第5章 マーヤ③
ロクシターナさんに朝まで「エルフの交際とは」を説法されて、適当に相づち打ってたらそれがバレてボコられ朝までの時間を過ごした。
その日の朝はフレンチトースト。ロクシターナさんが居たからだ!
ロクシターナさんに強請られてシチューも作った。
気分は父の日。
ティム達も良く食べたから、良かった。
工場に出勤したのは子供ばかりで大人は一人もいない。
ま、いいか。飯食べさせよう!
穗高様達が転移して来て、子供達が初めて見る大勢のエルフに興味津々だ。
エルフさん達は綺麗なマーヤ語でご挨拶。
《私たちが君たちの「先生」です。共に学びましょう。ご飯を食べたら、学校に移動しますからね》
なるほど!先生っぽい!
戦闘民族が賢そうに見える!
「ブッ!!」
穗高様が大爆笑中。
ひとしきり笑って俺の側に来ると、潜めた声で俺の勘違いをたしなめた。
「あのな、普通エルフは長寿で賢いのが、皆のイメージだから。戦闘民族、って何だよ!アハハハハハ!!」
ロクシターナさんにしっかり聞こえてて、グリグリされた。
「婿殿?」
「痛い痛い痛い!助けて!穗高様アアアアーーーーーッ!!」
「何したの?ナルー」
「私達、森の民の事を戦闘民族、などと呼びおった!」
先生エルフ達が一斉に噴き出した。
「「「「「「「そりゃお前が悪い!ロクシターナ」」」」」」」
だって間違いない。エルフの里に行くときは鍛える時。死ぬかと思うような訓練に明け暮れ疲れ切って寝るだけの日々。
「ちゃんと死なないように見張ってたし、寝させてやってただろう?」
「「「オーガか!」」」
笑死寸前の穗高様が苦しげに教えてくれた。
「プッ、エルフ達が、く、んれんするときは、1週間寝ない、からな!アハハハハハ!!」
俺からそっと、遠ざかるジムとジェンマを捕まえ呪いの言葉をその耳に囁く。
「俺達は、ずっと、一緒、何だよ、な!」
「誰にでもプライベートはある!行くぞ、ジム!!」
「あ、汚え!!そんな逃げ方すんな!」
3人で疲れるまで追いかけっこ。体力的には、ティムに負ける俺達2人は、ロクシターナさんに簡単に捕まって久しぶりにエルフブートキャンプに。食事を作る体力だけは残してくれたが、こんな時に限って炊き出しの奇跡が起こり、俺は体の疲れも相まって2日間寝落ちしてたらしい。
その2日間の間に大人達が働きに来ていた。
出来上がったクーベルチュールは冷やす方の魔法カバンに入れて運ぶ。
味はどの工場で作ったヤツより美味しかった。
エルフのツテで卸売の商人エラルドさんを紹介してもらい、翌日からは、コーヒー豆の選果場に山を上っていき、欠点豆から見出す原因を徹底的に直して作業を進める。
半分近くが欠点豆とか、あり得ないから!
皮を剥く作業が雑なのが問題で、欠点豆で煎れたコーヒーと正規の品のコーヒーを飲み比べさせてみたら、なんと、区別が付かないらしい。200人以上居るのに、違いがわかったのは、たった14人。目眩がしそうだった。
「いないよりマシですよ!ナルー」
ちなみにジムでもわかるくらい味が違うのに。
「あー!その顔!!また僕をバカにしてるな!」
何故わかった!
ジムよ。もう少し味覚を鍛えような?
毎日同じことを言わなければ直さない国民性に、ジェンマがブチ切れた。
現地人と取っ組み合いのケンカ。殴り殴られ服を破れるまでつかんで地面を転がり髪を引っ張られてもジェンマは怒りのまま、ワンツーパンチ、時にキック。1時間続いたケンカは満身創痍で立ち上がったジェンマの勝利で幕を下ろしたのだった。
それからというもの、妙に聞き分けがよくなって欠点豆も全体の1,5割まで減った。
「そっか、舐められてたんだね~。安易にお金だけ渡してもダメだね」
「……すまなかった、ジェンマ。また、俺の失敗だな…」
「エルフの里で鍛え直して、どんな奴がいても、マウント取ってあげます!」
口の端が切れてて痛々しいジェンマに、闘志燃やす根性があるのを見て、俺も鍛えようと心に誓うのだった。
4週間の滞在でやりたかった事が形になったので、後は現地人の指導者ヤンマ(ジェンマとケンカした相手)に任せてエルフの里に転移した。
今度習うのは体術と多国籍語。
たまに、レポート作成しながら、体と頭を鍛える。
俺は何故かセトさんに毎日ボコられている。
セトさんの戦闘民族度は250%ぐらいなので相手にならない。でも、10日目に最初の10トーンくらいは、組み討ち出来るようになった!と密かに喜んでいたら、型の一つを覚えただけだったらしく翌日には最初から最後までボコボコにされた。
結局、型を2つしか覚えられず、握手して別れた。
学園に帰ったら、レポート提出とコーヒーのカフェ・オ・レでの試飲会を2~3日掛かりで発表して無事3人とも進学通知をもらった。
ティンドル先生が、空咳をして、重々しく俺達3人に告げる。
「君たち3人は、今日を持って小等科卒業とす!」
「「「エエーー?!」」」
ティンドル先生が、俺達3人それぞれに卒業証書を渡す。
「ホントなら、商会設立の計画立てたり、するんだけど、君ら商会作って運営してるし、利益も上がってるでしょ?小等科でやる事無いんだわ!ぶっちゃけ中等科の授業も必要か、今、職員会議に掛けてるから、来年の緑の月の入学式まで休んでて下さい。ひょっとしたら高等科からの出発になるかもしれないから、外国語の自習をして下さい。では、さようなら!」
マジか。呆然とする俺達3人は、職員室から出て顔を見合わせた。
「ルベル先輩に相談してみましょう。手土産はホーリースターでエクレアでも買って行きましょう!」
◆○◆○◆
「私もヒマでは無いのですが、手土産付きですし、相談に乗りましょう。コーヒーを4つ、ミルク付きでお願いします。ヴィンセント。付いてきなさい」
店の奥に書斎と応接室が一緒になった大部屋に案内された。
「ロギくん、こちらに座りなさい。ティムくんとチェンバーくんは向かいのソファーに。他意はないよ。ロギくんは一番小さいからね。場所取らないでしょう?」
クッ、何か負けた!
ティムがニヤニヤしてる。後で覚えてろよ!!
「飛び級で高等科からの出発になりそうなんですが、何を勉強したら良いんでしょうか?」
「はあぁああああーーー!?」
予想外の反応に俺達は緊張してしまう。
「私が話を付けて来るからまだ、帰らないように!ヴィンセント!出掛けます!学園まで」
「行ってらっしゃいませ。お客様方はお腹がお空きではありませんか?カレーライスを召し上がりませんか?」
「「「良いんですか?」」」
「若様のお友達は初めてですから、張り切っておもてなし致します」
「「「食べたいです!」」」
お腹がカフェ・オ・レでタプタプだから、何か違う物を入れたい!
それが間違いだった。
「辛っ?!」
「ん~、おいひいれす!これぐらいじゃないとカレー食べた気がしないね!」
チェンバーもウンウンうなずくと無心で食べている。
これは、ブート・ジョロキア(ハバネロの2倍の辛さ)の入れすぎだ。辛い通りこして、痛い!
「食べられないの?食べてあげる!エクレア食べてなよ」
お前らの舌どうなってる?!俺なんか泣いてるぞ!エクレア食べても味が遠い。味覚がバカになった!
果汁100%のジュースで何とか味覚が戻ってきた。あぁ、やっぱりアールディルの食生活には馴染めない……。
その日、ルベル先輩は帰ってこなかった。