④新入りは不正行為を見逃せない
エコーが王国騎士団に登録された宿を確保できたお陰で、タイサは浮いた資金で夕食のランクを一つ上げる事ができた。
小さい宿の為、風呂はないが、二軒隣が銭湯になっており、何も問題はない。騎士団『盾』では、宿代は節約しても食事と風呂は手を抜かない。その流儀が分かっているエコーならではの見事な手配だった。
「とりあえず、風呂代を渡しておく」
ほぼ一日中馬に乗っていた疲れを癒すのに十分な肉と野菜を摂取したタイサは、ナプキンで口元を拭き終えると麻袋から銅貨を適当に取り出し、テーブルの中央に十枚づつを積み上げるた束を四本立てる。
「あざぁっす!」「ありがとうございます」
真っ先に手を付けるボーマ、お礼を言ってから受け取るエコー。
「あぁ、風呂代が支給されるんですね。ありがとうございます」
初めての事に驚くルーキーが、続いて銅貨の束を手にした。
だがバイオレットだけが目の前に積み上がった銅貨を見たまま動かなかった。
「どうした?」
タイサの言葉に、残りの三人が彼女に目を向ける。
バイオレットは、全員の視線を受けてもなお表情を変えず、自分の言葉を口にした。
「隊長。このお金は騎士団に支給されたものですか? それとも隊長の個人的なお金ですか?」
その質問を受け、エコーとボーマが静かに顔を合わせる。
「………騎士団で至急された旅費の一部だ。それが何か問題か?」タイサは迷う事なく答えた。
バイオレットはタイサの答えに一瞬驚くと大きく息を吸い、あからさまに吐き出した。
「はい。騎士団で支給された金銭は任務に対してのみ使われる事になっています。騎士個人が利用する銭湯の代金として用いることは、やや適性を欠いていると思えます。それに見た所、我々が食べた食事の量や質が他のテーブルよりも良い物だと感じます。食べてから言うのもなんですが、この食事代も騎士団の資金から支払われたのですか?」
彼女の声はタイサを追求するような強さはなく、部下の立場として上司に進言できるだけの声と表情に留めていた。
タイサはそんな彼女の言葉に耳を傾け、腕を組みながら最後まで聞いている。
そこにボーマが笑いながら彼女に手のひらを見せた。
「それくらいいいじゃないか、バイオレット。どこの騎士団でも、これくらいやっているぜ? むしろもっとやってる所だってある話だ」
これ位で、けちけちするな、とボーマは遠回しに伝えようと、敢えて軽い口調で空気を和ませる。




