⑫アリアス防衛戦 -救出-
「隊長! ここからは俺が!」
「すまん!」
タイサの横を土に汚れたボーマが通り過ぎる。彼は迫り来るゴブリン達の先頭を走る一匹の顎を太い足で蹴り飛ばすと、盾と騎槍を左右に大きく振り回しながら立ち回り、追撃して来たゴブリン達の足を順々に止めていく。
「ルーキー、しっかりしろ! まだ声は出せるか!?」「………は、い」
彼が引きずられていく度に、後に残る崩れた草の上が数本の赤い線で染まっていく。
「………クソったれが」
完全にしてやられた。
タイサの頭の中では、未だ混乱が続いている。だが、それでも今は仲間の窮地を救う事を先決しなければならないと、残された思考の容量を使い、最短で最効率な手段を模索し続けた。
ボーマの咄嗟の働きで、タイサ達とゴブリンとの距離はだいぶ稼ぐことが出来たが、タイサがルーキーに声をかけていく度に、彼の声は反応が鈍く、遅くなり、小さくなっていく。
「隊長!」
タイサとルーキーの下に、馬に乗ったエコーとバイオレットが到着する。
「エコー! ルーキーをお前の馬に乗せるぞ!」
「はい! どうぞっ! いち、にぃ、さん!」
掛け声と同時に、タイサはエコーの助力を得ながら、彼女の馬の後方にルーキーを布団のように乗せる。彼の浮いた足からは今でも血が垂れ続けているが、ここではどうしようもない。
「ルーキーを連れて全員で一旦下がるぞ! もうこの方法は使えない!」
まさか人間と同じ様に、長槍を構えられるとは、タイサは予想もしていなかった。蛮族がここまで組織的に、しかも的確に相手の弱点を突いて戦った事など一度もない。
タイサは湧き出る疑問を無理矢理抑え込み、首を左右に振る。
「隊長、すまねぇっ! そっちに何匹か抜けちまったっ!」
十数匹を相手にしていたボーマが限界を迎え、大声で叫んだ。
彼一人で、全てのゴブリンを受け止めるのは不可能に近い。ゴブリンの数匹が、ボーマを無視する事を選択し、彼を大きく迂回する様に左右に走り込み、タイサ達に向かって来た。
「私が行きます!」
タイサの後ろから声が響くと、そのまま横を通り過ぎるように、バイオレットが馬を走らせる。彼女は、追撃してくる数匹のゴブリンに向かい、持っていた剣を掲げながら馬ごと突撃を仕掛けた。
「バイオレット! 待て待て待てっ! あぁ、もうクソっ!」
予定外。いや、彼女の性格を考慮すれば予想された行動。彼女への指示を後回しにしていたタイサは、拳を握り締めながら感情を無理矢理抑え込み、急ぎルーキーの腕に手を伸ばした。
「エコー、お前は先に戻れ! あの馬鹿は俺が連れて帰る!」
「は、はい!」
タイサは意識が朦朧としているルーキーの腕から血まみれの盾を外すと、それを自分の右手に巻き付け、彼女の後を追いかけた。




