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Lost19 底辺の隊長と呼ばれた男  作者: JHST
第五章 力ある者の責務
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⑪二人に問う

 タイサは二人の顔をゆっくりと交互に見ると、『例え話をしよう』と、問いかける。

「お前達が騎士団の団長だったとしよう。そこで敵集団の攻撃を受けた結果、甚大な被害を被り、撤退する事すらままならない状況とする」

 

 そしてタイサが二本の指を立てた。


「選択肢は二つ。(いち)、騎士として戦い続ける。勝つ可能性はゼロではないゼロだ」

 指を一つ折る。

()、手段を問わずに戦う。騎士団の規則を大きく逸脱する事にはなるが、退路が開けるか、敵集団を倒す可能性が大きく跳ね上がる」

 他の選択肢はない。そう注釈を入れるタイサは最後の指を折り、二人に回答を求めた。


 最初にエコーが小さく手を上げる。

「私なら後者です。規則違反の大きさにもよりますが、確実に活路が見い出せるのならば、選択肢として採用すべきだと考えます。方法があるにもかかわらず、規則に縛られた結果、手詰まりになり、全滅すると分かっていても尚、最後まで部下に戦って死ねとは命令できません」

 成程と、タイサはエコーの顔を見て頷き、続いてバイオレットの顔を見た。

「バイオレットなら、どう判断する」


 一瞬、視線をずらすが、彼女は淡々とした口調で前者を選ぶ。

「私は規則通りに戦います。我々は全滅するかもしれませんが、少なからず敵を討ち減らす事が出来るでしょう。その後、後続の騎士団に戦ってもらえれば、敵を殲滅しつつ、かつ騎士団としての規律と威厳も保たれます」

 規律を破って生き残ったとしても、待っているのは騎士団本部による査問や裁判。規則の内容次第によっては死刑もあり得ると彼女はその後の展開まで思考していた。

「成功するならば、規則を破っても構わないという風潮を組織内に広めるべきではありません」

 どうせ死ぬのならば、規則を破らずに戦って死ぬ。バイオレットはそう答える。


 タイサは腕を組み、二人の回答に何度も頷いた。

「二人共、どちらも正解だ」

「えっ?」「はぃ?」

 エコーとバイオレットの目が点になる。二人共、どちらかが正解だと考えていただけに、出題者の解答に思わず拍子抜けする。

「敢えて言うならば………二人共、良く考えたという事だ」

 タイサが立ち上がり、尻の埃を落としながら肩をすくめた。

「どちらが正しいか、という明確な答えは()()に載っていたとしても、()()にはそれがない。バイオレットの言うように、最善を尽くす為に何をしても許されると思われても困るし、エコーの言うように、死よりも規律を重んじるという自己の矜持の為に、家族や愛する者が待つであろう部下を巻き添えにしても構わないと思われても困る」


 タイサは二人の顔を見る。

「自分の意にそぐわない相反するような意見でも尊重しつつ、その意や損得を可能な限り主観的、客観的の両面で汲み取る」

 最後の最後に団長が決断し、結果に責任をとる。それが、上に立つ者に求められる能力だとタイサが二人に説いた。

「いつしか、お前達が団長になり、今以上に人の命を預かる重圧に悩んだ時は、今日の事を思い出して欲しい」


「それで………だから、この街から撤退すると仰るのですか?」

 エコーが先の話に戻って声に出した。

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