムがある日剣術の授業中にぶっ倒れた。皆、心配して駆け寄ったが、腹の虫が盛大に鳴いてるので、俺が保健室に連れて行った。
往復ビンタで起こしてツナマヨサンドを食べさせた。
「いいか?ゆっくり、食え。感想はいらん!無言で食え」
ティムは一切余計なことを言わなかったし、聞かなかった。
あれからひと月。
美味しそうな匂いがするウワサは科を超え、高等科にまで広まっていた。
イヤだけどナナ様の屋敷に帰るしかないかも。
「ロギ、チェンバーの部屋でお茶しようよ」
チェンバーとは、冒頭でウワサ好きのガキと話していた本の虫だ。ちなみにすこぶる美形だが、固い性格のせいで入園から3年経った今声をかける女の子も男の子もいない。
実家は小規模茶園。あまり売れてないらしい。仕送りは紅茶だけ。
今日は何の話だろう?
◆○◆○◆チェンバー=カートン
「さて、美味しそうな匂いがするウワサの主は君だね?ロギ」
「違う!」
明らかに動揺してるのに否定するこの面白い生き物を害するつもりはないのだが、何の為に隠しているのか、話させて気を楽にしてやろう。
「まず、一つ。ウワサが経った頃に君が来た。二つ、寮に住んでるというのに寮で見たことが無い!言っておくが寮生は気づき始めてる。昨日、君は尾行されてた」
「え?」
「ティムが声をかけて煙に巻いてたから、君とティムは共犯とみた。当たらずとも遠からずだろう?」
「そんなんじゃないよ!失礼なこと言うなよな!」
激昂したティムの肩にそっと手を置き、ロギは観念したように独白した。
「学園との約束でどことは言えないんだけど部室棟の近くに住んでる。ティムにも初めて言った。共犯なんかじゃない。全て俺が悪いんだ。屋敷に帰るよ」
声をかけるのもはばかるほどの落ち込みように私は慌てて話を続ける。
「待て!私は君を追い詰めたかった訳じゃない。出来れば秘密を共有したいと考えてる」
「どうやって?もう、無理だよ」
「いっそのこと逆手に取って高等科の空き教室で店をやらないか?私は紅茶が出せるし顔が使える、ティムは愛想がいい。ロギは表に敢えて出て、作ってるのは別人だと思い込ませる!」
「無理。俺、ナナ様の弟子だから。すぐバレる」
ナナ=ロウ=クロワッサン騎士爵の弟子?!すごい!
「でも、部活動だから、部員調べたら解るよ?」
「わかった。割り切る!でも高等科で、って無謀じゃないか?」
ティムがニコニコ笑う。
「高等科になると皆、何らかの商売してるから、お金持ちなんだよねぇ。気持ちよーく使ってもらおう!」
「空き教室と申請は私がやろう」
「部活動の名前付けないと!」
「どんな料理を出すかにもよるだろう?」
「ヒラメキ部?」
「「却下!!」」
「ガツガツ食おう「「それ部活名か?」」あ、食いしん坊クラブ!」
ティムの迷名では、胡乱な部活動になってしまうとロギと私が話し合って決めたのは、「チアーズクラブ」。同じ境遇の食べられない学生の昼ごはんを作って応援する部活。
ボランティア活動だから、トップダウンで許可申請がすぐ通った。
部費もあちこちからかなり集めたみたいで職員室近くの空き教室は廃墟寸前から、本格的なパン屋さんが出来るだけの構えになった。
◆○◆○◆sideロギ
食堂には程遠いが誇れる一歩だ。
ティムはパンを作るのを手伝ってくれるというので簡単に作り方を放課後に教えてたら何と「発酵」を1時間かかるのを魔法で5分に短縮した。
俺は大喜びで、ティムが魔力枯渇寸前になるまで、やってもらっていたら、俺も出来るようになり、50斤もの、食パンを作っていた。俺は魔力量が多いらしい。
その日は分厚いフレンチトーストを3人で食べて紅茶を飲んで夕飯にした。
夜なべしてハムを作って仮眠した。
土曜日は、初等科と中等科は授業が無いので、朝早くから店で3人で、作業する。
俺はサンドイッチの具を作り、ティムはチェンバーと食パンを必死で切っている。
「なるべく薄くな!無理はするなよ、破れるからな」
2人に注意事項を伝えてトンカツを揚げていると換気が良くないらしい。
高等科の職員室がトンカツの匂いでいっぱいになったとクレームが来た。慌てて小窓を開ける。
「ウオオオオオー!何だこの香ばしい美味そうな匂いは!」
「弟子パンの商品の匂いだろ?後で買いに行こうぜ」
「弟子パン、侮れないな!」
弟子パン、って何だ?
チェンバーとティムが笑っている。
「ナナ様の弟子のパン屋さんだから、弟子パン!アハハハハ」
「チアーズクラブ関係ないじゃん!ハハハ」
コイツらの分のカツサンドには辛子を塗りたくってやったが、そこは辛いもの大好きなアールディル王国民。全く平気だった!
パンの耳は切ってパン粉にしている。リサイクルしまくってる。
バターを切った食パンに塗ってもらってる間にキャベツの千切りと茹で卵をして、パンの片面にバターが塗れたらその上からマスタードを塗る。飽くまで薄くだ。
2人にはコスト削減の為だと言ったが、これから先はデンジャラスゾーンだからだ。
その上に千切りしたキャベツをお行儀良く載せマヨネーズ。ソースを付けたトンカツ、バターを塗った食パンではさむ!
4つに切り分けたらチェンバーが油が染みない紙袋に入れて出来上がり。流れ作業でハム卵サンドイッチやハムチーズサンドイッチを次々作って行く。合計200点のサンドイッチが並んだ。
1点大銅貨2枚だ。材料費が高いので仕方ない。先生方がフライングで買い物に来たが大銅貨2枚は高いらしく二の足を踏んでいる。
「先生、僕はこのカツサンドがおすすめ。土曜日しか開かない店だから、記念に買ってよ!」
ティム、セールストーク上手いね!はい、お買い上げ!!
他の先生が躊躇ってる内に、もう食べたのか初陣を飾った女教師が、並んでるだけの先生方をかき分けて声を大にして言った。
「カツサンド12個ォオオオ!」
「「「ありがとうございます」」」
迷っていた先生方のハートに火がつく。
「「「「「私も1つ!」」」」」
午前の授業を終えた高等科の学生がソレを見てカツサンドを勢いで購入。
あっという間に120個のカツサンドは無くなり、リピーターが他のサンドイッチを買いに来て30トーン経たない内に売り切れた。
用意していた看板をカウンターに置く。
売り上げ金は1食も食べられない学生のお昼ご飯と仕入れ代に使わせていただきます!
本日はありがとうございます!
チアーズクラブ