序章④
タイサの右隣についたままの新入りの短く激しい息が、離れているにもかかわらず耳に入ってくる。
タイサは騎槍を持つ右手で彼の兜を数回ノックした。
「心配するな新入り。俺の所じゃ、新入りが初陣で死んだ事は一度もないんだ」
「は、はい!」
それでも新入りの表情は変わらない。彼は目を強く閉じる様な瞬きを何度も繰り返し、弱めに噛んでいる唇を僅かに震わせている。タイサは今にも泣き出しそうな新入りの顔を見て小さく笑うと、持っていたランスを高く掲げ、前方へと突き示した。
「敵はゴブリンだが油断はするな! それに今日はジャックの昇進祝いだ、さっさと終わらせるぞ!」
「「「「応!」」」」
タイサを先頭に、五人の騎馬が街道を塞ぐ様に走り抜けた。
ゴブリン達との距離は馬の全力駆けで二分もかからない。それだけの距離だというのにゴブリンがタイサ達に気付かなかったのは、この街道の一部が急勾配のある丘状になっており、盛り上がった道によって遠方の様子を視認できなかったからである。
タイサはそれを利用しつつ、相手の注意を逸らす為の荷物を囮とした作戦を実行した。
ゴブリン達からして見れば、奇襲に成功して荷物を漁っているだけである。そのゴブリン達も、複数の馬が駆ける音に気付いてようやく辺りを見回し始めたが、その判断はあまりにも遅すぎた。
「突撃!」
タイサ達が率いる騎馬は、騎槍を持った四人が全て前方へと集結して鏃を形作りながら道を塞ぐ。そして彼らは馬を走らせたまま前傾姿勢を維持すると、ランスの先端を馬の顔よりも前へと突き出した。




