⑦警護と言う名の
「分かった。お願いする」
「隊長っ!? いいんですか!」
異様な雰囲気と話の展開に異議を唱えようとしたエコーだったが、カールは持っていた剣を引き抜くと、その先を彼女やボーマ達の目の前に突き出した。
「底辺風情が汚い口を開くな。貴様達の団長でさえ純二等騎士の身分だ。同じ身分の私がこいつに敬語を使っているのは、団長相手としての最低限の礼儀だからだ。そうでもなければ貴様達のような『色なし』で底辺の騎士団に意味もなく口を開くものか!」
本音もここまで大衆の前で言えれば大したものである。タイサは呆れるだけに留めた。
カールは先頭にいたバイオレットの存在に気付くと『おやおや』と剣をしまい、彼女の横まで馬を歩かせる。そして彼女の横で顔を近付けると、わざとらしく匂いを嗅ぐ。
「どうやら若干貴族っぽい者も混ざっているようだが?」
バイオレットは微動だにせず、一切反応しなかった。
「………まぁいい、すぐに出発だ」
カールが手を上げると、迎えに来た黄金の騎士達が一斉に動き出し、タイサ達の周囲を囲むようにして並んだ。
「あぁ、そうだ」
思い出したかのように、カールは面倒そうにタイサ達に声をかける
「この後、皆さんには馬から降りてもらいます。どうやら随分とお疲れのようですから………我々の方で、馬車を手配しました。どうぞごゆっくりお休みください」
護衛というよりも連行という表現の方が似合っていた。タイサ達は屯所まで案内された後、棺も含めて1つの馬車に乗せられ、しかも装備も全て預けた状態で金竜騎士団に囲まれながら王都を目指す事になった。
――――――――――
「隊長、一体何が起きているのでしょうか」
休憩もなく進み続ける幌付きの馬車の中で、エコーは膝を抱えながらタイサに声をかける。武器も鎧も取り上げられた彼女は、どこにでもいる集落の女性の様にしおらしく、不安に押し潰されそうな顔をしていた。
新入りを含めた僅か五人で百匹以上の蛮族達と戦い、住民達の多くを避難させる事に成功した。街の被害は甚大だが、王国騎士団は犠牲を出しながらも街と人、そして国を守った。そう喧伝すれば全てが丸く収まるはずである。
だが現実は金竜騎士団に囲まれ、入口も幌と同じ布で閉ざされた馬車に押し込められている。
それは警護という名の監禁だった。
「さぁな、俺にもさっぱり分からん」
そもそも情報が不足している中で気にしても仕方がない。タイサはエコーの心配事に軽く答えるに留めると、頭の後ろで両手を組んで馬車に寄りかかった。
タイサがバイオレットの方に視線を向けると、彼女はあからさまに顔を背けた。
「街を助けたっていうのに………これじゃぁルーキーも浮かばれねぇっすよ。まるで囚人だぜ」
ボーマは、一緒に乗っているルーキーの棺に手を置くと、優しく角を撫でる。彼ですら、いつものように冗談を言う余裕はなく、馬車の中で胡坐をかきながら片膝を揺らし続けていた。
囚人になるかどうかは別として、タイサはこの一件を、自分達の騎士団を良く思っていない者か、丸く収めたくない者の行動によるものと推測する。その場合、裏で動いている人間は絞られるが、そもそもの動機が見当たらない。
結局の所、タイサ達は憶測でものを考えるしかできなかった。思考が振り出しに戻ると、タイサは仲間に聞こえる様に大きく息を吐いてみせた。




