アールディル王国④
炊き出し2日目。
サンドイッチはもの凄い人気だったらしい。
ボランティアで配ってくれた商人達が我が事のように喜んでいた。
昼は焼き鳥風オークの串焼き。
屋台の主人がオーク6体と引き換えに焼き鳥のタレのレシピをゲット。騎士達がオークを解体してくれた。リチルの騎士達は応用が利く。
夜は豚汁とおにぎり。
おにぎりの作り方と具を教える条件でお米を大量にゲット!
今日も来た冒険者達に鳥系の食べられる魔獣を大量に捕まえて来てくれるよう金貨1枚で頼んだら、翌朝までに山のように持って来た。
炊き出し3日目。
フハハハ!作ってやったぜ!鳥粥。
魔獣肉で作るとちょっとクセがあるけど、それが気にならないくらい肉がプリプリしてて美味しい!
鳥系魔獣肉まだまだあるから、夜は唐揚げ定食。野菜も食わせないとバランス悪いだろ?
また、来たのか冒険者。
何々?俺の店があったら通う?
「ビンガ国の王都で飯屋やってるぞ」
「違う!ここに店出せっつうの!!」
「うーん?金が無い!」
「貸してやるから店出せよ!」
この緑色の鱗の鎧って、ドラゴンだよな?
コイツら金持ちそう……
「ちょっと考えさせてくれ。色々予定がある」
商業ギルド長のサンバルさんに聞いて見るか。
炊き出し4日目。
米が無くなったので骨に頼る!コンソメスープに根菜入れてポトフ。
「ガスパール、商業ギルド長のサンバルさんに異国人が店出すのに必要なこと聞いて来て」
「ルベラ王太子殿下が国王陛下になるまでお待ちください!」
びっくりした!久しぶりの否定発言。
「うん、ごめん。子供みたいな絵空事言って」
「そうではないのです。絵空事の方がどれだけ良かったことか!」
我々は偵察も任されてるでしょう?従業員は間違いなくビンガ王宮の手の者になってしまうでしょう。
耳に吹き込まれてグラリと目眩がする。
「ねえ、ガスパール。見た瞬間、俺が赤さんって当てる人相手にそんなの意味ある?」
ガスパールのギョッとした顔、一生忘れない。
「人物鑑定のスペシャリストでしたか!何故、早く教えて下さらない!」
「うーん、俺の親父がどんだけ厄介かもわかったみたい。家庭事情マルッと知られてたから、ヘタに手出ししない方がいいよ?」
「ソレは…人物鑑定よりヤバいでしょう!私は手を引きます!」
「ありがとう。諦めてくれて。商業ギルドに推薦状をトビーの名前で送っておくよ。【地獄の番犬】なら店舗はクランハウスに決まってるから、厨房と店内を整えておくね。
家令さんの心配は税率?トビーが領主だから税率は2割だよ。商業ギルドの登録も任せて。君のおかげで一切お金が要らない炊き出しだったから、できるだけの事はするよ。また、黄の月になったら迎えをやるから、準備しておいて。そうそう、王宮の犬はいらないからね」
ああ、昼なのに凍える!
ルベラ王太子殿下、怖っ!
夜は材料提供者を募ったが、誰も引っかかってくれなかった。近所のサニーナ(4才)が栗を6粒くれた。仕方なく在庫一斉放出。オーク肉と里芋のワイン煮は大人に大好評だった。
翌朝は市場で安い食材を買いスープカレーを作った。スパイスが超安い!内海があるからかイカも安い!キャビアも並んで売ってる!
白菜安いな。キムチ漬けるか。今日明日の事にならないけど、豚キムチチャーハンとか食べたいし!
後は、冒険者ギルドでオーク肉を仕入れて、夜はカツサンド。商業ギルド長のサンバルさんに卵サンドの作り方と引き換えにオーブンを借りた。あ~、揚げ油の汚れが限界。
その夜は早い内に例の冒険者クラン【地獄の番犬】がやってきた。
「店出すのにした」
「よっしゃあー!厨房はどうする?!」
「ルベラ王太子殿下に丸投げしてるから、心配ないよ」
「「「「「え?」」」」
「店の場所、クランハウスだろ?」
「あ、うん!そう!」
「店内と厨房を整えてくれるってさ」
「ナナって何者?」
ガスパールがすかさず答えた。
「ナナ様は料理の腕前だけで、準男爵になった御方でこの国には国賓として招かれております!」
【地獄の番犬】の奴らがドン引きした。
ソフトモヒカンのメリンスが突っ込む。
「いやいやいや、何で炊き出ししてんだよ!」
「晩餐会より他人の為になる方が良いじゃね?」
黒い肌の巨人パンパが手を打って笑う。
「フハ!お前、考え方が平民だな!」
「当たり前!貴族がいるのは民に幸せな生活を送らせる為だからな!常に平民の気持ちになって考えてあげないとな!」
優男のポコが微笑む。いつも通り剣の手入れに余念が無いグングンの口元も笑んでいる。
紅一点のハツラツしたツーテイルの美少女マミヤも何だかとっても機嫌が良い。
ガスパールもニッコリ笑ってる。
あ、カツサンド無くなった!
マミヤが口元に手を添えて眉をひそめながら楽しそうに話し出す。
「カツサンド、イーゴリの店で売り始めたんだけど、カツと衣がマズくて食べれたもんじゃないみたいよ!」
揚げ方教えたのに…ま、生じゃないだけマシか。
ポコが話しかけたそうにしている。
仲間にしてあげよう。
「どうした?ポコ」
「店の名前考えてるか?」
「【ナナの○○屋さん】シリーズになるな。それか、【カフェ・ナナ】だな」
「【カフェ・ナナ】がサッパリしてていいよ!そうしなよ!」
ポコがそう言いマミヤが続く。
「居酒屋だと酔っ払いばかりが来そうだから、カフェぐらいで良いと思う!大賛成!」
「看板付けていいか?」
「「「「「もちろん!」」」」」
「賃貸料は月幾ら?」
「いらなーい!飯屋が家にあるってだけで、お釣りが来るから、心配はしなくていいし、俺達もタダ飯を喰らうつもりはないから!儲けて仕方ないから俺らに家賃払うっていうなら受け取るけど、な!フハハハ」
言質は取ったぞ!覚えてろよ、パンパ。
それから5日ほど炊き出しをして、知り合いがたくさん増えた。さすがにお金が底を突いたので、ルベラ王太子殿下にどうするか聞いたら、炊き出しはリロイズさんにさせると言ったので俺達ビンガ王国使節団は転移魔法陣でアールディル王国の王都の城の厨房に戻った。
ちなみに炊き出しで使ったお金は戻って来た。
「2~3日ゆっくりしてくれ」
1日目は当然寝た。ラーク達もぐっすりだった。2日目はガスパールと近衛騎士達を連れて平民市場で食材の値段を調べる。
昼過ぎにルベラ王太子殿下からの遣いが来て慌てて城に戻ったら、また、今度は別の都市に連れて行かれ、会食の準備。
平民市場で仕入れた材料で美味しいものを作ってくれと言われても、ジャガイモと鶏が1羽、卵が2つに小麦粉。ほんの少しの魔牛のミルク。小麦粉もジャガイモも十分な量が無い。パンケーキに鶏の地獄焼きと、ジャガイモのポタージュ。デザートにプリンを添えて。
どうやって作ったのか説明もして欲しいと乞われたので、わかりやすくレシピを添えて口頭で説明した。
「油があったら、もっと簡単にたくさんこの材料で美味しいものが作れます」
「油など!貴族でも使えぬ高価なもの!」
「え?だってこの街椿の花がたくさん植えてあるじゃないですか!実から油が絞れますよ?」
「「何?!」」
街路樹や家の垣根に椿が植えてあるので、街中の椿の実を集めたら結構な量になると思うのだ。
「何たる事!今まで庭掃除の邪魔者としか思ってなかったわ!」
「じゃあ、油を使ったら、どういう料理になるのか、明日に作って。それまでは好きにしてて」
折角だから、居酒屋でこの街の特産品とかをリサーチ。リゾットが主食らしく、リゾットと肉料理をオーダーするのが、鉄板みたいだった。味が無い肉料理を食べるのは、ちょっと厳しかった。この街にはスパイスが一切なかった。