第5章 次のステップへ
ルベル先輩の店に一泊して翌日の昼、ルベル先輩はやっと帰って来た。その身長と同じ高さのテキストを持って。
「すまないな。遅くなって。これが、3人に必要な勉強だ。あと、高等科になったら、体術と剣術と馬術があるから、その基礎を学ぶ必要がある。アテはあるか?チェンバーくん」
「あります!テキスト代をお支払いします!」
「銀貨5枚と小銀貨1枚ね。ノートもいるなら売るけど?」
「お願いします」
「30冊で銀貨9枚で金貨1枚と銀貨4枚と小銀貨1枚いただくね」
金貨1枚と銀貨5枚を俺は渡した。
「ご尽力してくださったお礼です。お納め下さい」
「いや、貰いすぎだから小銀貨6枚は返すよ。手数料として小銀貨3枚もらうね。ありがとう。朝食にしない?カレーじゃないよ。ヴィンセント、アレ、持ってきて」
フレンチトーストだった。ハチミツを掛けて食べたら夢心地。
「君らの事、中等科で出される課題がもうクリア出来てるから、言語学だけなんだよね。なるべく多くの国の言語のテキストを本屋で漁ってたら、気が付いたら朝だった。好きなだけ食べてから帰りなさい。私は少し休みます」
「「「ありがとうございます!」」」
ルベル先輩は片手を振って2階へと上がって行った。
テキストを魔法カバンにしまって、ヴィンセントさんにお礼を言ってルベル先輩の店から出ると、重いため息が出る。
「この課題どうする?チェンバー」
「エルフの里に行きましょう。確か、言語学者のエルフさん達がいたはずです。乗馬も、剣術も体術もガンガン教えて貰いましょう!」
「じゃあ、それぞれが担当してる店に指示を出してから行こうか!」
サンドイッチ屋チアーズは通常営業。
ホーリースターは、新しい店舗を作ってると言われて驚いた。
行列のせいで苦情が来てるのでイートインも持ち帰りも兼ねた店舗をリノベーション中。見学に行ったら、直ぐそこに青月の星があったので、アリアナ先輩にご挨拶。
「すみません、ホーリースターの3号店あそこです」
「負けないわよ!ロギくん!」
「望む所です!」
なんて、ライバル宣言交わしてお昼ご飯を青月の星で食べる。
アリアナ先輩も卒業が決まって、完全に青月の星で働き始めたらしく、儲けて大変だとぼやいている。
というのもひと月に大金貨1枚以上の稼ぎがある店は追加納税しなければならないのだ。
この計算がややこしい!
俺も高等科の先生に手土産下げて質問に行った。理解出来たら思ったより簡単だった。
青月の星は、うんと儲けてるらしく税金が高いとアリアナ先輩が文句を言ってる。
さもありなん。青月の星は一日金貨1枚以上儲けてるのだから、おしなべて知るべしだ。
支払いを済ませて穗高様に頼んでた氷菓の店舗を見学に行く。チョコレートショップの真向かいだった!看板がポップでデカい!氷菓の絵がこれでもかと巨大に描かれている。
目を引くには十分過ぎる。
中では社員研修会が開かれていて若い子達が厳しく躾けられていた。
厨房に行くと菓子職人達が手ぐすね引いて待っていてそのまま講習会に突入。
アイスとコンフィチュールの作り方を教えた。
魔法が使える職人がいなかったので、急きょ氷の魔法使いの面接を行ったら、いつもは熱い国へ出稼ぎに出てる氷の魔法使いが入れ食いだ!
給金が良かったのと寮(チアーズクラブ本部)があって、2食付きなのが独身男性には魅力的だったらしく面接会はアピール合戦だった。それが無料だと聞いてからは店内が凍えるほど寒くなった。
ムダなアピールは止めろ!
チェンバーが魔力の扱いが上手くて魔力量もそこそこある氷魔法使いを2人選び出し、雇うことにした。
翌日、契約書を交わしアイスの冷やし方やかき氷の氷のサイズなどをチェンバー自ら指導していた。
今日はチェンバーの好きな物をたくさん作ってあげよう!
フラッペ屋チアーズの職人さん達の歓迎会でもあるので厨房の隅で朝から晩まで作ってたら、それなりのパーティー料理が出来た。
暑いからスープはヴィシソワーズにパセリを散らして召し上がれ!
前菜のサラダは細かく刻んだ唐揚げを乗っけた特大バージョン。ティムとチェンバーが喜んで自分の分を確保してる。
魚のメインは、レインボーフィッシュのムニエル、ケッパーソース添え。ちょっとオシャレにしてみた。あと味変!
お肉はトリッパの煮込み。牛の胃袋のトマトソース煮込みで、下拵えに時間がかかるので、今日の料理にぴったりだ。グレモナータというレモンの皮や、ニンニク、ローズマリーの葉っぱをみじん切りにしたトッピングを掛けていただくのも乙な料理だ。食感が面白いし、何より美味しいのでガツガツ食べちゃう。今日はたっぷり作ったから、たくさんお食べ。
皆、一心不乱に食べている。
チェンバーだけが、トリッパが何なのか疑問を感じてるらしくて、トリッパをにらみつけながら食べている。臓物を食べる習慣がないから、余計にだろう。
俺はその視線を笑顔で受け流しトリッパをパクパクと食べて見せる。
自分で作って何だけど、美味いわ!
しかしやっぱり疑問を感じたらしいチェンバーはわざわざ本部に帰ってから聞いた。
「牛の胃袋だよ。下処理してあるから、美味しかったでしょう?」
「食べられるんだ…」
「牛の舌も美味しいシチューになるよ」
「ハイ!食べて見たいです!」
「じゃあ、明日作ってあげる。さ、寝た寝た!」
翌朝一番で肉屋に行きタンを買ってきた。ちゃんと精肉して、ゴロゴロの大きさに切ると塩コショウして、鍋で炒め焼き色がついたら、ワインを入れて煮る。5~6時間だから熟成の魔法を掛けて一瞬にして終わらせて今度はデミグラスソースを作る。
小麦粉をバターで炒めてブラウンルーを作る。オーブンに、牛のすね肉、大きく切った玉ねぎ、人参、を並べて入れ、焼き色がつくまで焼く。更にトマトペーストを絡めて焼き、それを鍋に入れた水で煮る。灰汁がでたらその都度取り除く。乱切りにした人参、セロリ、丸ごとトマト、一欠片のニンニクを入れて6~7時間煮るのだが、熟成の魔法で終わらせた。ブラウンルーに入れて何日間か煮るのを熟成して終わらせてトマトとワインも入れて更に何日間煮るのも熟成して終わらせてやっとのことで出来たドミグラスソースをタンを煮てた鍋に加えた。
人参のグラッセを作ってそえて出来上がりだ。
ソースが余ったので夜はハヤシライスにしよう。
お昼ご飯に作ったタンシチューは、鍋の底まで食べられた。
本部のコックのレミーさん達が自分たちの分が無いと嘆いていたので、もう一回肉屋でタンを買ってきた。……これにより、夜はハヤシライスが出来なかった事をここに記しておこう。
旅立ちの朝、俺達3人はチョコレート工場に寄って店1軒分の仕入れをして、エルフの屋敷に行き、そこからエルフの里へと転移した。
出迎えてくれたのは、稔司様と実李様。
「ダンジョン1階の店を一つ買い取りたいのですが?」
「厨房はいる?パティスリーなら、ショーケースが必要か。レニにお使い頼むか…ん?勉強しに来たの!アリアルドさんに顔合わせしなきゃね」
「お使いって。もしかして…」
「レニに行ってもらうから君らは行かなくていいよ」
そうか。俺達は行けないんだ。
何となくさみしいようなホッとしたような、妙な気分を味わったのだった。