⑪アリアス防衛戦 -流転-
「全騎、構え!」
タイサと共に、前列が盾と騎槍を前へと構え、馬の速度を徐々に上げていく。
その時、側面を守っていたゴブリン達が慌ただしく動き始めた。
ゴブリン達は慌てふためて霧散する訳でもなく、貧相な盾を構えて待ち受ける訳でもない。ゴブリン達は盾の裏から短剣を取り出すと、盾を持たない中央のゴブリンが持っていた長い棒の先端に装着、一瞬にして十数本の長槍を作りあげた。
そして長槍の柄の部分を地面に突き刺し、剣先をタイサ達に向けると、それらが動かないように複数のゴブリン達が囲むように柄を握り、膝をついて固定させた。
「―――まずい! 全騎停止! 急いで止まるんだ!」
蛮族達が作り上げたものの意味を把握したタイサが形振り構わず大声で叫び、構えていた騎槍を掲げ、左右に激しく振りながら何度も合図を送る。
―――長槍。
それは、騎馬の天敵とも言える武器だった。それを地面に突き刺して斜めに待ち構える姿は、歩兵が騎馬による突撃に対抗するための方法と同じ陣形であった。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ルーキーの馬が速度を落としきれずに止まり切れない。彼は慣性に負けて、馬上からゴブリンの群れに頭から突っ込んだ。
停まった馬が、粗末な長槍に次々と首元を貫かれて絶命する。ルーキーが空と地面の向きを確認し終える頃には、小柄なゴブリン達に包囲されていた。
「えぇぃ! 畜生めがっ!」
同様に止まり切れなかったボーマは馬を諦め、ゴブリンの群れに入る直前で自分から横へと落馬する。
最悪の展開となった。
タイサは即座に馬から飛び降りると、全力でルーキーのもとへと駆け抜ける。
「エコーはボーマを! 俺がルーキーを引きずり出す!」「は、はいっ!」
エコーの返答を待たずに、最短距離の延長線に立っていたゴブリンを、盾と騎槍でタイサが弾き飛ばす。
「た、隊長! 助けてください!」「ああ! 今行くぞっ!」
既にルーキーの体に数匹のゴブリンが乗り上がり、朝日が反射して雑に光る短刀を、彼の鎧やその隙間に向けて次々と振り下ろしていく。
「痛い! いだいいだいいだいぃぃぃっ! やめっ! 助けぇぇぇ! 隊長ぉぉぉ!」
「ルーキーっ! こいっ、つらぁぁ! 邪魔だぁぁぁっ、どけえぇぇぇぇっ!」
タイサがルーキーに群がる無理矢理ゴブリン達の中に割って入る。左腕の盾で前方のゴブリンを引き剝がし、騎槍で側面のゴブリンの頭を貫いた。
「た………隊、長」
ようやく見る事ができたルーキーの体は、鎧の半分が赤く染まり、その隙間から赤い血が流れ続けていた。
「しゃべるな! くっ、引っ張るぞ!」
タイサはすぐさま彼の鎧の襟を掴む。ルーキーは歯を食いしばり、苦痛な顔を浮かべるが、気にする暇はない。そのまま引きずる様にしてエコー達のもとへと移動し始めた。
だが、ゴブリン達も黙って獲物が逃げる事を待ちはしない。タイサとルーキーに向かって、十数匹の小さな体が一斉に迫って来た。




