⑥本物 対 模倣
塀を飛び越える青と白の体毛に覆われた動物が地面に着地し、四本の足を広げながら空高く吠える。
「狼? いや、何てこった! バウンドドッグか!?」
急ぎ、タイサが数歩飛び下がった。
大人と同じ大きさの青白い狼は、雑ではあるが革製の鎧を身に纏い、前足の付け根にある鎧には、地面に対して水平に取り付けられた刃物が鈍い光を放っている。同じ装備をしたバウンドドッグが次々と塀を飛び越えていくと、近くにいたゴブリンが彼らに跨り、粗雑な木盾と長槍を前面に構えるや、一斉に吠え始めた。
「成程。今度は騎士団の真似ごとときたか」
先頭に立つゴブリンの掛け声と共に、バウンドドックに騎乗したゴブリン達が長槍を構えて一斉に突撃を仕掛けてくる。逃げ惑う住民達は背中から槍で貫かれていき、運よく相手の動きを見極めて相手の槍を弾けた冒険者は、そのまま側面を通過しようと突貫してくるバウンドドックの刃によって腹部を切り裂かれ、体を回転させながら臓物を撒き散らして地面へと転がっていった。
ついに三組のバウンドドックとゴブリンがタイサに目を付ける。そして、騎士団の真似ごとの様に、中央を鏃の先頭として見立て、左右はやや下がった状態で突撃してきた。
タイサは右足を下げ、地面を擦り付けて足元を均す。
「上等だぁ! 本家の騎士を突破できると思うなよっ!」
タイサは盾を前面に構え、先頭のゴブリンの粗末な長槍の先端をへし折ると、そのまま馬代わりのバウンドドックの顔面を盾で弾き返した。
「まぁだまぁだぁ!」
そのまま使用した盾を外へと開く事で、左を通過しようとしたゴブリンの視界を防ぐ。さらに右手で握る騎槍の先端を右側面へと向けると、同じく右側を駆け抜けようとしたゴブリンの頭に槍の側面が当たり、落下した。
タイサはすぐさま左足の踵を軸にして半回転を起こす。
側面から後方へと通過した残りの一組が、速度を落とす瞬間を見極めてタイサが彼らの前に飛び出した。タイサは地面を掘り抉るように騎槍を下から上へと突き上げ、バウンドドックの頭部ごとゴブリンの胸を同時に貫いた。
タイサが持つ右の獲物、その柄に向かって二色の血液が垂れてくる。タイサが騎兵を引き抜くと槍の血を地面へと払い、周囲の状況を確認した。
「まだ生き残っている者は丘の学校へ向かえ! ここを放棄するんだ!」
隣街に駐留している騎士団が、避難してきた住民達から事情を聴き、準備を始めてここへと到着するまでに丸一日。どんなに早くても明日の早朝から昼になる予定。最悪、隣町の援軍を待つ前、つまりゴブリン達に街を包囲される前に、全ての住民を街から脱出させなければならない。
タイサは騎槍と盾でゴブリンやバウンドドック達を追い払いつつ、この後の展開を考え始めた。
「隊長! 生き残った住民達の避難がほぼ終わりました!」
大通りの下り坂を走り抜けながらバイオレットがタイサに報告する。
そこに―――
タイサに近付くバイオレットのすぐ横、木造建物の隙間からバウンドドッグに乗ったゴブリンが現れ、そのままバイオレットへと飛びかかった。




