②無法者
「手続き自体に問題がない以上、受け入れるしかないだろうよ」
最後に残った牛乳を飲み干すと、タイサは自分の食器とカエデの空になった食器を持ち上げ、台所で洗い物を始める。食事を作った者と洗う者は別々にする事。十五年前に両親と死別してから兄弟で決めたルールの一つである。
「カエデも、食べ終わった皿を持ってこい。洗って―――」
「ちゃぁーっす。おっじゃましまぁ-す」
扉が勢いよく開けられ、朝から陽気で煩い声が響いた。
「あ、ギュードさん。おはようございます」
「はい、カエデちゃんおはよう! 今日も可愛いね! どわっ!」
突然家に入ってきた黒と灰色の服を纏った胡散臭いチンピラ男を、タイサは台所の水で濡れた手のまま扉を押して挟み込む。
「ちょっと、タイサ! 何すんだよ!」
「じゃっかやしい! いきなり人の家の扉を開けるな! ノックしろ、ノォック!」
「わぁぁったよ! すりゃぁいいんだろ、すれば!」
ギュードが両手を上げながら素直に出ていき、扉が閉まる。
タイサは瞬時に扉の鍵をかけた。すぐさま木の扉を叩く低い音が二度鳴ったが、タイサは腕を組んだまま不動に徹した。
「ちゃぁーっす。おっじゃましま-す」
扉が勢いよく引かれ、朝から陽気で煩い声が響いた。
「待てぇぇぇぇぇい!」
タイサが再び扉を閉めようと体を押し込んだが、今度はギュードも扉に足を入れて抵抗してくる。
「何だよ、ノックしただろう?」
「違うわ! 鍵がかかってただろうが、鍵が!」
鍵が開いた音すらなかった事に、タイサは今更ながら気が付く。
「いやいや、鍵って。こんなの鍵の内に入らないって!」
「ぐぬぬぬぬ……」
彼の本職だけあって、鍵開けはお手の物なのだろう。ギュードは扉越しに顔を出すと両手の指をひらひらとタイサの顔の前で動かしながら小馬鹿にした笑いを見せた。
次は扉の留め具すら外しかねない。タイサは舌打ちしながらも、止む無く渋々目の前の無法者を家に招き入れるしかなかった。
「あ、俺ご飯は食べてきたから」
「どっちにしても、お前の分はねぇよ」
不愛想に返すタイサだったが、ギュードが来た事でタイサはその意味を理解する。
カエデの分も含めて食器を洗い終えたタイサは、近くのタオルで手を拭き、居間に置いたままの荷袋を担ぐと、すぐに出かける準備を済ませた。
「じゃぁカエデ、仕事に行ってくる」
「兄貴。気を付けて」「おう」
タイサは最後までカエデに手を振っているギュードの襟を掴みながら家を出た。




