講習会《1》
「講習会でお金を取る?ええ?そんなに人来るか?」
ガスパールは渋い顔をしてお口が悪いという。
「何が何でも来るでしょうね。まず、うちのマズルカ商会からです!金貨1枚いただきましょう」
ちなみに金貨1枚は100万円だ。
「お金借りてるからただでいい」
「テイ!」
「痛い!痛いだろ!ガスパール」
法律全書で殴られた俺はガスパールを見て戦慄を覚えた。
「ただでいい訳ないでしょう?こちとら山ほどの借入金があるんですよ!取れる時に取るんです!!」
「う、うん!わかった!俺が悪かった!」
「今夜はナスとポークの白ワイン煮がいいです」
「は、はい~!了解です!」
時々キレるガスパールが怖い!
体が縮み始めた。ガスパールが慌てず騒がず例の香草茶を入れる。俺は慌てて飲んでナナの姿に戻った。
「しかしながら、サラ様のご結婚には困り果てましたな」
長女で18才のサラは何とミレニア辺境伯爵夫人になる。大恋愛の末の大団円だが、ウチには侍女もいないし、ばあやが行くしかない。
家事全般任せておけとは言ったものの正装を11人分と花嫁道具を持たせなければならない。
ああ、まさに火の車!
「ただいま!ナナ!ガスパール!今日はとびきりの報告がある!」
親父の調子外れのご機嫌は要注意だ。
それは本当にいい事か、俺はガスパールと視線を合わせた。
「ドラゴンをテイムした!スゴかろう!」
「「何で倒して来ないんだよ!!売ればサラの結婚式代になっただろう!」」
「俺達、もうマブダチだぜ!」
ドラゴンのエサ代もかかるのか、ますます家計に負担になる。
ドラゴンをテイムするような脳筋とケンカしたくないが一言言う。
「このバカァアアアア!!」
「まあまあ、ポーク6頭仕留めて来たから許せよ!」
考え事をしてたガスパールが悪い顔で笑う。
「旦那様、お話しがございます。ナナ様は夕飯をお願いします」
裏の畑からもいできたナスと解体したポーク肉で、ガスパールのリクエストのナスとポークの白ワイン煮を作り、朝焼いた食パンをクロックムシューにして、ハーブのサラダを付ける。まだいるなら白パンを食わせておけ。
うちの姉達は良家の子女のように躾けられているから面倒くさい。何一つ自分でやろうとしないのだが、性格だけはよろしい。
だから、俺が甘んじて下僕のように従っている。親父たちが食堂に入ってきた。
今からご飯だ。サラがチラチラ俺を見ている。何だろう?
「お父様、先日の件考えていただけましたか?」
「サラ、駄目だと言ったはずだ!」
「何故ですの?!お嫁入りにはコックが必要ですわ!それに「お前はウチの家がどうなってもいいと?!」そんな大げさな話ではありません!」
「親父、もうばらしちまえよ」
「次の当主のロギだ。魔導具で大人になっている。お前たち弟に面倒見られて恥ずかしいと思わないのか?こんな貧しい暮らしの中、何故助け合って生活しない?いつまでもお姫様気分じゃ困るんだよ!!」
しくしくメソメソの夕飯は何だか胃が痛かった。それでも思い切り食べて食器の後片付けなんか見向きもしないんだな!
赤休みで学校から帰省しているお姫様たちには、反省だけしか出来ないのだとガッカリした俺だった。
ガスパールが見かねて片付けを手伝ってくれたが思いも寄らない事を言われた。
「明日から10日間王都に行きます!下男用の服を5日分用意して下さい」
「何で王都に?」
「金策です」
一度は行きたいと思ってたけど、いざ、そうなるとウキウキして眠れない!
小学生か!!
セルフツッコミして何とか寝た。
翌朝早く起こされて下男の服に身を包み森へと親父とガスパールの後を追いかける。森の前には緑色のつやつやしたウロコの若いドラゴンが荷物を背負ってドーンと待っていた。
聖獣にひざをついてご挨拶。
「新緑の美しい方、初めてお目にかかります。オーキンス=ダン=ウェルバーが8子、ロギ=ウェルバーと申します!今日からよろしくお願いします。この姿の時はナナとお呼び下さい」
《そなたは慎み深いな。載せてやる》
「ありがたき幸せ、光栄に思います」
ドラゴンでの旅は屋根と壁の無い飛行機で旅行するような物だったが意外と寒くない。
不思議に思って聞いて見るとドラゴン自体が魔法で風と空気をシャットアウトしてくれてるらしい。……感謝!
王都まで馬車で6日かかるのをその日の夕方に王都の空港に到着した。
ドラゴンと親父を空港において、俺とガスパールはマズルカ商会の会長宅へと馬車で向かった。
冷遇されると思いきや、大歓迎だった。
ただ、ついたらすぐ講習会だった。
野菜の保存とかは明日以降の講習会で聞くから調味料を知りたいらしい。
良ければ野菜と関係無いのも、と言われたのでミートソースとデミグラスソースとベシャメルソース、バーニャカウダや、アヒージョ、いろんなドレッシング、マヨネーズ、チーズフォンデュなんかも教えたら、試食パーティーになり、大盛り上がり。
シェフのカイルさんがメモを取りまくっていた。コックさん達は野菜の切り方や下処理の方法などを勉強していた。のんびりモグモグ食べてたのは、マズルカ商会の子供達だけで、ガスパールとその息子のバール会長は、この講習会の値段交渉で朝まで話し合っていた。
朝日が出てから休んだら昼過ぎにガスパールに起こされた。
例の香草茶を飲まされて講習会に行けば、昨日のパーティー会場がコックさんとそれを連れて来た商人で埋まっている。
野菜の保存方法と簡単な調味料の作り方を教えたら、ケチャップとマヨネーズ、いろんなドレッシングが好評だった。
料理は出すなとマズルカ商会のバール会長に言われてるので出さなかったがちゃんと金貨1枚づつ、講習会費をもらえたので、少し欲が出た。
「新しいパンの作り方に興味ある方はまた明日のこの時間から講習会をします」
それを聞いたガスパールが、バール会長に場所を借り、手間賃としてサンドイッチの作り方をマズルカ商会だけに教える約束をしていた。
夜ごはんは珍しいものが食べたいというので、カルボナーラを作った。麺自体は似たような商品があったので、コショウをかけたのはバール会長だけに出して様子をみたら、コショウを使った料理は他にはないかと聞かれたのでトンカツやグラタン、肉まんなどを自重せずに作ったら、抱きしめられた。
「君が欲しい!」
「ダメです!肉料理なら何にでも大概合うから試して下さい」
王都3日目のパンの講習会は荒れた。
主にコックさんが発狂寸前だった。
天然酵母の作り方から覚え直す若手勢、こんなのパンの作り方じゃないと言い続け現品を食べたら、その美味しさにやられてしまったベテラン勢。
パンを食べて俺をヘッドハンティングしようとする商人。
「このショ~クパンもよいが、歯ごたえがないのがなぁ」
バケットを教えました!毎度あり!
噂は徐々に広がりとうとう王宮に到達。
足をガクブル言わせながら来ました!王宮に!
謁見の間に行く道全てが金がかかってることが分かって何だか複雑だった。
血税がこんな所につぎ込まれて何かやってられるか!っていう感じ。
謁見の間に着いたときにはガクブルも収まっていた。
「パン職人ナナよく来た!昼食には食パンとやらが食べられるのであろう!」
あと30トーンしかないのに何の嫌がらせだ?このパラッパラッパー王め。
「残念ですが焼き立ては食べられません。私が今朝焼いた物をお持ちしましたのでそちらをお召し上がり下さい」
「フーン。よし、余に何か食事を作ったらソレで許してやる」
う、わ!俺、コイツ超きらい!
わざわざ、寝るのガマンして食パン焼いて来てやったのに、思いやる所かまだ、何か作れ?人を何だと思ってやがる!
「承りました」
お子様ならハンバーグだろ。10皿ぐらい作っとけばいいだろ?!
怒りを全てミンチにぶつけ、こねて、丸めるくらいになったら、ちと冷静になった。
ああいう大人もいる。割り切ろう。
煮込みハンバーグとチーズインハンバーグとプレーンなハンバーグを3つづつ作って魔法バッグに入れて持って来たトマトのハーブマリネと食パンを切って軽くトーストしてバターを塗って出来上がりだ。
侍従が毒味をしてから30トーンしてから持って行った。
さて、食パンの講習会だ。
ちなみに持って来た食パンは陛下が全部食べた。どんな丈夫な胃してんだよ。
ハンバーグも7個食べた。残りはコックさん達が「勉強だ」と言いながら嬉しそうに食べてた。
王宮の講習会は荒れなかったが、へ、い、か、が、夕食も作って行けとおっしゃったので、仕方な~く鶏の丸焼きを作った。
中身がハーブを詰めた奴だ。もちろんハーブは捨てる。
陛下が怒ったら食パンでサンドイッチにしろと言って王宮を出た。
王都6日目、何故かまた王宮に呼び出された。しかも朝イチでだ。
サンドイッチをこれでもか、と言うほど作り昼ご飯はオニヨングラタンスープとペペロンチーノとレタスと大根のサラダ、ピリ辛味付けミンチのせ。夕食は、パーティー料理はイヤらしく、ふつうでと言われたのでオムライスを作ったら、何かコックさんズの様子がおかしい。
「あの、ナナ様。試食したいのですが」
「ん?じゃ、もう一つ作るからソレ食えよ!」
陛下には3人前分作ってやった。試食隊はスプーンで一口食べて「アアア!」「おお!」とか言って悶えている。
知らなかったから作ったのだが、米は粥にしか使わないらしい。もったいない!
米の炊き方からレクチャーした。