⑩騎士団長の鎧
「随分とやられたな………」
自分が原因だと、タイサは首を左右に振るう。住民を戦闘に参加させただけでなく、目を覆いたくなる程の犠牲者を出した以上、王都に戻って『仕方がなかった』の報告で終わる訳がない。
タイサの肩が一度だけ、大きく上下する。
「それで? お前の話とは何だ」
報告を終えていたバイオレットの視線が泳いでいる事に気付いていたタイサは、彼女に助け舟を出す。
バイオレットは、再び真剣な顔をつくると、自分が着ている鎧に手を当てた。
「無礼を承知でお尋ねします。私が着ているこの鎧………一見すると使い古された普通の騎士用に見えますが、本当は『騎士団長の鎧』ではありませんか?」
「何だ………そんな事か」
今度は一体何を言われるのかと構えていたタイサは、彼女の前で肩をすくめて一笑に伏すと、隠す事なく彼女の言葉を肯定する。
「そうだ。よく気が付いたな」
タイサの騎士団では、新入りを初陣から生きて返す事を信条にしてきた。それ故に、騎士団長のみが着ることを許されている鎧を、さもみすぼらしく加工し、新入りが入る度に支給品だと偽って着させていた。
鉄より固く、かつ魔力を帯びる事ができる特殊な金属を使用しており、さらに高位術師達の魔法によって、多少の物理攻撃を反射させる事ができる能力を兼ね備えた逸品中の逸品である。
平民出身のルーキーは、普通の鎧との違いに気付けなかったが、貴族出身の彼女には通用しなかった。
バイオレットは下唇を噛み、両手の拳を強く握りしめる。
「隊長………この鎧は団長以外の者が着る事を固く禁じられているはずです」
「んなこたぁ、もちろん知っているさ」
だからバレないように加工してあると、手品の種を明かす様にタイサは両手を開き、やや自慢気味に解説する。
「ま、お陰でさっきは助かっただろう?」
「そういう問題ではありません。騎士団の長たる団長が規則を守らねば、組織の規律を維持できません」
相変わらず彼女の思考は固いままだった。
タイサは伸び始めてきた頬の無精ひげを掌で転がしながら、彼女へ投げかけるべき言葉を考える。
そこにエコーが一歩前に出ると、二人の会話に割って入った。
「でもバイオレット。私達の騎士団は、それでも組織として維持できていたわ」
「お言葉ですが副長………それは結果論です。この際なので言わせて頂きますが、隊長を含めてこの騎士団は、王国騎士団の規則を蔑ろにしすぎだと思います」
だから騎士団の中でも爪弾きにされる。流石のバイオレットも、そこまで言う事が出来なかったが、そう言わんとする語気ではあった。
エコーは一月どころか一週間にも満たない新入りに批判されたのが気に食わなかったのか、鼻をやや大きくさせながら息を吸い込み、顔にやや力が入り始めている。
「二人共、そこまでだ」
二人の言い分は共に聞くべき所がある。だが、これ以上は感情的な言い争いになると判断したタイサは何度か手を叩き、二人の視線を自分自身に向けさせた。




