お嬢様は無表情
お嬢様とエビのリゾットを作り終える。
テーブルまで運び、お嬢様に座っていただく。食べている間に片付けはしてていいだろうか。それとも傍にいた方がいいだろうか。まあ、執事いなくてもこの人は大丈夫だろう。1人で過ごしてきた期間も長いだろうし。
お嬢様が食べ始めたのを確認し、キッチンに戻り片付けを始める。
「……。」
「わあ⁉」
先程まで、少しずつエビのリゾットを食べていた筈のお嬢様が俺の後ろに立っていた。持っていた皿を落としそうになり、慌てて両手でキャッチする。
……アブねぇ……。
「どうしました?」
口に合わなかったか?
「……。」
お嬢様は何も言わず俺を食堂へ引っ張る。
「お嬢様?私は片づけをいたしますので……。」
「……。」
お嬢様は首を横に振りながら俺を引っ張り続ける。
「どうしました?何か困ったことでも?」
「……。」
首を横に振る。では何故、俺はこんなに引っ張られてるんだ。
とうとう食堂に辿り着いてしまい、お嬢様に無理矢理椅子に座らせられる。俺の目の前のテーブルの上には、お嬢様と同じ量のエビのリゾットや、俺が勝手に作ったサラダなどが置かれていた。
呆然としてそのまま座っていると、お嬢様は満足したのか、またリゾットを食べ始めた。
……一緒に、食べてほしかっただけ?
まあ、お嬢様がそうしてほしいのなら従うしかない。小さく挨拶をしてからリゾットを食べる。
……確かに、こんな感じの味だったな。流石に同じまではいかないが、親しみやすい味をしていた。
「……。」
ふと、お嬢様を見ると、お嬢様は俺の方をジッと見つめていた。この人は口で言った方が速いと学ばないのか。まあ、そろそろ俺も慣れてきた。これは、何か俺に感想を求めている顔だ。
まあ、普通に考えて味の感想だろうな。
「とてもおいしいですよ。」
「……!」
反応はしたってことは合ってたんだろう。このお嬢様、全く表情が変わらんから、嬉しいかどうかは知らん。
お嬢様は俺に感想を聞くだけ聞いて、その後は黙々と食べ始めた。
しかし、今までのお嬢様の行動でそんな何人も辞めるような感じはしない。ただの少し意思疎通が難しいお嬢様だ。では何故?
……今考えてもどうにもならんか。
なるべく急いで食べ、中途半端になっていた片付けを済ませる。
粗方済ませたところでお嬢様の様子を見ようとキッチンを出ようとすると、お嬢様が食器を持って扉の前に突っ立っていた。
「お嬢様、言っていただければお運びいたしますので、待っていてください。」
「……。」
首を横に振られた。自身で運ぶのが癖になっているのだろう。ここまで来たら、執事なんて雇う必要ないだろうに。
……だからだろうか。何人も辞めたのは。ここに執事として雇われていたのは書類を見る限りベテランだった筈だ。しかし、あまりにもお嬢様が一人で生活できるから働き甲斐が……って、そんな訳ないか。
お嬢様は、食器を自分でシンクまで運ぶと勝手に洗い出した。
「お嬢様、お洋服を汚してしまいますので、私がやります。」
「……。」
今度はすぐには首を振らない。何故そこで躊躇するんだ。
「……。」
お嬢様は静かに持っていた食器をシンクに置き、手についた洗剤を洗い落とした。
「お運び頂いて助かりました。お嬢様は次にするべきことをなさっててください。」
「……。」
お嬢様を食堂の出口まで移動させる。
お嬢様は静かに頷いて、自室に移動していった。
何となく、少し寂しそうな顔をしていたような気がするが、正直、無表情のままだったような気もする。
もう少し、表情だけでも豊かになってくれればいいのに。