レオとシルフィの結婚式とその裏側
レオにもくれぐれも出席するよう口酸っぱく言われたが、ギリギリまで明後日の披露宴でお土産に配布する焼き菓子を焼いていて結婚式に遅刻。
精霊への誓いの言葉を述べるレオとシルフィの煌びやかな姿にすっかりドン引き。
幾らかかってんだ?!その衣装!!
一回しか着ないのに、無駄遣いするなよな!
レオは普段の鬼みたいな顔を引っ込めて、イケメンスマイルをシルフィに振り撒いているが、シルフィは凶暴で他人の心が解らない悪女なんだぜ。
それなのに結婚式を挙げるのはサロンロール家が俺の料理の腕が欲しいから。
世知辛い。三男坊ってそんなポジション何だろうか?かわいそうで泣きそう。
あ、今壇上のレオと目が合った。笑って睨んでる。スマン。遅くなった。
新郎新婦退場。
ご歓談中にお邪魔します。
「遅れて申し訳ありません。ナナ=ロウ=クロワッサンともうします」
サロンロール当主殿は。油断ならない目をした金髪のイケオジであった。
そして、俺を2度見して、新郎のレオの頭を思い切り張り倒した。
何事も無かったかのようにご挨拶。
「ブッシュ=サロンロールです。大変、忙しい中駆け付けて下さりありがとうございます。息子のワガママに付き合わせて申し訳ありませんでした」
「いえ、シルフィ様に立派な花嫁衣装も用意していただき感謝の念に絶えません。どうか、これからもウェルバー男爵家を幾久しくよろしくお願い申し上げます」
「それだが、別邸をレオに譲るから、1階でそのデザート専門店とやらをレオを支配人としてやらせていただけないか?」
「食材をマズルカ商会から仕入れる条件なら構いません。こちらも契約を交わしているので勝手な真似は出来ないのです。ご容赦下さいませ」
ブッシュ氏はニヤリと笑う。
「義理堅いのも良い!ますます惚れたぞ!ナナ殿」
「5番目の愛妾には、ご勘弁下さい!」
「私は男はダメじゃ!そろそろ帰られるが良い。披露宴の準備が大変であろう?」
ヒソヒソと耳打ちされて、頷く。
「では、失礼致します」
結婚式場から急いで離脱した。
今日から3日間店は休みだ。【ナナのハンバーグ屋さん】しか開いてない。パン屋さんも絶賛休業中で、ひたすら食パンを焼いてもらっている。ハンバーグ屋さんの厨房から呪詛の声が聞こえてきそうだ。
コックさんズの5班は焼き菓子の詰め合わせに回した。人が足りないのだ!
レン達3班はショルツと一緒に手間のかかる焼き菓子を担当してもらい、マドレーヌやらマフィン、スコーン、アイスボックスクッキーは1班と2班で流れ作業で進めている。もはや、菓子職人ではなく、マシンと化している。
明日からはレオがブッシュ氏からもらう別邸とやらで厨房を借りて調理する予定だが、どれだけ広さがあるのか?場合に依ってはこの厨房の方がよかったりするのでガスパールにちょっと今日の内に偵察して貰おう。
◆○◆○◆
「広くて綺麗でございます。ただ、サンドイッチはナナのパン屋さんで作らせて運ぶ手はずにした方が調理台を広く使えます」
ガスパールの報告に苦笑。
「調理台が狭いのかぁ」
「いささか。しかしながら氷室はこの店より大きゅうございますから、菓子を作るのには向いているかと思います」
確かにアイスクリームとか、ババロア、ゼリー、プリンが大人気だもんな。
特にプリンが異常な人気がある。毎日1000個以上オーダーされるからプリン係が見習いコックに2人いる。
デザートを食べる為に通っているお客様もいるらしい。
バイキングの日とか、作ってやったら喜ばれるだろうなぁ。
「そうだな。ショルツ、レン達はいつ仕上がる?」
「気合い次第です!」
「あ、そんな感じかよ…」
レン達は店舗が見つかったのを聞くと一気に緊張ムードに。
ショルツに背中をど突かれていた。
「レオが支配人だからな、よく怒鳴られるぞ」
俺が言うと皆が大爆笑した。
ヨールがクッキー生地を木じゃくしで混ぜながら爽やかに言い放つ。
「それはナナ様だけッス!」
「何で俺だけなんだよ!」
「ナナ様が、世間知らずだからッス!」
「……それは否定出来ない。悪かった」
「「「「「「「そんなナナ様が皆好きです!」」」」」」
「お、おう!これからもよろしくな!」
「「「「「「「「「ハイ!喜んで!!」」」」」」」」」
◆○◆○◆
菓子作りが終わるとすぐ、ソース類の仕込みが始まった。
時刻は真夜中を過ぎている。
ショルツ抜きの1班で、大量のソース類を仕込む。
「ふぁああ~~、ねぶいっす!」
「ソース類仕込んだら寝ていいぞ。頑張れ」
「朝までに終わるんすか?」
「気合い次第だ!」
「それはウソっすね」
ヨールは超現実的だった。
野菜の切り出しに見習いコックが半分自主的に起きて来たのには助かった!
お給金をちょっと多くしてあげよう。
翌朝になり、昼前にソース類が終わった!
肉が次々届くのを魔法カバンに全部入れてレオのもらったサロンロール家の別邸へ幌馬車で移動。
「来るのが遅いんだよ!!」
待ちかねて玄関ホールをうろうろしてたレオに発見するなり怒られた。
「心配掛けたな!生花が届くから、室内の飾り付けよろしくな!しかし、デカいな。この屋敷」
王族の持ってる離宮くらいの広さがある。
女の人の持ち物だったのが、すぐ解るくらいエレガントなたたずまい。
「会場はほとんど設置が終わった!こんなに時間なくてホントに大丈夫か?!」
「大丈夫、明日の昼までには時間がたっぷりある!俺を信じろよ!」
「厨房に案内する!来い」
案内された厨房には、イライラしてるサロンロール家のコックさんズが20人もいました。
「お待たせいたしました。ナナです。では早速鶏の丸焼きから始めましょう!」
料理教室講師風に話しかけると、ムッとしてたのが、真剣な顔になる。
俺が作る鶏の丸焼き、冷めてもおいしいっていう噂が流れてるから、つかみはオッケー!
サロンロール家のシェフのロジャーさんが、サンドイッチの作り方が知りたかったらしい。
ここで作らないというと【ナナのパン屋さん】まで出掛けて行き戦線離脱。紹介状を書きました。あと15名のサロンロール家のコックさんズを遠慮なく、シチューを作るのに使う。ポットパイにするので、大量にいるので候。
また、半分に分裂したから魔牛肉の赤ワイン煮を作らせる。
ヨシ!!もう分裂しない。
そこからは俺達のペースで次々と調理する。
魔牛肉のローストビーフ。付け合わせのジャガイモのガレットや芽キャベツのブリュッセル風。ラタトゥイユ、カボチャのコロッケ、ポテトサラダ、マカロニサラダ、キンカンの甘露煮、まあ、100種類くらい作った。
チーズ系は当日にしか作れないから、そこら辺は考えて。
生野菜物も当日の朝だな。
メインは大きく分けて50種類×数皿、用意した。
その中でも、レオから特にと希望があった、サンドイッチ7種類とキャベツをくり抜いてミンチを詰めてトマトソースで煮る丸ごとシューファルシー。丸ごとシューファルシーは賄いで出したのだが、レオがものすごく気に入って店のメニューに成り上がった料理だ。
シチューを作り終えたサロンロール家のコックさんズがシューファルシーを見て食べたそうにしている。
ああ、もう22:00か。そりゃ腹も減るよな。
丸ごとシューファルシーを何個か、切り分けてバケットをスライスしてガーリックトーストにして、食べる。いただきます!
俺は満腹になると寝ちゃうからガーリックトーストだけ食べてシューファルシーは今日一番頑張ってるショルツにあげた。
ショルツは披露宴でホールケーキを切り分けてサービスする役目をレオから命じられているので、もう、そろそろ寝る時間だ。
あとは俺がデザート担当する!
シャルロット・オ・ポワール。見映えがする洋ナシのケーキ。リボンで縁のビスキュイを丸ごと止めてオシャレに仕立てる。
プチシューを積み上げてアイシングがけしたプロフィトロール。クッキーの皿に乗せてどうぞ。
シューと言えばサントノレ!カスタードのパイの上にたっぷり生クリームを絞って周りを王冠のようにプチシューで飾ったどっしりとしたパイ。飴がけしてスライスしたピスタチオナッツを飾った姿が完成形。
パイと言えばピティビエ。
特徴は放射状に入れられた模様。見た目は何の変哲も無いパイだけど、1口食べるとアーモンドクリームの豊かな事!!絶品の一品。
アップルパイの2口バージョン。
ショーソン・オ・ポム。ぱっと見葉っぱみたいな見た目をしてるけど、スリッパの形だそうな。
ショーソン・ナポリタン。貝殻の形のカスタードレーズンパイ。味が好きだから選んだ!
華やかなケーキは全部ショルツが作ってしまったから味にバリエーションがある物を大量に作る。レモン風味のロールケーキとか、ミモザケーキとか。パイナップル風味のトルテとか。頑張ってみた!
当日の朝までに全部で150台のホールケーキが出来た!
チョコレートがあったら、もっとバリエーションに悩まなくてすむのに。
気が付けばショルツが、起きて来て初見のケーキを書き写していた。
ヨールは仮眠取れたみたいで、大量のケーキを見て食べたそうにしている。
さすがに喰わせない!
朝ごはんは鶏粥でちゃちゃっといただき、直ぐ作業。徹夜も4日目になると、さすがにキツい。粥もそんなに食べられない。
グーグーお腹を鳴らしながら粛々と生野菜物が整えられる。スティック野菜とたらこマヨネーズのディップ。思わず食べたら皆に心配された。
ショルツがシュー皮にダブルクリームを入れ始めた。
ステーキが焼かれる。そちらは会場に帰って来たサロンロール家のシェフが差配してくれている。
大根のコンソメスープが鍋ごと会場に運ばれた。
オーブンでポットパイが卵の黄身を塗って焼かれる。
会場の外で大砲の音が響く。
「じゃ、宣伝してくる!1班よろしくな!」
「「「「「「「任せとけ!!」」」」」」」
「ロジャーさん、よろしくお願い申し上げます」
片手を上げてのお返事。頭も下げておく。
新しいコックコートに着替えて、いざ、出陣じゃ!