⑬針穴の勝算
「勘違いされても困るが、別に自防自棄になった訳ではない」
「………何か、勝算があると言うのですか?」
エコーの問いに、正確には勝算ではないとタイサはぼかすように頭を掻く。
「苦肉の策と言うべきか。三人全員が生き残る方法で、最も可能性が高いといった程度の方法さ。詳しくはまだ言えないが、それでも反対すると言うならば仕方がない。団長命令を出してでも動いてもらう」
どちらかといえばこの言葉は、バイオレットに向けたものだった。
彼女の言う通り、蛮族相手に騎士団が撤退すれば、事情を知らない者達から誹りを受ける事は間違いない。だが、冒険者上がりのタイサからしてみれば、王国騎士団の名誉の為に死ぬつもりも、ましてや部下に犠牲を強いるつもりなど毛頭なかった。
騎士団長は、持ちうる全ての情報から全てを決断し、その責任を負う。力ある者の責務として、二人への問いの答えは、ある意味自分の決断を鈍らせない為でもあった。
「一人でも多く生き残ってもらう。街の住民も、そして勿論お前達、さらに俺自身も含めてだ」
後はと、タイサは腕を組むと自慢気に語り出す。
「俺には一生級の莫大な借金があるからな。妹だけでなく借金も一緒に残して死ぬほど不幸者にはなりたくない………今言える事はそれだけだ」
その言葉を最後に、静寂がタイサ達を包み込んだ。
バイオレットが無表情のまま、溜息をつく。
「分かりました。そこまで隊長が言うのでしたら従う他ありません。それでは、この鎧も団長命令という事で、私が着たままでよろしいですね?」
「勿論だ。あぁ、ついでで悪いが、住民達に交代で休息を取りながら、一応の夜襲に備えるよう伝えて来てくれ。流石に彼らに夜襲はないと言っても、信じてはもらえないだろう」
「承知しました」
バイオレットは一礼すると踵を返し、その場を離れて行った。
彼女の性格は固くはあるが、歪ではない。気持ちの切り替えが早い所は優秀だと認めるべきだろう。タイサは彼女の背中を見ながら小さく笑みを零す。
「よっこらしょっと」
中年が漏らす呪いに近い独り言に合わせて、タイサがゆっくりと座り直すと、冷めきったスープに口をつけた。




