⑭一通の命令書
「あとは変態が一人だ。以上、俺を入れて五人の………」
「うぉぉぉぉぉぉぃ! 隊長!」
文句のないタイミングで、ボーマが泣きながら膝から崩れ落ち、タイサのマントにしがみついてくる。
「駄目だ駄目だ! お前は危険すぎる!」犬を追い返す様にタイサが手で払う。
「そんな事ないですよ! 自分にも同じ様に紹介してくださいよ!」
お願いしますと汗にまみれたむさくるしい顔で懇願される。タイサは引きつり嫌な顔を作りながらも、仕方がないと息を吐き、この流れを見ても無反応で無表情なバイオレットに変態を紹介する。
「えーと、ボーマだ。この騎士団の中では最古参だが、見ての通り女性受けはすこぶる悪い。慣れるまでは近付かないように」「隊長ぉぉぉぉぉぉう!」
ボーマの発言も握手も許さず、タイサの一方的な紹介で終わる。何か言う事を考えていたのか、それとも握手できる事を期待していたのか、ボーマは再びその場で膝をついた。
この騎士団の相変わらずな流れに、エコーもルーキーも笑っているが、バイオレットはどうしていいか分からず、とりあえず打ちひしがれているボーマの前で小さく一礼すると、薄い表情のままゆっくりと後退し、距離を取った。
タイサはここからだと手を二度叩き、全員の視線を自分に向けさせる。
「さて今日の午後からだが、新人が入ってきた事でまずは恒例の街の巡―――」「団長、実はこれを預かっています」
話の骨を見事に折ったのはバイオレットだった。彼女は上着の裏から、紐で丸められた羊皮紙を取り出すと、それをタイサに手渡した。
「クライル宰相閣下より、タイサ団長に、との事です」
「………はい?」
直接宰相からとは思い当たる節がない。タイサは目を大きくしながら羊皮紙を広げ、上から流すように読み始める。
「団長じゃない。隊長と呼ぶんだ、バイオレット。ここじゃぁそう言うルールだ」
いつの間にか立ち直ったボーマが鋭い目と渋い声で決める。鼻をすすらずに言えていればそれなりに様になっていたに違いない。
だが、冗談に繋げられる空気は生まれず、タイサの顔は徐々に険しくなっていった。
エコーが真っ先に気付く。
「隊長、何かありましたか?」
「いや、そうではないが………念の為、宰相府に行って確認を取ってくる。エコー、急で悪いがバイオレットに用意した装備の支給を。ボーマとルーキーは手配した馬に荷物を載せておけ、一応二日、いや三日分の食料と水、それと医薬品もだ、不足分は新たに申請して積んで構わない」
「分かりました」「うぃっす」
副長のエコーとボーマが、何も言わずに即答する。
雰囲気ががらりと変わった。
新人相手にふざけていたボーマも、タイサの指示を聞くやすぐに表情を切り替え、丸みを帯びた顎に手を置きながら不足分の物資の量を経験から導き出す。流石のルーキーも、多めの食料や水が必要になると聞き、彼なりに疑問を持ったようだ。ボーマの指示をいつでも聞けるよう、彼の傍で静かに立っている。
「それにしても随分と荷物が多いですな、隊長。一体何が書いてあったんですかぃ?」
最古参らしく、ボーマが副長よりも先に尋ねた。
タイサは羊皮紙を丁寧に巻き戻すと、その紙で何度も額を小突きながら頭の中を整理する。
そして短く答えた。
「西部方面の巡回警備だ」




