②杞憂か、それとも
「隊長!」
ボーマが後ろから叫んだ。
「これから向かうアリアスの街ですが、隊長は行った事があるんですかい?」
目的地であるアリアスは、王都西部に存在する小規模の街で、王都から二つ程大きな街を抜けた先にある。森に囲まれたのどかな街で、観光としては弱いが、南の山脈を越えた旅人にとっては憩いの、これから越える者達にとっては最後に準備が行える宿場町として成り立っている。
「そうだな。若い時に二、三か月程ギルドで世話になった事がある。食事と酒、ベットに関しては保証できるぞ」
後ろを向いて答えるタイサの言葉に、ボーマは右腕を振り上げて拳を握り、にやりと笑う。ルーキーも含め、何を考えているかは容易に想像できたが、誰も声を掛けようとはしなかった。
「そういえば、あの森での被害報告は、あれからないようですね」
以前にゴブリン達と戦った森の道に差し掛かり、エコーが周囲を警戒しつつ呟いた。
「まぁ、しばらくは大丈夫だろう」
タイサは丁度この辺りだと鼻を動かしてみるが、特に嫌な匂いは感じられない。
本部に報告していないが、タイサは地面に散乱していたゴブリン達の死骸を、左右の森の奥に放り投げている。
その時は、何故そんな事をと、ゴブリンの肉片を平然と掴んで放り投げる隊長の姿に、平民上がりのルーキーが青ざめ怯えながら尋ねていたが、冒険者の中ではよく見られる光景の一つである。
蛮族達は良く言えば慎重で、悪く言えば臆病だ。
仲間の死骸が散乱していれば、しばらくの間その場所には近付かない事が多い。さらに上位のオークの頭が一緒に転がっていれば、効果は絶大となる。
だが、もし組織的に蛮族が動いているならば、この方法では通じないはず。そう考えて、タイサはこの道を敢えて選んで進んでみたが、蛮族どころか人間の賊すら潜んでいる気配がない。
「やはり、考えすぎだったか」
小さく呟くタイサの中で、一つの不安材料が減る。
さらに一時間ほど森の中を、抜けて草原をもう一時間ほど進むと、最初の街が見えてきた。日の高さから時間はまだ昼過ぎ、昼食としては遅いが宿泊にはまだ早い。
タイサは振り返って全員に聞こえる声で叫んだ。
「ここで昼食と休憩を取る! 副長、俺は騎士団の屯所に報告をしてくるから昼食の確保を頼む。昨日の約束の代わりとはならないが、今回は外で食べるとしよう」
「分かりました」エコーが少し笑って返す。
そのまま続けてタイサの声が響く。
「昼食前に一時間の休憩を取る。それまでには屯所前に集合、その後副長が用意した昼食を済ませ、すぐに出発する! 日が完全に沈む前までには次の街に行くぞ。途中で休憩は取らないつもりだから、全員済ませるものは済ませておけ」
「「「「了解!」」」」
タイサが先頭になって馬の速度を上げ、エコー達がそれに続いて街を目指した。




