序章②
「団長、本当に出たんですか? その………ゴブリンが」
タイサの後ろについていた背の高い騎士が、さらに馬を近付ける。
おどおどと話しかけてきた彼は、騎士と呼ぶには銀の鎧と体に隙間ができるほどに痩せており、騎士を名乗るには細長い顔と垂れた目からして臆病な男であった。彼は右手に持っている自分と同じ高さの騎兵用の騎槍と、左腕がそっくり隠れる程の大盾に挟まれながら首を何度も左右に振り、まるで肝試しに呼ばれた子どもの様に怯え、森の中を覗いては物音がする度に目を向けている。
「隊長と呼びな、新入り。うちじゃぁ、そう言う決まりだ」
その後ろから、今度は逆に荷物を詰め過ぎた袋のような騎士が、騎槍の丸みを帯びた槍腹の部分で背の高い男の兜を上から小突いた。王都の出発からまだ二時間しか馬を進ませていなかったが、既に彼が乗る馬だけは他の馬よりも大きく息を切らせている。
「隊長、副長が戻ってきました」
最後の三人目。鎧の隙間から僅かに見える褐色の肌の騎士がタイサの右側に馬を並べ、細い指を道の先へと向けた。三人の中では最も騎士らしく背筋が伸び、さり気なくも常に鋭い視線で周囲を伺っている。細身ではあるものの、その整った姿勢と振る舞いは、騎士の証である銀鎧を身に付けてさえいれば、多くの者が性別を間違える事だろう。
彼女が指した方向からは、馬の速度を調節しながら後ろを数度振り向き、こちらへと向かってくる一人の青年が見えた。褐色の女性が副長と呼んだ彼は、騎士を象徴する銀の鎧ではなく、どこの店でも売っているような薄汚れた革の鎧を身に纏い、小柄な体格に合った子どもの様な笑みでしてやったりとタイサ達と合流し、自慢げに報告を口にした。




