⑭副長の想い
「隊長………考え直してはいただけませんか?」
性格は柔らかいが、諦めの悪い副長がタイサの傍に立ったままだった。
「納得できないか? 副長」
タイサは残った食事に手を付けながら、敢えて彼女をそう呼んだ。
エコーは口を曲げ、拳を握りしめながら目を瞑り、何かを決断したかのように話し出す。
「私は………隊長を、あなたを失いたくはありません」
彼女の言葉に、タイサが目を大きくさせると、残ったスープをトレーの上に置き、小刻みに笑ってみせた。
「おいおいおい、さっきも言っただろう? 俺は死ぬつもりなんかこれっぽっちもないって」
だが、その言葉がエコーに届かない。
「褐色の肌をもつ私は、騎士の名を拝命されても余所者扱いでした。どんなに他の騎士よりも働き、強くなっても、女だからという理由だけで、満足に評価さえしてもらえませんでした」
「………知ってるよ。初めてうちの騎士団に来たお前は、まるで世界の全てを憎んでいながら、全てを諦めたかのような目をしていたのを今でも覚えている」
冷や飯食らいの女騎士。不愛想、不感症、命令不服従の上、同僚や上司への暴力行為。それがタイサに届けられた前の職場からの報告書だった。だが、バイオレットの時と同様、事前にギュードへ調査を依頼していた為、その情報の全てが正反対であった事をタイサは知っていた。
そんな事もあった。タイサは懐かしむように、彼女の話に耳を傾ける。
「ですが隊長は、そんな事を気にせずに私を皆と同じに扱ってくれました………隊長と出会っていなければ、到底副長の任など就ける事もなかったでしょう」
彼女の能力が、他の騎士の中でも抜きんでて高い技量をもっている事は、部下をもった事がる人間が見れば、一目瞭然である。加えて、状況判断や指揮能力も十分に高い。仲間への面倒見も良く、今まで異動を果たす事が出来た騎士達にとっては、年の近い姉のような存在であった。
何もかもが懐かしい。
タイサの中で、エコーが多くの部下達と笑い、そして共に戦ってきた記憶がいくつも蘇る。
「俺は底辺の変わり者だからな。使える奴は誰でも使うのが信条だ。肌の色がどうとか、性別やら年齢が何とかは、全く気にしないのさ」
タイサは、彼女に他の騎士団に異動する推薦について何度も声をかけてきた。彼女程の実力があれば、『色付き』の騎士団でも通用する。親友のいる銀龍騎士団への推薦も提案した事があったが、彼女はその度に頑なに断り、いつしかタイサもその話を持ち出す事さえしなくなっていた。
「参ったな………」
こういった話はどういう顔をしていいのか分からない。タイサは痒くなった耳を擦ると、残った干し肉を口の中に放り込んで苦そうに笑って誤魔化した。
だが、残ったスープを飲みながらエコーの顔を気まずそうに横目で見ると、彼女の目からは一筋の道が出来ている事に気が付く。
「泣くなよ、エコー。何だか俺が泣かしたみたいじゃないか」
「はい。隊長が泣かせたんです」
エコーは綺麗に笑っていた。
「成程………そう返してくるか」
これは一本取られたと肩で笑い、タイサは空になったスープをトレーの上に置いて、笑い返す。
「駄目ですね、自分は」
エコーが指で目元の涙をすくい、自分でも困ったように微笑んだ。
「この期に及んでも、本当に言いたい事が言えません」




