⑨『盾』の団長
―――こいつが全ての元凶だ。
タイサが瞬時に、目の前の巨大オークを今回の一件、蛮族達に知恵を与え、率いていた長だと判断する。根拠は何一つないが、非現実的な状況と冒険者、騎士としての長年の経験と勘から、その全てを原因付けた。
「我ガ名ハ、アロクス。栄エアル魔王軍77柱ガ1柱デアル」
「アロクス? 魔王軍だって?」
いきなりな単語が並び、タイサが理解に追い付けない。
そもそも魔王軍などという軍隊も、それをもつ国も聞いた事がない。思いついても、子どもに読み聞かせる本に出て来る勇者と魔王の物語程度。昔々で始まる魔王率いる魔物の軍団という意味だけであった。
タイサの顎に一筋の汗が流れ落ちる。
「そうか………魔王軍ときたか………随分とまぁ、大層な名前を名乗るじゃないか」
気が付けばタイサはゴブリンやオーク達に正面と側面を囲まれていた。ただし、タイサと蛮族達との距離は十分に開けられており、まるでアロクスと名乗るオークとタイサが戦う舞台が用意されたかのような広さが与えられているようだった。
「バイオレット! そっちはどうだ?」
アロクスとの戦いは避けられそうもない。タイサは、建物の残骸の上で苦戦しているバイオレットに声をかける。
彼女は瓦礫の中からエコーを掘り起こすと、彼女を救い出し、すぐに容態を確認した。
「………意識は何とかありますが、恐らく左腕が骨折しているかと」
「そうか………悪いが、そのまま処置を続けてくれ」
吹き飛ばされながらも体と利き腕を守ろうと、咄嗟に姿勢を変えたのだろう。タイサは正面の敵と対峙し続けながらも、エコーの無事を素直に喜ぶ事にした。
だがこれで、エコーもこれ以上の戦闘は不可能となった。残るはバイオレットとタイサの二人のみとなる。
「いや、実質俺1人か」
乾いた笑いがタイサから思わず漏れる。
タイサは右手の騎槍を左へと持ち替えた。そして、足元に落ちていたエコーの盾を拾い上げると、右手で内側の取っ手を握りしめる。
「バイオレット! 隙を見つけたら、予定通りエコーを連れて先に行け!」
「ですが―――!」「団長命令だ!」
既に学校側に続く経路を蛮族達に阻まれており、逃げ場がない。巨人相手に、一体どこにそんな隙間ができるのかと、バイオレットはエコーを抱きながら不安の色を表情に出している。
だがそんな彼女に対して、タイサは後ろを振り返り、肩をすくめて笑ってみせた。
「大丈夫だ。俺は隊長だぞ? それに知っているか? 俺の団では、初陣に新入りは死なないんだ」
正面に向き直る。
「………そう、死なせてなるものか。これ以上な」
タイサは一歩、二歩と前に進むと、巨大な青いオーク『アロクス』の前で二枚の盾を構えた。
「ウィンフォス王国の騎士団『盾』。底辺中の底辺の騎士団長。『鉄壁』のタイサが相手になろう!」




