⑧囚人
「ま、いきなり殺される事はないだろうさ」
底辺とはいえ王国騎士団の一翼。処分をするにも公的な段取りは必要になる。タイサはなるべく周囲の不安を高めないようにと所々気を遣い、定期的に揺れる馬車の中で目を瞑る事にした。
――――――――――
一晩かけて王都ウィンフォスに到着する。
相変わらずタイサ達には、外の様子が分からないままだったが、馬車の中が一瞬暗くなり、その後に多くの声が聞こえてきた事から、タイサ達は西の大正門を抜けたのだろうと会話を交わした。そして大通りを抜け、中央区にある王国騎士団本部に到着すると、タイサ達は馬車から降ろされ、タイサとそれ以外のエコー達とに分けられた。
そして今は騎士団本部地下一階にある、重犯罪者専用の牢獄の中でタイサは座っている。
存在こそ知られてはいるが、犯罪者はもとより騎士でもそうそう立ち入る事はなく、タイサは窓もなく時間の経過を感じさせない鉄格子の中で、冷え切った空気を仕方なく吸い続ける。
「どうしてこうなった………いや、考えるまでもないか」
牢に入れられる前、まだ騎士団長として扱われていた本部の一室での事情聴取において、タイサはゴブリン達による組織的な行動と、それを操る魔王軍と呼ばれる存在、さらには77柱と名乗る一際強力な魔物について真摯なつもりで話した。
だが、役人達から返って来た言葉は、『良い脚本家になれる』という侮蔑の入った嘲笑であった。
知らない人間から見れば、笑い話にしかならない事はタイサにも分かっていた。だが、それを事実だと話すしか方法がなく、77柱のアロクスは黒い霧となって消滅している為、街にはタイサの言葉を裏付ける証拠が殆ど残っていない。
今思えば、話を聞いてくれた北の街の騎士達が奇跡のような存在に見えてくる。
「俺は熱がりなんだと、いつもなら冗談の一つでも言える所だが………」
タイサは両腕を何度も擦った。頑丈と耐寒は別物である。
事情聴取の際に、タイサは本部の人間から団長室に残しておいた普段着を纏わせてもらう事ができたが、手元にあるのは一体何年間使い続けたのかという薄い毛布が2枚のみ。
狂気に負けた誰かが、本来の目的とは異なる使い方をしたかもしれないと思うと、何とも言えない気持ちにさせられるが、呪えるものなら呪ってみろとタイサは毛布を掴んで体に巻き付けた。
「さぁて、ここからどうするかな」
独り言が続く。
王国騎士団は良くも悪くも冗談が通じる組織ではない。少なくとも笑い話をしたから牢に入れられたとは流石にならない。
つまりは牢に入れられる程の何かをしでかしたという事になるのだが、当のタイサには思いつく事が大小ありすぎて、一つに絞り切れなかった。
「さすがに、裁判もなしに死刑にはならんだろう」
いやどうだろう。自分で言っておきながら、タイサは首を傾げ、次第に自信がなくなっていく。
そこへ鍵を持った看守が近付いてきた。
「出ろ」
「………はいはい」
タイサは牢を出たが手枷は使われなかった。どうやらまだ確定という訳ではないらしい。彼は周囲を見回しながら歩き出し、五人の屈強な看守に囲まれながら石の階段を上がっていった。




