①決戦の日の出
やるべき事は全てやった。勿論、現状でできうる限りの範囲だけだが、これ以上に無い程に全ての準備を終えている。
今や数百人が寝泊まりしている最後の砦、その玄関を出た所で、タイサは自分の鎧を今一度手で触れ、籠手周りの締まり具合を念入りに確認する。手首を何度も左右上下に動かし、籠手やそれを締めている革紐が関節部分に当たっていない事を、何度も何度も見て触った上で小さく頷く。
まだ暗さが残る空気の中、タイサは僅かに赤い染みが残っている左の盾を軽く撫でた。
「済まないなルーキー。俺がもっとしっかりしていれば、お前は死なずに済んだかもしれないのにな」
つい先程、タイサはようやくルーキーと会う事ができた。
街の葬儀屋から拝借した棺に入っていた彼の遺体は、体中酷い傷の為に顔以外が布で覆われていた。タイサは、夜中に屯所から騎士団旗を引き剥がし、謝罪の言葉と共に彼の体に置いてきた。
結局、上位の騎士団を目指すという彼の夢は叶わぬものとなってしまった。そして彼と駆け落ちした女性は未亡人となった。もしもあの時、ルーキーをバイオレットと共に後方に配置させていれば、落馬する事なく、敵に囲まれる事もなく助かったのかもしれない。
頭に浮かんでくるのは後悔ばかりだと、タイサは自分の額を拳で押さえた。
タイサはルーキーに声をかけ、彼の使っていた盾を身に付けた。背中には自分の盾、地面には長年使ってきた騎槍が日時計の様に刺さっている。
「日の出、か」
ふとタイサが足元を見ると、騎槍の影がゆっくりと西へと伸び始め、日の出を知らせてくる。太陽の眩しさが顔半分を照らし、温かさと同時に最後の作戦への決断を迫ってきた。
「隊長、住民達の脱出準備が完了しましたぜ。北門周辺は、見事に敵影なし」
タイサの傍で馬が止まり、騎槍の陰が大きな影に飲み込まれる。タイサが影の正体を見上げると、上半身は騎士の鎧を纏いつつも、下半身は包帯で両足を巻かれているボーマが朝から汗を流して仕事に励んでいた。
彼は一時間程前に目を覚まし、これまでの事情を聞くとすぐに食事をとりだした。そして自分もまだ戦えると、包帯まみれでタイサに直談判。呆れられた結果、戦闘には参加しないという条件で、脱出する住民達の先導を行うことで話が付いた。
「そんな足で馬に乗りやがって………馬から落ちても、もう誰も助けてはくれないぞ? 今度ばかりは女よりも死神との出会いの方が間違いなく早いからな」
「いやぁ、死神が女性という可能性も中々に捨てきれませんぜ」
相変わらず軽口に関しては叶わないと、タイサは肩を揺らして笑う。




