⑩まずは一撃
タイサの名乗りにアロクスは空に向かって一際大きく笑うと、大人の身長と同じ幅の斧を軽々と肩に構えた。
「面白イ。人間ノチカラ、二百年前ト比ベテ、ドウナッタカ確カメテヤロウ」
アロクスは家屋の残骸を軽やかに飛び降り、そのまま巨体を走らせる。
そのあまりの重量で地面を蹴り上げる度に、大通りの石レンガが小石のようにめくり上がっていく。
「マズハ一撃」「まずは一撃!」
アロクスの斧が空気を縦に斬り裂き、真空を生み出しながらタイサの頭を最短距離で狙う。対してタイサは、右手に持っていたエコーの盾を思いきり上から振り下ろし、突進してくるアロクスに向けて投げつけた。
投げつけられた盾はアロクスの左胸に突き刺さり、僅かに青い肌から赤い線を生み出す。
「無駄ダ」
突き刺さった盾が自重で地面に落ちる。そしてアロクスが振り下ろす斧の速度は、一切落ちる事なく、当初の軌道に沿って落ちていった。
タイサは残った左の盾を斜めに構え、さらに左腕を右の籠手で支えて、その威力に対応する。
「ぐっ! ぬぅぅぅぅぅっ!」
金属同士が激しくぶつかり合い、赤い火花を散らしながら、タイサの盾が削られていく。あまりの一撃の重さに右腕が受け止めきれないと見切ったタイサは踵で地面を蹴り、自ら後方へ姿勢をずらした。地面と足の摩擦を失ったタイサは、アロクスの威力を受けて後方へと吹き飛ばされたが、残された彼の一撃は、地面を石畳ごと深く砕き、抉っていた。
「隊長!」
バイオレットが飛び散る木材の破片と飛んでくる石の破片をエコーを含め盾で防ぎながら叫ぶ。
普通ならば、垂直に振り下ろされた一撃で真っ二つどころか、肉片すら残らない一撃だった。
だが、タイサの両腕両足が繋がったまま、バイオレットの近くにあったベッドの残骸から体を起き上がらせる。
「助かったぜルーキー。しかし………予想以上の一撃だったな」
左腕に付けていた盾が斜めに裂けて鏡面を作り出してる様を見て、タイサは大きく溜息をつく。そして両腕を肩から回し、体の状態を確認する。
「………信じられない」
バイオレットから小さな声が漏れる。
「それじゃぁ、行ってくる」
タイサは呼吸を続けるエコーの顔を見た後に、バイオレットに向かって小さく手を振る。そして大通りへと足を付けると、右頬を緩ませながらアロクスの顔を見上げた。
「今ノ一撃ニ耐エタカ。『鉄壁』トイウノハ、マンザラ嘘デハナイヨウダ」
「まぁな」
アロクスが地面に食い込んだ斧を持ち上げて肩に担ぐ。
「ダガ、硬イダケノ鉄デハ、我ヲ倒セヌ」
「まぁな」
すぐ後ろにはバイオレット達がいる。タイサはここでは待ち構えられないと、今度は自ら撃って出た。




