序章⑧
「全騎、俺に続け!」
タイサが騎槍を腰深く構えながら地面を蹴って走り出す。そして雄叫びと涎を撒き散らして立つオークの心臓に向けてその先端を突き出した。
だがオークは右足を静かに引くと、タイサの一撃の突きをひらりと躱し、そのまま盾のない右側へとその巨体をずらす。
相手の一撃を躱せたオークは牙を持つ口でにやりと笑い、背中の腹巻に隠していた面切包丁のような四角い剣を素早く引き出すと、タイサの頭を目掛けて一気に振り下ろした。
「どぉっせぃっ!!」
タイサは騎槍を持ったままの右腕を高く上げ、オークが振り下ろした大きな刃を籠手で受け止めた。
普通ではありえない。
頭を守ったタイサの籠手が、乾いた木材が割れていく様な音を立てて四方にひび割れていく。オークの刃は、徐々に籠手に中へと食い込んでいくが、ある深さを境にその沈みが止まっていた。
「隊長、相変わらず外しすぎです!」
タイサの籠手に剣が食い込み、動きが完全に止まったオークの背中を、馬上のジャックが通り過ぎ様に下から上へと斜めに切り裂く。オークは口から血と泡を零しながら叫び、持っていた武器を手放して後方へと大きく飛び退けた。
「でも、相変わらず信じられない固さっすね!」「本当に。隊長、一体どういう造りをしているんですか?」
エコーがボーマの合図でタイサの左右から飛び出し、二本の騎槍がオークの頭と心臓を横から貫いた。そして二人が馬を下げながら武器を引き抜くと、オークはそのまま地面に伏し、地面の激突で僅かに体が跳ねるとすぐに赤い円を広げ、やがて動かなくなった。
「さぁな。俺にも分からん」
タイサは自分の籠手に食い込んだ剣を抜き取って地面に放り投げると、敵の刃を受け止めた右手を軽く振りながら何度も掌を閉じては開くを繰り返した。




