④帰還
アリアスの街での戦いから丸一日が経過した。
あれから時間通りに起こされたタイサは、既にバイオレットの手で応急処置を済ませたエコーと共に北門を出発。夕方には北の街で待機していたボーマ達と合流する事が出来た。
ボーマは無事に住民達を北の街へと避難させており、既に事情を聞いていた騎士団と共にタイサ達を出迎えた。その後は、そのまま屯所で報告を済ませて一泊。翌日の昼前には北の街の騎士団を連れて、アリアスの街まで戻って来た。
「今襲われたら、終わりますな」
「止めてくれ。そんな冗談を言うと、気遣いが出来る悪魔がやってきて、本当の事になると冒険者時代に聞いた事がある」
眠い目を擦り、タイサが寝ぼけた声で必死に止める。
誰もいない廃墟と化したアリアスの街を見て驚いた騎士達に向けて、タイサは当時の状況を時系列ごとに再度説明を行った。その後、事後処理の全てを彼らに任せ、王都へ向けてタイサ達が帰路につく頃には、太陽が天頂を越えていた。
ボーマの冗談は、そんな矢先での会話からだった。
「隊長、もうすぐグーリンスに着きます」
先頭を預かるのはバイオレット。騎士団の中で唯一まともに戦えるのは彼女だけであった。
タイサは傷一つないが、あの戦いの後から疲労が抜け切れておらず、時々馬上で目を瞑ったまま馬から落ちそうになる所を、傍にいるエコーの手によって何度も支えられていた。
「ああ。そう………だな」
手で隠しているが、タイサの欠伸が止まらない。
「結局、援軍は来ませんでしたね」
「………いや、もしかしたら途中でやられたのかもしれないぞ?」
折れた左腕を木材と白い布で固定しているエコーは、苛立ちを越えて諦めの籠った溜息をつくが、両足を新しい包帯で巻いているボーマが、彼女の言葉に反論する。
現場を確認した北の街の騎士団が、街だけでなく西の森にも偵察に向かったが、終ぞアリアスの街に駐屯していた騎士達の行方は分からずじまいだった。
だが、あれだけの戦いが仕掛けられる敵がいた以上、森の中で襲われて全滅という予想は簡単につく。東のグーリンスから援軍に駆け付けようとした騎士団も、彼らと同様に途中で蛮族達に襲われたとしてもおかしくはないというのが、ボーマの主張だった。
だが、とタイサは彼の考えを否定するように言葉を繋ぐ。
「もし、援軍途中で騎士団が襲われていれば、この辺りにその形跡が残っているはずだ。死体は隠せても、木々に残る傷跡は早々簡単に隠せない………そう思わないか? バイオレット」
「………どうして、そこで私に聞くのですか?」
急に後ろから話を振られたバイオレットが振り返ると、その顔はやや不機嫌そうな表情だった。
「たまには、話を振らないと寂しいかと思って、な………それに、お前が一番援軍に拘っていたからな」
眠そうにしつつも頭は回転させ続けている。タイサはバイオレットが東からの援軍が来るはずだと執拗に主張していた事を今でも気にしていた。
「普通に考えれば援軍は来るはずでした。それが来なかった………その理由に関しては分かりかねます」
「まぁ、そうだよなぁ」
タイサは自分から会話を切る。
あれからというものの、エコーもバイオレットもタイサの持っていた黒い剣については何も尋ねなかった。何事もなかったかの様にタイサと言葉を交わし、向き合ってくれている。彼自身も、どこまで話すべきかと悩んでいたが、二人の気遣いに感謝し、自分もいつも通りに振る舞おうとした。
「さぁ、つきやしたぜ隊長! あともう一つ街を抜ければ王都ですぜ」
ボーマが目の前に迫ったグーリンスの西門を指さした。
「ああ、さすがに疲れた。だが、王都に戻ったらまずはルーキーを弔ってやろう」
タイサは後ろを振り返り、ボーマの馬車の荷台に乗っている棺に目を向ける。彼の遺体は北の街の神父から、遺体がこれ以上痛まないよう加護をかけてもらい、騎士団からは、棺を騎士団用の物に変えてもらった。
白い棺に巻かれた騎士団と王国の紋章が入った布は、戦った騎士にのみ送られる最後にして最高の栄誉の証である。




