⑮鉄壁
タイサは彼女の言葉を受け止めるも、頭を掻く事しか出来なかった。自分でも情けないと感じつつも、彼は立ち上がり、玄関に立てかけていた自分の騎槍を手に取った。
騎槍を軽く斜めに掲げて、壁のランプから流れて来る光を騎槍に乗せるように這わせると、静かに目を閉じて呼吸を整える。
「随分と………まぁ、昔の話だ」
タイサが騎槍を玄関の土の上へと刺し戻し、再び彼女の顔を見た。
「エコー。俺が騎士団に入る前は、冒険者だった事は知っているな?」
「え………あ、はい」
タイサは両親を失い、生活費と借金返済の為に、十代の頃から冒険者ギルドに入っていた事はボーマも含め、この騎士団に入った者ならば、全員が知っている。
だがタイサは、冒険者の頃の話を自分から話す事があまりない。
タイサが騎槍の柄に手を乗せる。
「冒険者時代。ある依頼を受けている中、王女殿下と偶然出会った事があってな………そこで起きた事件をデル達と解決した縁で、俺やデルは王国騎士団に入る事になった。お前達が知っている『鉄壁』の名は団長になる前、王女殿下から頂いた名だ」
「そうだったのですか………私はてっきり隊長が団長になられた際に、国王陛下から頂いたものばかりだと」
全く知らなかったと、エコーが目を大きくさせて驚く。
タイサが騎士団長に任命された頃の国王は、まだ病に伏しておらず、団長就任の儀は国王の名の下に取り仕切られていた。それだけに、騎士団長になる前、しかも国王でもギルドからでもなく、当時の王女から二つ名を拝命された事は、かなりの異例であった。
「………隊長は、冒険者時代の頃から頑丈だったのですね」
騎士になってからの働きで認められたものばかりと、エコーは驚きながら言葉にする。
「まぁな。こんな体質のせいで毒や麻痺やらとも縁がなくてな。お陰で冒険者の頃から何を食べても食中毒にすらかかった事がない」
毒や麻痺、広義でいえば精神に負荷をかける類も含む身体への状態異常の効果は、体格や年齢以外に、人がもつ体力や精神力にも大きく依存するという事が、昨今の研究による定説である。タイサのように無効化するほどの人物は極めて稀だが、やはり強靭な体や精神をもつ人間程、状態異常に耐性がある事は、王国騎士団やギルドの中では、経験を基にした、ごく常識的の知識だった。




