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Lost19 底辺の隊長と呼ばれた男  作者: JHST
第三章 西部巡回警備
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⑤教科書と方便

「ボーマ先輩。それはつまり、他の騎士団も不正を働いているということですか?」

「いや、具体的にどことまでは分からねぇけどさ」

 上手く流して終えるつもりだったボーマが、藪で蛇を突く結果となった。


 だがボーマの言っている事は、半分未満が間違いだが半分以上は合っている。

 騎士団が遠征任務で必要とされる物資の内、任務で明確に必要なものは申請によって現物が支給される一方、宿代を含む現地活動で必要な資金は明確に決められない為、単純に人数と日数によって計算されている。

 単純が故に支給される資金は結果として不足しがちとなり、騎士達が自腹を切る事も珍しくない。おまけに騎士団の任務は多種多様である事から、使い道に明確な基準が定められず、騎士団憲章には『任務に必要な場合にのみ使用する』とだけが記載されている。

 その為、昔から残った資金を『前に自腹を切った分』と称して、自分の懐に入れる行為が度々行われていた。大胆な時は、貴族出身の騎士が、自分の家が運営する施設に泊まったり、自分の領館に泊まり、宿泊費を丸ごと横領したりする噂も絶える事がない。

 ただ証拠がない為、そして何より王国騎士団の名誉の為、余程大きな話題にならない限りは放置されてきたのが実態である。


 そう考えると、貴族出身のバイオレットが不正を疑う事に、半分呆れつつも半分嬉しくもあるような複雑な感情がタイサの中で渦を巻く。

 その上で、タイサは腕を解き、ゆっくりと口を開いた。

「結論から言うと不正ではない。私はこれは任務上必要な経費だと考えている」

 彼女は思った以上に誠実である。だが、今の彼女の立場ではその性格が、反って危険な事に巻き込まれる可能性がある。タイサは、世間知らずな新人に最低限必要な事は今の内に教えておこうと決めた。


「………どのような理由で、でしょうか?」

 案の定、バイオレットは先程の言葉だけでは納得できずに説明を求めてきた。

 タイサは両手をやや開くようにして、分かりやすく説明を続ける。

「任務を十分に遂行するには部下の心身に気を配らなければならないと私は考えている。非常食ばかり食べてきた兵が、劣悪な環境で睡眠をとった兵が十分に任務を果たせるだろうか」

 答えは否である。

「私は精神論だけ唱える蒙昧な人間にはなりたくはないし、贅沢な生活を当たり前とするような傲慢な人間にもなりたくはない。だが少なくとも、貧しくもなく贅沢でもない範囲で部下を労う義務が団長にはあると感じているが、どうだろうか?」

 今日泊まる宿は王国騎士団に登録された施設。酒もなく食事はせいぜい中の上。銭湯も誰もが利用している大衆浴場であり、資金も役職や経歴に関わらず部下全員に等しく分配している。それで今日の疲れが癒え、明日の気力に繋がるのならば、資金の使用する理由としては十分に意味があるとタイサは説いた。


「俺の団はこうやって任務を遂行してきた。もし納得できないというなら………そうだな、団長命令だと思って諦めてくれ。不満があるのならば、王都に戻り次第、王国騎士団の本部に報告しても構わない」

「………分かりました」

 バイオレットはそれ以上反論せず、理解はしたとだけ意思表示をし、積まれた銅貨の束を無言で受け取った。

 タイサは肩をすくめながら小さく笑うと、エコーに視線を送る。それに気付いた彼女はバイオレットの肩に手を置き、銭湯の準備をする為に一緒に部屋に戻っていった。



「………いやぁ、隊長も大変ですな」

 ボーマが背もたれの悲鳴を無視しながら椅子に体を預ける。

「ボーマ、今から慰めに行けば好感度が上がるんじゃないか?」

 皮肉を込めて笑うタイサの言葉に、ボーマはいやいやと椅子を揺らしながらお手上げの仕草を入れる。

「折角の御助言ですが、止めておきますよ。お堅い女性が柔らかくなっていくのは結構面白いんですが、あれはもう教科書ですね。どのページにも模範解答しか載っていません」

 真面目な話、とボーマが声を一段低くさせる。

「あの娘、本当にウチの騎士団に溶け込めるんですかぃ?」

「さぁな。何はともあれ彼女次第だろう。新人同士、その辺お前はどう思う? ルーキー」

「えっ! じ、自分ですかっ!?」

 突然話を振られたルーキーが自分を指さし、動揺しつつも腕を組んで一生懸命に考える。


「すみません、自分には良く分かりません。でも、取り合えず彼女が一人にならないよう、色々と話しかけていこうと思います」

「「いい答えだ。じゃぁお前に任せよう、ルーキー!!」」

 タイサとボーマがルーキーを指さし、それで行こうと決めつけると天井に向けて笑い声をぶつけてから席を立った。


「もっと、冗談が上手く返せるようになりたい………」

 ルーキーは両手で頭を抱えながら首を振り、テーブル席に取り残された。

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