序章③
「隊長。情報通りゴブリンですよ。数は五匹。奴ら、俺がワザと落とした荷袋を開けて、道のど真ん中で盛り上がってる最中です。やるなら今ですね」
副長はタイサに報告しながら馬を降りるとすぐに革の鎧を脱ぎさり、太った騎士から銀の鎧や盾を手際良く受け取るや、急ぎ着替えを始めた。
馬から降りた副長は、馬上のタイサ達から見るとつむじが良く見える。臆病な新入り騎士の六割程度の身長しかない彼は、飲み屋に行く度に事情を知らない善人達から飲酒を窘められ、その度に本人は怒り狂い、周囲から笑われている。
「そういえば………副長はこの作戦が最後でしたね」
彼の着替えを待つ中、褐色の女性騎士が寂しそうに呟いた。
「えっ? あ、そうなんですか?」新入りの騎士が目を大きくさせる。
「ああ。副長は来週から『剣』の騎士団に異動するんだ。しかもいきなり小隊長扱いの引き抜きときた、すげぇだろ?」
太った騎士が自慢気に、さも自分の事の様に二人の会話へ入り込んだ。
「しょ、小隊長!? 本当ですか? こんなっ、あぁ………えぇ、と」
新入りがはっと細長い指で自分の口を抑え、視線を左右に送る。
「こんな底辺の騎士団でも………かい? まぁ、言いたい事は分かるけどね」
銀のグリーブを履き終えた副長がつま先や踵で地面を数度蹴りながら肩をすくめて笑う。そして彼は、地面に突き刺していた盾を左腕に通すと、勢いを付けて馬の背中へと乗り上がった。
「隊長。お待たせしました」
童顔な副長の言葉と同時に、新入り以外の騎士の顔付きが一斉に変わる。
「よし、戦闘準備」
銀の兜を深々と被り直しながらのタイサの一言に、太った騎士と褐色の騎士がタイサの左右に広がり、盾と騎槍を構えた。その動きを確認した副長は、腰に掛けてあった片手剣を鞘から抜くとタイサの後背へと馬を動かす。
新入りの騎士も先輩達を真似ようと遅れて盾と持っていた騎槍を構えた。




